2.いっしょに
学校から帰って、夕飯を食べて寝る準備をしていた。
放課後になってから話を何度か切り出そうとしたが、やはり他人の家庭環境に口出しするのには相当勇気が必要で言い出せず、ずるずるとこんな時間になってしまった。
「千夜ちゃん?早く寝よう?」
私がうんうんと悩んでる事など露知らず、夏穂はパジャマに着替えてベッドに座っていた。
「……ん。」
不思議そうに私を見上げる夏穂の視線を振り切るように、私は思い切りベッドにダイブした。
別に急がなくてもいい。また明日考えよう。
うだうだ考えるなんて私の性にあわないし、明日お母さんに相談して、夕飯の時でも軽く話したらいい。
仮に親がどうでもいいと夏穂を放り投げるようであれば、うちでずっと暮らせばいい。
「もーどうしたの?電気消すね?」
「ん」
夏穂がベッドに入ってきて、そのうち体温で暖かくなってくる。段々眠くなってきて、枕に顔を埋めてそのまま寝ようとした。
「千夜ちゃん、こっち向いて寝よ?」
「ん……?」
もそもそと体の向きを変えて軽く目を開けてみると、少し不安そうな顔をして私を見つめている夏穂が居た。
こいつが態度が顔に出るのは珍しいなと思いながら、夏穂の手を軽く握ると、少しビクッとするも握り返してくれた。
昔お母さんが、父さんが帰ってこなくて不安になりグズる度に、私の手を握って安心させてくれたのを思い出す。
「どーした?なにかあったか?」
「……んーん。ただね、学校で先生に進路の事どうするか聞かれたの。」
「…それで?」
「……なにも考えてないよ。ただね、千夜ちゃんと、ずぅっといっしょにいたいの。」
私の手を握る力が徐々に強くなっていく。大きくて綺麗な目からは大粒の涙が溢れそうになっていた。
「千夜ちゃんがね、初めて1番大事って、誰にも取られたくなくて、いっしょにいたいって思えた人なの。
大人になって、仕事をしてもいっしょの家に帰ってきていっしょに寝たいの。」
「うん」
「………千夜ちゃんは、私とずっと居てくれる?」
最後の方は声が小さくなって震えていた。それだけ不安なのだろう。
夏穂のこういう姿を見ると、心がギュッとするような、キューッとするような、変な感じになる。
夏穂も同じなのだろうか。友達は夏穂しか出来たことがないからこの感情は友情というものなのか分からない。
「当たり前だろ。お前がみんなの敵になったとしても、私が体中傷だらけでも、お前が嫌いって言わない限りずっと隣にいる。だから安心して寝ろ。」
「……うん!ありがとね、千夜ちゃん」
ただ、思うのは
この感情はこいつ以外に持つ事は無いだろうし、向けることはないだろうな。
安心したのか、いつもより早く眠りにつく夏穂を見届けて目をつぶる。
手は握ったままで寝づらいけど、夢にこいつが出てきたら嬉しいな。
寝落ちる直前、床が光ったような気がしたが、気のせいだろう。
周りが騒がしい。
もう朝か、と目を開けるとそこは、自分の部屋じゃあなかった。
「ち、千夜ちゃ……」
「な、んだこれ……」
青ざめ私の腕にしがみつく夏穂を庇うように周りを見渡す。
魔法陣?の上に私達は立っていた。とても大きい城のホールのような建物で、周りは鎧を身につけている騎士のような者達ばかりで、混乱しながらもこちらを警戒しているようだ。
奥には玉座に王らしき男が座っており、酷く驚き目をかっぴらいて私たちを見ている。こちらに1歩踏み出したので、夏穂を抱き締めるように腕の中に引っ張った。
「なんだ君達は……!?今は召喚の儀をしていないぞ……!!!?どうやってこちらの世界に来たんだ!?!」
「はぁ!?」
思わず大声をあげてしまったが、こればかりはしょうがないだろう。
手違いなら帰してくれ。