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虚実の王とドッペルゲンガー  作者: ジュウ
1 この世界はバグっている
1/2

1.異世界召喚だな!

 夜空にたくさんの星が並んでいる。

 1つ1つが光を発しながら輝き続けている。

 だが、それももう終わりだ。

「魔王様……」

 1人の少女がか細い声を零す。一見すると人間に見える彼女の背中には大きな羽、頭にはその存在の大きさを示す輪がある。

 「やり遂げたのに…あなたが居なくなれば何のためにここまで…」

 返事はない。その荒れ果てた地上にその少女意外生きているものは居ない。彼女が慕い、付き従っていた王は彼女の手の中で息絶えてしまった。

 「ごめんなさい…身勝手だとは分かってます。だけど、これしか道は無いんです。…貴方と私の理想を実現するためにはこれしか…」

 その瞬間、彼女の周囲に光が集まり出す。次第にそれは大きな光を発していく。地上を飲み込み、空を飲み込み、そして星そのものを飲み込んでいく。

 彼女は同時に詠唱を唱え出す。神々が『魔法』と呼ぶその力を使うために。

 「愛しています。魔王様」

 彼女はそっとその王と呼ばれる存在を撫でる。

 その瞳は慈愛に満ちていて、これまでの事を振り返るように目を細める。

 「次はもっと多くの人に囲まれて祝いましょう。」

 そして、詠唱が完了すると全てが動き出す。正しい路線から外れた異端な路線へと切り替わり、確かに存在するのに存在しない。そんなバグのような世界が。


 「ふわぁぁぁぁぁあ」

 騒々しい教室の中で大きな欠伸が鳴る。

 「おはようさん。寝坊助の通くんよ」

 「おはよ…健成」

 休み時間で友達と話していたというのに、俺が起きた途端に話しかけてくるこいつは 神谷健成

 主に男子を仕切っている陽キャ。

 男子を仕切っていると言っても、よく小説なんかで出てくるようないじめをするタイプではなく、むしろその逆だ。いじめがあればその鍛え上げられた肉体で止め、孤立している子が入れば積極的に話かけに行く。

 言い換えればクラスのリーダー的立ち位置の存在だ。

 「全く…昨日は何時まで起きてたんだよ」

 「…4時くらい」

 「ちゃんと寝ないと成長しないぞ?」

 「…母親か」

 「あんたー!さっさと起きなさい!!」

 「うちの母親はそんな昭和みたいな起こし方しねぇよ!」

 こんな会話を毎朝やっている俺らは物好きだなと思う。

 「…ところで今日の昼は一緒に食べないか?」

 「あぁ、いいよ。ちなみに誰が一緒なんだ?」

 「今日は女神とお前の幼馴染、あとは空手のメンバーだ」

 「もしかしてやーちゃんいるのか?」

 「おう。ちょうど部活が一段落したらしくて、今日からまた食べられるってよ」 

 「それはいいな。久しぶりにあの屈強な体を見れるのは楽しみだ」

 「着目点がお前だけ特殊なんだよ」

 そうこう話していると休み時間ももう終わりに近づいてきた。

 「…んじゃ、また昼な」

 「あぁ。」

 健成が自分の席に戻ってすぐ、他の奴らも自分の席へと戻り始める。

 僕が次の時間も居眠りをかもそうかと考えているとこちらにやってくる2人の少女

 片方はセピアベージュに染められ、髪型がロブで可愛らしいく、もう1人は髪を背骨の中央辺りまで伸ばし、少し大人の雰囲気をもつ

 その2人がこちらに気づくとゆっくりと近づいてくる。

 「全く…やっと起きたのね?通。朝起こしに行ってあげたのに、なんで学校来て早々2時間分の授業を寝て過ごしてるのよ!」

 「昨日寝るのが遅くてさ…次の授業は起きてるつもりだから許してくれよ。加奈」

 「そういう問題じゃないのよ。…あんたは何時になったらシャキッとしてくれるのよ」

 「…癖になってしまったものは治すのが大変で…」

 「誤魔化さないの!どうせまた前の状況に持っていこうとしているだけでしょ!…全く…私がどんだけ心配すると思ってるのよ。」

 「まぁまぁ加奈。落ち着いて。…通くんだって色々やらなきゃいけないことがあるんだから仕方ないよ」

 腰に手を当て、頬をリスのように膨らませながら完全にお説教モードに入った加奈を止めるようにもう1人の少女が間に入ってくる。

 「…むぅ…白菜は通に甘すぎるよ」

 「ふふ…そうかもね。でも、通くんがなんで夜遅くまで起きてたのかは分かってるからそうなっちゃうのは仕方ないと思わない?」

 「それはそうだけどぉ…」  

 彼女が間に入ったことで加奈は調子が崩され、徐々にお説教モードが解かれていく。

 彼女は学園の女神様と言われる程に容姿が整っており、さらには文武両道、性格も良いという完全無欠な少女だ。

 「さて、この話はこれでおしまい。次の授業始まるから準備しちゃおう!」

 女神と呼ばれるにふさわしい笑顔を見せるとせっせと席に着く白菜。

 「…はぁ、あんたはこれでいいの?」

 「さっきの叫びと言い、加奈はどっちがお望みなんだよ」

 「そりゃ今の方がいいでしょ。だけど、あんまりそれを強制するのも違うし、あんたの意見を聞いてるってわけ」

 「…半分諦めてる」

 「途中までは上手く隠せてたのにね…ま、私は見てるのが辛かったから今の状態の方がやっぱり嬉しいけど」

 「…それは良かったよ」

 他愛のない雑談をし、教師がやってくるのを待つ。何の変哲もないただ平穏な学校生活。だが、それ以外に望むものなんてない。この生活が続くのなら何も…

 だが、その異変は直ぐに起きた。

 「え?」

 誰が発したのかあるいは全員が発したのか…そんなことを考える余裕もないくらいに目の前の現象に僕たちは固まる。

 「…これって…魔法陣ってやつ?」

 今の状況を理解した加奈が疑問の声を発す。その見解は間違っていないだろう。教室の中心を軸に1つの円ができ、その中に沢山の文字や記号が書き込まれている。どっからどう見ても魔法陣だ。

 「…ど、どうすればいいの!?」

 目の前で白菜がとんでもなく焦っている。うるっと涙目になってあたふたしている所を可愛いと思ってしまう辺り僕は余裕があるのかもしれない。

 「…こういうのは大体教室の扉が開かないもんだよな」

 そう言いながらすぐ近くの扉を触ってみるがビクともしない。

 「…うん。まずい!」

 「通くん!!どうしよう!?」

 「これは諦めるしかない!」

 「冷静だね!?」

 「こんだけ慌てふためく人が近くに入れば冷静にもなるさ」

 「あ、確かに言われてみればそんな気が………て、ならないよ!?」

 「あんた達はなんでこんな時に冗談言い合ってるのよ!?」

 そんな押し問答をしていると魔法陣の帯びる光は次第に大きくなっていく。

 「光が!大きくなっちゃってるよ!?」

 どうにか脱出を試みようとする者、どうすればいいのか分からず立ち尽くす者、現在の状況を楽しんでいるもの。

 それぞれが賑やかな反応を見せているが、やはりその光は止まることは無い。

 やがて、それは最大まで光を帯び僕たちを飲み込んでいくのだった。


この作品を覗いて下さりありがとうございます!


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