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俺はダンジョンで映画を作る〜有名インフルエンサーのダンジョン配信に紛れ込んだらバズると思ったのに、俺は違う意味でバズっていた。だって俺は転生スケルトンだからな!〜

「カーット!!」


 静寂なダンジョンの中に声が響き渡る。


「スケさん流石です! やっぱり本物は違いますね!」


 俺はそうかと言わんばかりの下顎をガタガタを動かす。


 そう……。


 探索者だった俺はダンジョンの中にいるあの魔物に気づいたら転生していた。



 ♢


「みんなのハートをキャッチ! ダンジョン配信者の桃姫です! 今日は有名ダンジョン、富士山の攻略に挑みたいと思います」


 キラキラなミニスカートに、おへそが出ているトップス。


 指でハートを作り視聴者を翻弄する。


 それが彼女の仕事だ。


 漫画やアニメ、動画配信や映像配信サービス。


 世間は娯楽に溢れている。


 そんな中、流行ったのがダンジョン配信。


 命懸けで頑張る美少女やイケメンが話題になったんだろう。


 それにダンジョンという存在が、資源不足を解消すると世界的に注目されるようになり、さらに爆発的に話題になった。


 そんな俺は彼女をこっそりと物陰から見守っている。


 いや、正確に言えば映る機会を狙っていると言っても良いだろう。


 だって俺は――。


 スケルトンだからな!


「まだ階層が低いからスケルトンばかりですね!」


 ――スケルトン


 それは魔物の中で最弱に分類される動く屍のことを言う。


 まぁ、簡単に言えば理科室にいる骨格標本のあれだな。


 もっとわかりやすく言えばただの骨だ。


 話そうとすれば声帯がないため、全く声が出ない。


 出るのはカタカタと下顎が動く音だ。


 むしろ強く動かせば、歯が砕けてしまう。


 壊れやすく脆い。


 そんな追加機能搭載の俺はスケルトンライフを過ごしている。


「こんな魔物は一瞬で破壊していきますね」


 キラキラと可愛い彼女が拳を突き出すと、スケルトンは一瞬で砕けてしまう。


 ああ、スケ先輩が一瞬で粉々になってしまった。


「じゃあ、次の階層に行ってきまーす!」


 そう言って彼女はグール先輩がいる二階層に向かって行った。


 ええ、また俺は動画配信にこっそりと映るのを忘れていた。


 むしろ見つかったら一瞬で殺されるから、こっそりとしか映ることができない。


 そもそもなぜ俺がストーカーのようにこっそり映らないといけないのか。


 それには深いわけがある。


 そう、俺は気づいた時にはただの骨になっていた。


 確かダンジョンの攻略をしていた探索者だったはず。


 それなのに目を覚ましたら、スケルトンだった。


 目覚めたときにスケルトンに囲まれていたからびっくりしたよ。


 すぐに戦おうとしたら、自分の手が骨になっていたことに気づいた。


 あっ……俺、死んだのかってね!


 死後の世界はあると思ったが、まさかスケルトンになるとは思わなかった。


 ダンジョンで死んだからスケルトンになったのだろうか。


 その謎だけが常に気になっていた。


 俺はさっき倒されたスケルトンのスケ先輩に手を合わせる。


 ちゃんと成仏してくれよー!


 ただでさえ骨が動くって薄気味悪いからな。


 スケルトンって魔石を出さないから、魔物の中でも最弱だし、コスパが悪いんだよね。


 魔石は資源不足の世の中に、革新的な改革を与えた。


 赤色の火の魔石は火力発電、青の魔石は水力発電、緑の魔石は風力発電など魔石の価値が見直された。


 そもそもダンジョンがいつからできたのか、ダンジョンから溢れ出てくる魔物はいつからいたのかわからない。


 俺がスケルトンになっているぐらいだから、世の中わからないことだらけだろう。


 唯一わかっていることは、ダンジョン配信にひっそりと映って、俺が普通の魔物ではないと伝えることだ。


 話すことができればどうにかなったが、俺は全く話せないからな。


 グール先輩でも溶けた肉体を使って〝ああっ……〟としか言えない。


 だから必死に体を使って安全ですアピールをするしかない。


 ただ、探索者って想像以上に野蛮であぶないやつらだ。


 魔物になったからわかったけど、俺達を見つけたら急に襲ってくるからな。


 頭が逝かれている奇襲者にしか見えない。


 やられる立場に立ってみろっていうのはこういうことを言うんだな。


 おっ、そんなことを思っていたらまた他の探索者が現れたぞ。


 あいつもダンジョン配信者だな。


「みっ……みみみみんなの聖女……。マリアたんだよ」


 背丈が小さい女性が恥ずかしそうに挨拶をしていた。


 そんなんじゃ有名インフルエンサーにはなれないぞ?


 最初の挨拶が一番堂々として大事なんだからな。


 それに有名なインフルエンサーになってくれないと、俺が命懸けでひょっこりと映っても気づかれないからな。


 俺は再び動画に映るタイミングを伺って様子を見る。


 ダンジョン配信者はわかりやすく、空中に丸いカメラが浮いている。


 あれも魔石を使った魔導具なんだろう。


 本当に世の中便利になったものだ。


 ドローンを使っていた時代が懐かしいな。


 そういえば、カメラの画角が下を向いたが何をやっているんだ?


 上目遣いで撮影したいのはわかるが、そんな高さから撮ったら頭頂部しか映らないぞ?


 みんなの聖女マリアたんは頭頂部を配信したいダンジョン配信者なのか?


 それなら俺からは何も言えないな。


 あっ、声帯がないから元々何も言えなかったわ。


 ってか頭頂部しか映ってないと、ひょっこりと写ろうとしてもかなり近づかないと意味ないだろう。


 マリアたんはハズレだな。


 そう思った俺がその場から離れようとしたら、突然マリアたんは服を脱ぎ始めた。


 おいおい、開始早々お色気配信をするつもりか?


 小柄だからロリコン好きにはたまらないかもしれない。


 だが、ここは死霊系魔物が溢れる有名ダンジョン富士山だ。


 さすがに弱いスケルトンでも怪我はするぞ!


 気づいた時には俺はマリアたんの前まで出てきてしまっていた。


 ああ、初めてひょっこりと配信に映ったはずなのに、頭頂部しか映ってないぞ。


 いや、綺麗な頭の骨の形は視聴者に堪能してもらえるか。


 突然現れた俺にマリアたんはびっくりしていた。


 いやいや、こっちからしたらカメラに映ってもないお色気サービスをしちゃうマリアたんにびっくりだ。


 マリアたんは睨むように俺を見ていた。


 これは粉々になって終わるやつだな。


 俺もスケ先輩と同じ道を歩むのだろう。


 服を脱いだマリアたんは、短剣を持って近づいてきた。


 ん?


 俺達、スケルトンは短剣よりも拳でドンってやった方が早いぞ?


 ひょっとしたら探索者としてもまだまだ未熟なのかもしれないな。


 さぁ、俺も少しはそんなマリアたんの経験値になれば最高だな。


 先輩探索者が魔物の怖さを教えてあげよう。


 俺は右手で正拳突きを繰り出した。


 あっ、これは骨折するやつだな。


 そう思ったが、マリアたんは俺の手を優しく包んだ。


「私をこれでいじめて?」


 甘く色っぽい笑顔で俺に短剣を持たせてきた。


「早く思い通りにグサっとお願い」


 マリアたんは俺に短剣を持たせようとする。


「なんで……なんでよ……」


 でも俺にも都合があるのだ。


「あれ? なんで短剣が握れないの?」


 んー、それは俺に言われてもわかんないです。


 そもそも俺はただのスケルトンなんです。


 スケルトンってアンデット界では最弱でしょ?


 ただ、俺の進化先にスケルトンウォーリアーとスケルトンソルジャーがいるわけで。


 進化していない俺には短剣すら握れないのよ。


 ただ、グーパーグーパーはできるぞ。


 せっかくだから頭上のカメラに見えるようにアピールをしておいた。


「ならこれなら私をいじめられるよね?」


 まっ……マリアたん?


 さすがにこれは動画配信でやるのは、スケルトンの俺でもダメだと思うぞ。


 次にマリアたんが取り出したのは鞭だった。


 必死にマリアたんは、俺の手を持って鞭を握らせようとする。


「なんで落ちてくるのかなー」


 いやいや、だからさっき短剣も持てなかったでしょ!


 マリアたんって天然なの?


 スケルトンの俺よりも、何か大事なものを落としていない?


 俺もよく膝蓋骨を落とすけどさ。


 膝のお皿って勝手に浮いているんだよ。


 あれ、毎回どこか落としてきちゃうだよね。


「鞭がダメなら斧はどうかな? 斧ならグサッといけるよ!」


 ひょっとしてマリアたんって自分をいじめて快感を感じちゃう残念なの子なのか?


 それでも、スケルトンの俺でも危ないと思うやつには近づかない方が良いだろう。


 だってあの子自分のことを聖女(・・)だって言っていたよな。


 聖女って俺達アンデット界が一番恐れている女性だ。


 そもそも聖女が恐れられているのは意味がある。


 マリアたんの場合、違う意味で恐れているが……。


 聖女は聖属性魔法という超能力を使う。


 簡単に言えば怪我を治す力があるってことだ。


 別名()属性魔法を使う()性で聖女と呼ばれている。


 男性の場合は聖職者だ。


 そこは聖男でも良い気がするが、そういう名前を付けるやつらが特別な感じを出したかったらしい。


 ただ、その中で魔法を使えるのやつは希少価値が高く珍しいはず。


 そもそもこんなところに一人で来るのがおかしい。


 いや、マリアたんはそもそもおかしいやつだけどさ。


 今もさっき斧が持てなかったら、違う武器を試そうとしているぞ。


 結局俺は進化していないからどれも武器は持てないけどな……。


 ここから立ち去ろうとしても、次々と武器を握らせてくるため、俺は逃げられないでいた。


 あー、人生初めてのインフルエンサーの動画配信にひょっこり作戦は失敗だな。


「あっ、これならいけるかな?」


 そんなことを思っていると、マリアたんは俺の手に何かを付けてきた。


「これで私を殴ってね」


 やっぱりマリアたんは自傷が好きな残念系女子だな。


 ただ、今度渡された物は使えそうな気がする。


 何と言っても今までと密着具合が違うからな。


「メリケンサックならいけるよね」


 マリアたんは握れないと気づいたのか、俺指にメリケンサックを付けたのだ。


 あまりにもキラキラした目で見つめられるから、俺もやらないわけにはいかないだろう。


 俺はゆっくりとほねほねしい拳を突き出す。


 ――チャラン!


 静かな富士山のダンジョンの中で音が響く。


「なんでメリケンサックでもダメなのよ……」


 メリケンサックは俺の指からスルスルと落ちていく。


 確かにあれって肉がないと、めちゃくちゃ大きいもんな。


 俺よりは二階にいるグール先輩の方が役目として適切だろう。


「ん? あっちになにかあるの?」


 俺は指をさして二階まで案内する。


 あっちにはグール先輩がいるから、俺よりは頼りになるだろう。


 俺は優しく彼女の肩を叩く。


 ――ポキッ!


 ぬああああああああ!


 俺の人差しの末節骨(まっせつこつ)が折れちまった!


 なんてこった!


 俺は急いで回収してその場から立ち去る。


 マリアたんなんて恐ろしいやつだ。


 さすが聖女と呼ばれるだけのことはあるな。


【経験値1を手に入れた】


 聞いたことない甘美な声が脳内に響く。


 いや、俺は脳がないから頭蓋骨に響いているのか。


 どうやら俺は探索者に攻撃すると経験値をもらえることを知った。


 ♢


 無くしたものはなんですか?


 見つけにくいものですか?


 ららら、ららら。


 頑張って歌っていても、下顎がガクガクとリズムを刻んでいるけど、全く声は出ていないですよ。


 ええ、絶賛無くしたものが見つからなくて困っています。


 右膝の膝蓋骨を落としてしまって、全く見つからないんですよね。


 あれがないとどこか違和感があって歩きにくいんです。


 膝がガクガクするっていうか、骨が削れている感じがするんだよね。


 歩いたら歩いた分だけ物理的に命が削られている。


 あー、俺の骨はどこに行ったんだ。


 無くしたものはなんですか?


 見つけにくいものですか?


 ららら、ららら。


 俺はもう近づきたくなかったが、さっきまでマリアたんがいたところまで戻ってきた。


 落ちているならきっとあそこにしかないと思っている。


 ただ、マリアたんがいるかもしれないと思ったら動悸がしてくる。


 動悸するほどの心臓はないけどさ。


 俺は普段のようにひょっこりとさっきいたところを覗く。


 これでひょっこりとインフルエンサーの動画配信に映るか品定めしていたからな。


「スケさん……」


 んー、やっぱり時間が経ったからマリアたんはいないのか。


「スケさん……」


 あー、よかったよかった。


「スケさん……」


 ただ、さっきから肩甲骨がポロポロと崩れてきているぞ。


「スケさん!」


 誰かの声が聞こえてくる。


 正直、耳小骨があったとして大きな声じゃないと聞こえにくい。


 俺はゆっくりと振り返ると、そこにはやつが立っていた。


「やっと気づいたね」


 マリアたん!


 声は出ていないけど、下顎がガタガタと震えている。


 ひょっとしてマリアたんはアンデットなのか。


 ホラー映画並みに、急に出てきてびっくりしたぞ。


 それに俺はびっくりして尻餅をついたから、尾骨を少し骨折しちまった。


 そんなに痛覚を感じない体で本当に良かった。


「あのーこれ」


 マリアたんは手を伸ばしてきた。


 また、武器を掴まされるかと思い身構えるが、どうやら違ったようだ。


 そこには俺の見つけていたものがあった。


 膝蓋骨ちゃん!


 俺の大事な膝蓋骨を手に取ろうとしたら、マリアたんは手を引っ込めた。


 なっ!?


 見損なったぞ!


 頭がおかしい露出狂で自傷行為大好き残念系女子だと思っていたのに、そこに意地悪も追加する気だな。


「ねぇ、スケさんに協力してもらいたいことがあるの」


 スケさん?


 はて? それは誰のことを言っている。


 俺は首を傾げるとマリアたんは話を続けた。


「一緒に映画を撮って!」


 やっぱりこいつは頭がおかしいやつじゃねーか!


 映画を撮るってここはダンジョンだぞ?


 いくらスケルトンだからって言葉は理解しているからな。


「実はさっきの動画がバズったの!」


 ん?


 俺はマリアたんが持っていたタブレットに覗きこむように近づく。


 正確にいえば手の中にある膝蓋骨をどうやって奪おうか考えているけどな。


「今さっき生配信していたやつが、すごい数でバズってるの!」


 確かにイイねやコメント数が多くみられる。


 俺はタブレットに触れるが、骨だからか全く反応しない。


 カツカツと音が鳴るだけだ。


「やっぱり私がスケさんに頼んだことがおかしかったのかな?」


 うん!


 それはどう考えでもおかしいよね!


 聖女のやることじゃないからな!


 俺は親指を立てて伝える。


 普通に考えたら何かないと珍しいことやらないとバズらないもんね。


「えっ、スケさん協力してくれるの?」


 ん?


 何がどうなってそう受け取るんだ?


 やっぱりマリアたんって頭が逝ってるんじゃないか。


「スケさんありがとう。膝の骨を返すね」


 そう言ってマリアたんは俺の膝に膝蓋骨を無理やりつけていく。


 隙間に入れれば良いと思っているのか、反対につけていったぞ?


 普通に膝蓋骨が脱臼している状態だからな?


「じゃあ、とりあえずやってみようか!」


 マリアたんはドローンを起動して、生配信の準備をしていく。


「スケさん今から映画を撮影していくよ! よーい、アクション!」


 こうして俺と謎の聖女マリアたんとの映画作りがここから始まった。



-END-



主演


♢ヒロイン

マリアたん


♢ゾンビ

スケルトン


撮影協力

ダンジョン富士山



「私達の出会いってこんな感じでいいかな?」


 俺は必死に首を横に振る。


 もう俺の頭蓋骨が飛んでいきそうなほど振っている。


「何がダメなの?」


 俺は必死にタブレットに指をさす。


 だってどこから見てもおかしい。


 俺を見てくれよ。


 前から見ても骨。


 横から見ても骨。


 ええ、俺はゾンビじゃなくてスケルトンだからな!


「はぁー、もう一回撮り直しか」


 どうやらマリアたんは勘違いしているのだろう。


「じゃあ、もう一回撮り直すよー! よーい、アクション!」 


 俺はいつになったら元の姿に戻るのだろうか。


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