町へ行こう
ヒランヤは俺と自分の分のお茶を出し、椅子に座って自分の分のお茶を一口飲むと、
言った。
「食器や家具は揃っているんですね」
「ああ。この家を建ててくれたひとが、おまけで作ってくれたんだ」
「そうなんですね。だから木製の物だけ揃ってるんですね」
ゲバンたちには今度、何かお礼をするとしよう。
しかし、ベッドは相変わらずマットレスがないし、その他の日用品もこの姿だと揃え
られない。自分で作るにしても、技術も知識も工具もない。
そういえば、十二天龍は人間の姿になれるんだったな。
「人間の姿になるにはどうしたらいいんだ」
「強く念じるだけです。元々備わった能力なので、慣れれば簡単にできると思いますよ。
練習してみてください」
体の大きさを変えるのと同じ感じだろうか。後でやってみよう。
俺が「わかった」と言うと、ヒランヤは言う。
「人間の姿になって、自由に町に入れるようになったら、ハンターになるのはいかがで
すか。依頼をこなせば報酬でお金も手に入りますし」
「それはハンターズギルドに登録しろってことか」
「あら、ご存じなんですか」
「まぁな」
やっぱりあったハンターズギルド。まぁ定番だし、登録してお金を稼ぐのも悪くない。
ヒランヤは言う。
「それでは明日、わたしが迎えにくるまでに、人の姿になれるようにしておいてくださ
い」
「……」
そこで俺は思った。なぜヒランヤはそこまでしようとしてくれるのだろうか。そもそ
もなぜ急に、俺と接触したのだろうか。
隠す必要などない。俺はそのままヒランヤに訊いてみた。
「ところで、なぜ今日家に来たんだ? 何か用があったんじゃないのか」
「それはですね……」
そこで、ヒランヤは溜めた。何かあるのか……。
「まだ秘密です」
なんやねん。
その後、ヒランヤはお茶を飲み終わり、
「それでは、わたしは帰ります」と言って、帰って行った。
帰り際に、
「ひとになる練習、頑張ってくださいね」と言い残して。
ヒランヤが帰った後、言われた通り人になる練習をしてみた。するとあっさりできた。
しかし……全裸だった。
これでは、別の意味で町には入れないな。
翌日の朝、お茶と豚猪で作っておいた干し肉で、朝食をいただいた。
その後、少しのんびりしていると、ドアノッカーの音が聞こえてきた。おそらくヒラ
ンヤだろう。
玄関のドアを開けると、やはりヒランヤだった。
「おはようございます。人にはなれましたか」
「ああ、なれたぞ。全裸だったがな」
「そうだと思って、はいこれどうぞ」
ヒランヤが渡してきた物は、ローブだった。ヒランヤが着ている物と違って、前が開
かない形状ので、丈の長い黒いローブだ。これを着れば――まぁ色々隠せるか。
ヒランヤはこれを予見して、明日来ると言ったのだろうか。
俺は、
「着替えてくる」とヒランヤに言い残し、家の中に戻った。
人の姿になり、ローブを被る。これでモザイクはかからないだろう。
玄関に戻ると、俺は思った。そういえば靴がない。町に行ったら靴も買わなければ。
……あ、金ないや。
ドアを開けると、ヒランヤは俺の姿を見るなり言った
「なかなかのイケメンですね」
イケメンらしい。しかし残念ながら、鏡がないので自分の姿を確認できない。
ヒランヤはそのまま、
「では、行きましょう」と言うので、俺は言った。
「歩いて行くのか? 結構距離あるぞ」
「元の姿に戻って下さい。わたしはあなたの背中に乗ります」
「背中に乗るのはいいが、折角のローブが破けるんじゃないか?」
「大丈夫です。元の姿になってもローブは破けないし、その後人間の姿になっても、ロ
ーブは着たままです」
「なるほど。そういうことか」
「はい。そういうことです」
俺とヒランヤはその後、その話題には触れないことにした。
龍の姿に戻り、ヒランヤを乗せて出発。
ヒランヤは、
「一度乗ってみたかったんですよね」と言った。
その気持ちははわかる。まさか自分が乗せる側になるとは思ってもみなかったが。
プリモの町には、西門と北門がある。
俺は近い方の西門の、少し離れた林の中に降りた。
ヒランヤは俺の背から降りる。
「ここから人の化けて、西門に向かいましょう」
「わかった」
俺は人の姿になり、ヒランヤと共にプリモの町の西門を目指した。