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小竜奪還

 お茶を飲み、一服し終えたヒランヤは、俺たちを連れて家の外に出た。そして辺りが

見渡せる崖の手前で止まった。

 俺はヒランヤに確認した。

「そんなにのんびりしていて大丈夫なのか。小竜が捕らえられてたとしても、もう遠く

に行ってるんじゃないのか」

「大丈夫ですよ。この周辺にはピックボアやルナウルフがいますから、そう簡単には聖

域を出られません」

ルナウルフは知らんが、ピックボアはあの豚猪のことだろう。そんな名前だったのか。

俺が勝手に呼んでいる豚猪もそうだが、どちらにしろそのまんまの名前だった。

 俺はヒランヤを否定した。

「そう簡単には出られないって、あんなの足止めにもならないくらい弱いだろう。ほぼ

毎日狩って、干し肉にしたり、焼き肉にしたりしてるぞ」

「いえ、あなたが規格外なだけで、普通の人間からしてみれば結構な強敵なんですよ」

そうなのか。それはすまない。

 ヒランヤが、

「それでは始めますね」と杖を構える。そして唱えた。

「ライフサーチ」

ヒランヤが魔法を唱えると、周りに魔法の粒子みたいな物が見える。少しすると、ヒラ

ンヤは言った。

「いました。ここから西側に七体。魔物のような反応が二体に人間の反応が五体の反応

があります」

「わかった」

どうやら嫌な予感は的中していたようだ。

 俺は龍の姿になり、飛び上がった。


 西に向かって飛び、小竜を探していると……居た。

 樹々のない少し開けた場所で、ヒランヤが言った通り人間が五人とピックボア一体、

それと檻に入れられた小竜が居た。

人間たちはピックボアと戦ってる。が、状況から見て、苦戦しているようだ。戦士っぽ

い男性二人と魔法使いっぽい女性はピックボアと戦っているが、顔が引き攣っているし、

もう一人の魔法使いっぽい男性は重傷を負い、倒れている。

 ピックボアと戦っているパーティーの後方に、何人か人が乗れるくらいの馬付きの荷

車があり、その後方に御者らしき人が蹲り、震えている。

 小竜は荷台の上の檻に入っていて、「ギャーギャー」と鳴いている。ついでに馬も鳴

いている。

 さて、どうしたもんか。おそらくこのまま放っておけば、ピックボアが密猟犯を殺し

てしまうだろう。が、それでは後味が悪い。止めに入った方がいいのだろうか。しかし

今の俺は龍だ。人間の方だけ肩入れするのもな……。

 俺が無駄に悶々としていると、エテルニアがピックボア目がけて飛んで行き、爪でピ

ックボアを撫でた。するとピックボアの体は引き裂かれ、体から血が噴き出し、その大

きな巨体はその場で倒れた。

 ピックボアの脅威が去った人間を見ると、みんな固まっている。

 魔法使いの女は、尻餅をついた。

「あ、ああ……」

どうやら言葉にならない様だ。

 エテルニアは淡々と言った。

「龍の子を置いて去れ」

「あ、あああ……ああああああああああぁぁぁぁ!!!」

三人は重傷の魔法使いを引き摺り、奇声を上げながら去っていった。

 さて、あとは御者だが……あれ、いない。というか荷車もない。

 どこからか小竜の鳴き声が聞こえる。

「ギャーギャー!」

鳴き声の方を見ると、御者はいつの間にか荷車に乗り、馬の尻を叩いて逃げている。

「この龍の子どもを売れば、死ぬまで楽に暮らせるんだ。諦めてたまるか!」

今死んだら意味ないと思うぞ。

 俺は飛び、御者の前に降り立った。すると馬が驚き、急停止した。しかし御者は諦め

る気はないようだ。

「ひ、引き返して……」

しかし残念ながら、後方にはすでにエテルニアが来ていた。

「ヒィ……」

俺は御者に言った。

「万事休すだな。諦めろ」

御者は意気消沈し、俯いた。

「うう……」

 御者を捕まえたところで、ヒランヤが箒に乗ってやって来た。

「どうやら無事救出できたようですね。町から兵士さんを連れて来ましたので、逃げた

人たちも含めて捕縛してもらいましょう」

「そうか。それなら俺らは邪魔だな。小竜を連れて、先に家へ帰っているよ」

人間の前に迂闊に出てはパニックになりかねない。俺はエテルニアと小竜を連れて、自

宅へ先に帰ることにした。そのつもりだった。しかしヒランヤは否定した。

「小竜は駄目です」

「え? なぜだ?」

「証拠品ですから。兵士を呼んだ以上、証拠品は確認してもらわないと。それに公的に

処理されないと、隣国に何を言われるかわかったものではありません」

なるほど。ヒランヤは後々の面倒を先に片づけておきたい。そのために、公的に処理し

たいわけか。

「わかった。俺はエテルニアと先に帰ってる。あとはまかせるぞ」

「はい。おまかせください」

 エテルニアは心配そうな顔をしたが、了承した。

 最後にヒランヤは言った。

「そんなに時間はかからないと思います」

「わかった」

俺は了承すると、エテルニアと共に家へ帰った。


 自宅のリビングに戻ってきた。

 エテルニアはどこかそわそわしている。

「本当に大丈夫なのだろうか……」

「大丈夫だ。ヒランヤは頭が切れるし、町での評判も権力もある。上手くやるだろう」

それに、聖域の小竜に手を出すほど、プリモの町の兵は愚かではないだろう。

 エテルニアは言った。

「あの人のことを信頼しているんだな」

「なんだかんだ、色々世話になっているからな」

しかし、言うほどよく知らない。

 外を見ると、空がオレンジ色に染まってきた。

 静寂が訪れる。

 あれからおそらくニ、三時間は経っているだろう。もしかして、今日は帰ってこない

のだろうか。

 無音の中、急に玄関のドアが開く音がした。そしてヒランヤの声が聞こえてくる。

「ただいま戻りました」

戻ってきたヒランヤは、小竜を抱いて戻ってきた。

「ギャーギャー」

小竜はヒランヤの手を離れ、エテルニアに飛び込んだ。

「無事でよかった」

エテルニアは小竜を抱き、撫でる。

 ヒランヤは俺に近づいてくると、俺にだけ聞こえるように言った。

「時間はかかりましたが、なんとか無事に終えることができました。首謀者は傭兵国家

ヴィーゴの貴族だそうです」

ヒランヤが前に言っていた。ヴァロクとヴィーゴは仲が悪く、小競り合いをしていると。

今回の件も、その要因のひとつなのだろう。

 取り敢えず小竜の無事なら、あとはお偉いさんに任せておけばいいだろう。

 その後、ヒランヤと小竜を連れたエテルニアは、それぞれの住処に帰っていった。

 これでこの件は、無事に収束した。と思っていたが……。


 ――次の日。

 朝目覚めると、小竜がいた。

「ギャー」

 ……嘘だろ……。

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