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突然の訪問者

 肉をつまみに酒を飲み、そのまま眠りについた翌日の朝、俺は自宅のドアノッカー音

で、目を覚ました。

 こんな朝っぱらから誰だろう……。俺がこの場所に住んでいることを知っているのは、

ゲバンの所でひとたちだけだ。ということは、その中の誰かだろう。俺はそう思いなが

ら体を起こし、ヨタヨタ歩きで玄関へ向かった。

 玄関のドアを開けると、そこに居たのはゲバンたちではなく、黒いローブを着た女性

だった。

 そのボブカットの女性は、手に杖を持ち、俺に微笑む。しかしその笑顔はどことなく

霊妙な雰囲気を感じる。

 服装や杖を持っていることから考えて、おそらく魔法使いだろう。

 俺が、

「どちら様ですか」と訊くと、彼女は答えた。

「こんにちは。わたしはヒランヤ。近くにある塔に住んでいる者です。お近づきの印に、

こちらをどうぞ」

 ヒランヤと名乗る女性は、手に持つ杖を振る。するとどこからともなく木製のザルに

乗った野菜が現れた。そのザルに乗った野菜は、見たことがあるのだが、どこかが違う。

そう感じさせる野菜だ。

「ど、どうも」

 俺が野菜の乗ったザルを受け取ると、ヒランヤは言った。

「少しお話したいことがあるのですが、中に入ってもよろしいですか」

 ここで俺は思った。もしかしてこのヒランヤと言う女性は、野菜を上げた口実に、俺

に何かを頼みたいのではないだろうか、と……。

 しまった。易々と他人から物を受け取るんじゃなかった。なんて思いつつ、この世界

の野菜に少し興味もある。

 もしかしたら大したお願いじゃないかもしれないし、そもそも俺の考えは杞憂で、特

にお願いしたいこともないのかもしれない。

 取り敢えず、ここでこうしていてもどうにもならない。俺は、ヒランヤを自宅の中に

招くことにした。


 キッチンに野菜を置く。

 ヒランヤを見ると、相変わらず不敵な笑みを浮かべながら、物珍しそうに部屋の中を

観ている。

「随分と人間よりの家ですね」

それは俺が元々人間だからだが、余計なことは言わないことにした。

「ああ。人間が建てた家だからな」

「……そうですか」

 四人掛けのテーブルを挟み、二人共椅子に座ると、ヒランヤは言った。

「……お茶とか出ないんですか」

「そんなものはない。水と酒ならあるぞ」

そもそもやかんも鍋も、我が家にはない。

 ヒランヤは首を振り、

「遠慮しておきます」と断った。そして続けて言った。

「町で買い物とかしないんですか」

「この姿で行ったら騒動になるだろう」

「ひとの姿にはならないんですか」

「ひとの姿?」

何を言っているんだ。俺は竜だぞ。人間ではない。しかし、俺が思っていることを察し

たのか、ヒランヤは言った。

「十二天龍様なら、人間に化けることなど簡単かと。現に人間に化けて、共に生活して

いる十二天龍様もおりますし」

「……十二天龍ってなんだ」

「……なるほど。では、そこから説明しますね」

 ヒランヤは指を立て、言った。

「わたしたちが住むこの世界、エザグランマは、六人の神様によって創られたと云われ

ています。火の神ロッソ、水の神ネロア、風の神ヴェルデ、地の神エーデ、闇の神ザラ

ム、そして光の神ルーチェです。そしてその神々には、使いの龍がいたと云われていま

す。その使いの龍が十二天龍です」

「なるほど。それで、その神様に使えていた十二天龍の一体が俺だと?」

「はい。伝承によれば、十二体の天龍の中で一体だけ寝たまま起きない龍がいたと云わ

れています」

 ……いや、ちょっと待て。そうなると俺はいったいどのくらい寝ていたんだ。

「それって何年前のことだ」

「四十五億年前と云われていますね」

俺、寝過ぎじゃね……。

 俺の年齢が四十五億歳だと判明したところで、ヒランヤは立ち上がった。

「ということで、わたしはお茶を淹れてきます」

「水と酒しかないんだぞ」

「お茶っ葉ならわたしが持っています。やかんも急須も小さいのですが、持ってきまし

た。キッチンお借りしますね」

あるんかい。

 ヒランヤはキッチンへ行くと、薪を取る。そして竈の中に入れると、杖をかざした。

すると、薪が燃え始めた。

 どうやらヒランヤは、魔法使いで間違いないようだ。

 ところで、なぜヒランヤはやかんと急須を持ってきたのだろう。お近づきの印の野菜

とお茶っ葉ならわかるが、やかんと急須は流石に持ってこないだろう。ということは、

我が家にやかんと急須がないのを知っていたのだろうか。

「なんでやかんと急須を持ってきたんだ」

直球を投げてみる。するとヒランヤは答えた。

「町に行ってないなら、やかんも急須もお茶っ葉も、持っていないと思いまして」

確かに、想像に難くないかもしれない。しかし、町に行っていないというのは、今知っ

たことだ。

 俺が無言でいるとヒランヤは察したのか、やかんに水を入れながら、言った。

「……というのは嘘で、実は、ここに家が建ったころから、この家を時々見ていたんで

す。町に行ったのは、昨日一回だけでした」

「つまり、俺のことを監視していたのか」

「いつの間にか山の上に家が建ってたら、誰だって気になるじゃないですか。昨日町の

西門を守ったので許してください」

西門に魔物の焼死体があったのは、彼女が守っていたからか。

 彼女の主張は最もだ。西門に関しては、俺とはあまり関係ないが、折角守ったひとた

ちが被害に遭うのも、後味が悪いだろう。

 俺は彼女を許すことにした。そもそも別に怒ってはいない。しかしヒランヤは続けて、

気になることを言った。

「そもそも監視なんて、千年前からしています」

「千年前?」

「だって四十五億年寝ていたんでしょう」

「いや、そこじゃなくてだな」

「女性に年齢を聞くなんて、失礼ですよ」

いや、自分で言ったんだろ。

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