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祝杯

 大変お久しぶりです。口十です。

 あまり前書きは書かない主義なので、どうぞご覧ください。

 世界大会から数週間が経過した。千人を超える大規模な、世界を巻き込んだ大騒動だというのに、この火鉢達が暮らすド田舎には何の変わりもない。いつも通り犬も鳴かない程に平穏で、何ともない日常だ。

「んで、あのあとどうなったんだよ?」

 ただ一人、ゲンさんを除いては。

 彼はこの町で火鉢の知る世界大会の唯一の視聴者であり、数多いる火鉢達のファンの一人だ。大会二日目にはわざわざ臨時休業をし、家で一人酒瓶片手に楽しく見ていたらしい。

「変わんないっすよ。相変わらず花月はゲーム誘うのも誘われるのも大歓迎だし、俺達だってそれを無碍にするほど馬鹿じゃないっすから。……あ、ってか聞いてくださいよゲンさん。花月の初恋俺が奪ってたらしいっす」

 そんな彼の構える店second life にて祝杯を挙げるアレフと火鉢。アレフはお気に入りの日本酒を、火鉢は適当にカクテルを各々飲んでいた。

「花月ちゃんってぇと、大人気配信者だろぅ? その初恋相手ともなりゃぁ……競争は激しいぞ?」

「待てゲンさん。こやつに色恋なぞ分かったものではないぞ。どれだけ身近にいようとも気付かぬのだからな」

「アレフちゃんが言うと真実味帯びるねぇ」

 一瞬ゲンさんの失言に空間にしまった!という雰囲気が流れたものの、元来の鈍感さにより全く気付かない火鉢を見て呆れつつ、楽しみつつな二人は今宵何度目かの乾杯をした。

 本来であれば花月も参加しての祝杯だったのだが、彼女はどう足掻いても人気配信者。コラボや案件などで忙しない。神喰ライの最新作『絶火』が出てからというもの、VTuberのコーチングなんかも付け足しで入ってきているのでぶっちゃけ過労死しないか心配なほどだ。

「そういや花月の奴、大学どうしてんだろ」

「そこは心配には及ばないと思うぞ。あやつ、あぁはなっていたが地頭やら世渡りは上手い様子だったからな。火鉢よりも幾分処世術は身に付けていよう」

「悪かったなゲームしか脳がなくて」

「ところでよぉ、火鉢達はプロになった訳だし、もっと利便性のいい物件に移住しようとは思わねぇのか?」

「思わぬな」

「俺も。確かに都心に比べたらネット回線も多少だけど弱いし、オフコラボとかもし辛いだろうけど……、俺には家族がいるから」

 ゲンさんが失言だったと気付くにはそう時間は要さなかった。この田舎町には火鉢の親や祖父母の骨が埋まっている。それを蔑ろにするほど、火鉢は飽き性ではないのだ。

「そうかいそうかい。俺ぁ嬉しいよ。あ、でよぉ。火鉢達。マグノリアシンドロームってゲーム知ってるか?」

「確かルード社が手掛けるソウルライクのゲームではなかったか?」

「そうそれ!俺、それ買っちまってさ。んで三つ目のボスで詰まってんだけどなんか攻略法知らん?」

「三つ目のボスっていうと順当に行けば木賊(とくさ)の御子っすよね? 確かに反撃しづらいけど……そこまでか?」

「そうそいつ!やっぱ(ジジイ)には優しくないのかねぇ」

「ゲンさんよ。そう落ち込むな。火鉢が特別ゲームに適性がありすぎるが故の無理解なだけだ。あやつはな、必ず奇数回しか連撃をしないという特性を持っている。三回か五回攻撃をガードすれば必ず反撃の隙はあるのだぞ」

「あ、そうなんだ」

「火鉢はもう少しゲームへの理解を深めるところから始めるべきだな。一度のボスに最大で挑んだ回数は幾つだ?」

「えぇっと……極彩色のタヴァスで二四回だな。あれは手強かったな~」

「はぁ……。火鉢よ。伝えておくが、二四回は強敵に類しないのだぞ。しかもタヴァスは裏ボスではないか。当たり前に言っているが、通常何時間も攻略を練る相手なのだぞ」

「まぁそこは生まれつきのゲームセンスで」

「呆れて物も言えぬ。ゲンさんよ。これで分かったろう。こやつにゲーム攻略を聞くことの何と馬鹿々々しいことか」

 深々と頷いてゲンさんは一言「あぁ分かったよ」と返事した。

「心外だな。俺だって最強ってわけじゃないんだぞ? 例えばアレフのやってる楽撃だって勝てない人いるし、神喰ライで準優勝なのもやっとの思いなんだぞ」

「あのなぁ、火鉢。普通は勝てなくて当然なんだよ。ここから試行錯誤するから人は成長するんだ。お前だって五年前のあの一回に甘んじてたら今頃アレフちゃんや花月ちゃんと仲良くだってなってなかったろうしな。お前は人外的な跳躍力で多くの壁を壊すことなく飛び越えられるが、今回の大会みたいにいつか飛び越えられない壁が出てくるもんなんだ」

「まさかゲンさんからゲームの本懐を教えてもらえることになるとはな……痛み入ります」

「こちとら真面目に言ってんだぞ。っつっても酒の席じゃ意味ねぇか。さ。次は何飲むんだ?」

「む? もうボトルが切れてしまったか……火鉢よ。どうする?」

「そうだなぁ……。アレフもそろそろ大人になるべきだと俺は思うんだ。旅立ちの一段目を踏むべきだとな」

「……何を不吉なことを言っているのだ?」

 アレフに不安が走る。確かに今迄アレフは子供のように振る舞っていた。(いや)、正確に言うのであれば事実子供であった。記憶を持たず、会話こそ出来れど現世には全く疎い。

 火鉢に助けてもらったあの日から寝食を共にしてきたが、アレフは知っている。

 子供はいつか巣立たなければいけないと。それは精神的にも物理的にも……。そして、物理的に巣立つことの方が早く訪れることも知っていた。

 一人暮らし。別居。嫌な言葉が頭から離れない。

「アレフにもお小遣い制を導入しようと思う」

「…………は?」

「は? も何も、そうしないと一人遊びできないだろ。好きなものも買えないし」

「そう、なのだが。まだ、まだ火鉢と共にいて良いのか? まだ、憧れ続けても良いのか?」

「まだも何もアレフとはずっと一緒のつもりなんだが……。憧れるのは勝手だし。えぇっと……アレフさん? なんで泣いてんの?」

 ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

 今回は世界大会の後日談的なものをイメージして書いていました。大して話は進まず、所謂箸休め回ですね。

 そういえば、ソウルライクのゲームって「ダークソウルが出たから”ソウル”ライク」と呼ばれるようになったのか、「以前からソウルライクという言葉があった」のかどちらなんでしょう? 調べてみる程のことではないですが、これを書いててふと気になってしまいました。

 今回は箸休め回と言えど、私のゲーマー人生の重要なイメージについて語っているので是非流し見で見た方は中盤から後半にかけてご覧ください。

 マァ、簡単に言っちゃえば「無限とも言える試行回数の末に勝利がある」というものです。それは格闘ゲームでもソウルライクゲームでも同じです。これを試してダメ。あれを試してオッケー。その無数の屍の上に成功や勝利というものは立っているのだと思っています。ピラミッドを作るにおいても土台がないと無理でしょう? それに、屍の中に王の棺に辿り着くような解があるかもしれないんです。

 ゲームについて、攻略情報を見たり、フレームを確認したりしている人がいたら、細かいことは抜きにして、一旦試してみろ。って言いたくなるほど私は実践主義者です。だから格闘ゲームでもトレモ潜らないし、音ゲーでも譜面研究はしないんですよ。そこはエンドコンテンツだと思っているので。

 マァ、そこで正解も判らず右往左往してるから格ゲーの対戦数が三万行きそうなのに未だ大会で名をあげれてないんですけれどね……。そこを突かれると痛いですね。


 と、話を戻しまして、もう一つ。アレフのお小遣い制度が実施されます。だからといって今後の話の流れにこれを主軸にした話が出来上がるかと言われると些か疑問ではあるんですが、マァ回収されるかも判らない伏線というのも面白いでしょう? 

 それに、重要なのはそこじゃなくて、アレフが泣いているところなんですよ。マァ、その理由は察して頂くとして、そこを見てほしかったです。


 ではまた次回。いつになるかは判りませんが、お会い致しましょう。

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