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魔物の大群

 家に住み始めてから三日後。

 カモリを散策していると、プリモの町の西側の辺りで、何やら作業しているゲバンた

ちを見かけた。

 何をしているか訊いてみると、ゲバンは言った。

「植樹だよ。木材用の木を植えているんだ」

木を植えている? 植えなくても、俺の家の周辺には高い樹がたくさん立っている。そ

こから切ればいいのではないだろうかと思ったが、そのまま訊いてみると、ゲバンは言

った。

「うしろに門が見えるだろう」

ゲバンが指した方向を見ると、木造の門と塀が見えた。

「確かに見えるが、何かの境界か」

「ああ。あの門から先はカモリと言って、聖域と言われている。プリモの町では、聖地

の樹は手を出してはいけないことになっている」

 なるほど。確かに、俺がゲバンたちに会ったのは、門より外側だった。

 俺が目を覚ましたのは、聖域側。それに、現在住んでいる家も聖域側。

 ……そういえば、俺が最初に目を覚ました場所も聖域側だったが、何かが建てられて

いた形跡があった。

 俺はゲバンに訊いた。

「カモリに何か建っていた形跡があるが、何か建っていたのか?」

「カモリに建物? そんなはずは……。そういやぁ、聖域には何かを祀っていたって聞

いたことあるな。何だったかな……」

 ゲバンは、うしろで植樹をしているバオロの方を向いた。

「おいバオロ、何か知らないか」

「いや、俺も知らねぇな。でも、町の考古学者のじいさんが前に、何か言ってたような

気がするな」

「そうか。後で聞いてみるか」

 そんな話しをしていると、ゲバンたちと同じ作業着を着た男性が、慌てた様子で走っ

てきた。

「魔物だ! 魔物の大群が攻めてきた!」

 ゲバンが訊く。

「魔物だと。どこからだ」

「北側からだ。今、領主様の兵や冒険者たちが戦っているが、いつこの西側にも攻めて

くるか……。早く、町の中に避難した方がいい」

 ゲバンは「わかった」と返事をすると、植樹作業中の人たちに言った。

「お前たち、作業を中止して、今すぐに町へ帰るぞ!」

従業員たちは「了解」と返事をすると、荷物を纏め始めた。

 ゲバンは言う。

「悪いなドラゴンの旦那。俺たちは退散させてもらうぜ」

「ああ。わかった」

 ゲバンたちは町に帰って行った。

 ……大丈夫なのだろうか。


 上空から町の様子を見てみると、確かに魔物たちがプリモの町の北側から攻めてきて

いて、町の兵たちと戦っている。そしてその後方に、弓兵や魔法使いや僧侶たちがいて、

前線で戦っている兵たちの援護をしている。

 状況的には……劣勢だろう。おそらくこのままだと、夕刻にプリモの町は、落ちるだ

ろう。プリモの町の兵たちは、この状況を打開できるのだろうか。


 数時間後。

 状況は相変わらず劣勢で、疲弊したり、負傷した兵も増えてきた。これはそろそろ限

界だろう。

 ……しょうがない。行くか。

 俺は急降下し、魔物と兵士の間に入るように、降下した。

 兵士たちと魔物たちの動きが止まる。兵士たちは疲弊しているからか、そのまま動か

なくなった。中には絶望した表情の者いる。俺が魔物の加勢だと思っている者がほとん

どだろう。

 魔物たちが動き出す。俺に構わず人間目がけて。

 取り敢えず俺は、翼を羽ばたかせ、魔物たちを吹き飛ばし、兵士たちと魔物を引き離

す。

魔物たちのヘイトを買ったことにより、魔物たちの視線が俺に向いた。

 魔物たちが一斉に、俺目がけて襲いかかってくる。俺はそこに火を吐いた。

 加減はしたが、いつもより強めに火を吐いた。すると火は火球になり、飛んで行く。

 俺は驚いた。火を吐いて魔物を燃やすつもりだったが、火球になったブレスは地面に

着弾し、着弾地点が爆発した。

 魔物どもは燃え、吹き飛ぶ。石畳の舗装された道も剥がれてしまった。

 強めに火を吐くと、こうなるのか……気をつけよう。

 その後も、翼を羽ばたかせてヘイトを買いながら、兵士に近づかせないようにしつつ、

火を吐いて、迎撃していく。

 火球の爆発で地面が抉れていくが、背に腹は代えられない。俺は構わず、火を吐いた。

 それから数分間、魔物たちと戦い続けた。

 魔物たちの勢いは徐々に収まり続け、最終的に烏合の衆と化した魔物たちは、逃げ出

していった。

 戦いは終わった。いや、かなり一方的だったが。

 俺が帰ろうとすると、後方にいた、かなりお年を召した魔法使いの男性が、俺に向か

って言った。

「眠り龍様……眠り龍様じゃ!」

 眠り龍? なんだそりゃ。確かによく惰眠を貪っているが。

 魔法使いのお爺さんは、膝を付き、まるで祈るように言った。

「眠り龍様。なんなりとご要望を。この私の命でよろしければ、喜んで差し上げましょ

う」

そんな物はいらん。いったい俺をなんだと思ってるんだ。

 ……そうだ。それならこうしよう。

「塩をくれ。あと酒」

「えっ?」

魔法使いのお爺さんと、様子を窺っていた兵士たちは皆、素っ頓狂な顔をした。


 瓶に入った塩と、樽に入ったお酒を持ち、俺は自宅に帰る。

 帰りに、町の西側の周辺に魔物の焼死体が見えた。俺が燃やした魔物が、ここまで逃

げてきたのかもしれないが、流石に距離があり過ぎる。いったい誰がやったのだろうか。

 ……まぁいいか。そんなことより、俺は早く帰って、豚猪の肉を焼き、塩を振って、

それをつまみに樽酒を楽しむのだ。


 次の日、自宅のドアを誰かが叩く音で、目を覚ました。

 俺は自宅の床で寝ていた。なぜなら、ベッドにはまだマットレスもシーツも布団もな

いからだ。

 昨日食べた、塩を振った豚猪の肉はうまかった。樽酒もうまかった。が、流石に肉

ばかりで飽きてきた。そろそろ米が食べたい。

 体を起こし、玄関へ。ドアを開けると、そこには魔女っぽい女の人が立っていた。

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