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渡された武器

 お久しぶりです。今回から話は大会二日目、いよいよ王者の決まる日となりました。

 では、ご覧ください。

 翌朝、公式大会・非公式大会含め実況の常連となったサハシの号令で火鉢、花月をはじめトップ(エイト)に上り詰めた各々が壇上に上がる。韓国のノム、イタリアのアルキテットを含め、花月以外が世界大会の壇上(トップエイト)経験者。インディーズの大会や各国で開かれる大規模の大会で結果を残してきた猛者。

 火鉢と花月は完全にアウェーであった。だが、世界をも捕れる。それがこの大会。

 世界大会というあまりにも大きな祭りを前に、他のプレイヤーが心情や身の上話を嬉しそうに連ねる中、二人は簡潔に挨拶を済ませた。生粋のパフォーマーであれば、演技(パフォーマンス)を作らずとも、自然と上演(パフォーマンス)は始まる。

「ミダレよ。貴様にはこの大会、どう見える?」

『モグリさんと花月は空気に飲まれたら終わっちゃうかも。しかも花月はルーザーズ側。一回取られたら終わり。その点で言えばモグリさんは若干有利?』

 壇上の下では、最前線で火鉢の最初のファンと、花月の最初のファンが見守る。

 神喰ライは四半世紀以上続いた格闘ゲームの金字塔。初出でこそないが、格闘ゲーム全盛期をトップで走り抜けただけあって、そのネームバリューは格闘ゲームにおいて世界最大規模。その王者が決まるだけあって、観客席には百人を超えんとする人数が集まっていた。予選で敗退した者。記者。ただ近くで開催していたから見に来た者。対を成す者。肩書は様々。国籍も亦、同様。

「さぁ第一回戦!モグリ操るジャンヌ・ダルクに対するは為右衛門(ためえもん)世界一位の韓国プレイヤーの飲む!この試合どう見ますか、解説のまーちゃんさん」

「そうですね。ジャンヌは体力が最低値かつ自傷ダメージもあります。対して為右衛門の無冠王というコマ投げは単発火力なら今作最大かつ、才能発動という無敵技以外をキャンセル出来る共通システムを使えばコンボに行けます。なのでモグリ選手は何処でバーストを吐くか。そして為右衛門の間合い外でどう戦うかが重要になるかと」

「ありがとうございます!さぁ、そうこうしている内に両者ボタンチェック等準備が整ったようです。ではせーの!!」



「「「レディ、ゴー!!!」」」



 会場一体となった合図と共に、玉座を賭けた真剣勝負が幕を開ける。

 先に解説のまーちゃんが言った通り、ジャンヌにとっては為右衛門の一撃一撃が致命となり得る。しかし、ジャンヌには遠距離攻撃がない。コンボに行くためには近距離で始動技を当てる必要があるし、リターンに成り得る”起き攻め”を放置してまで遠距離戦を仕掛ける必要がない。寧ろジャンヌ同様、為右衛門にも突進技はある。距離を置いたところに突進を喰らっては目も当てられないだろう。

 皆が思った。この試合は膠着状態が長引くと。

 だが違った。火鉢は昨日ふと思いついた、試しすらしていない一日で練り上げた”対為右衛門使い(ノム)専用の対策”でもって膠着を一寸とて作らなかった。為右衛門を含め、投げキャラと言われるキャラの多くはコマ投げを使用するか否かをはじめ、プレイヤーの個性が色濃く反映される。そこで行われる読み合いを静止てこそ、世界トップの為右衛門(投げキャラ)使いとして称されるということだ。

 そこで火鉢は考えた。自分の反射神経であれば―――

【コマ投げのコマンド入力に気付けるのではないか?】

 と。

 ノムの使用するコントローラは所謂アケコンと呼ばれるレバーを回してコマンドを打つ従来のもの。そしてコマ投げは一回転コマンド。昨日にノムの配信を見て気付いたが、彼のコマンド入力は力強く、大きく手を動かす。であれば、視界の端に捉えておけば咄嗟のコマ投げに気付ける。

 言うは易し。ゲームに全神経を集中したい壇上でゲーム外に意識を常に割き続けなければならない。そもそもの話、力強いと言えどほぼ最適化された彼の一回転コマンドに気付いてから避け(ジャンプす)るには猶予一〇フレーム以下で気付かなければならない。

 そして何より、火鉢の考えた対策には決定的な穴がある。それは”対空のコマ投げ”に弱いということ。一〇フレーム以内に反応とバックステップを入力するのは流石の火鉢と言えど不可能。唯一可能なのが上に入力するだけのジャンプ。

 思った通り、一試合取ったところでコマンド入力に反応していることに勘付かれた。だから二本目最初に近距離戦になったとき、わざとレバーだけ大仰に回してボタンを押さなかった。ボタンの入力は指先のみで行われる為、視覚的にも不可能。

 釣られてジャンプを入力した火鉢に対しての対空コンボに対して、試合初の火鉢のバースト。

 やはりそうだ。そう気づいたノムは、自然と起き上がり等不意を突く()()()()()コマ投げを選択肢から省いた。他のコマンドを入力した方がタイムロスがなく、有益だからだ。一回転を入力してからわざとボタンを押さず対空を強いられる相手と今まで二〇年のゲーマー人生で出会ったことがないから、そもそもの話一連の動作ができなかった。

 火鉢は、先も言った通り”ゲーム外で見てから反応している”。つまりコマ投げを入力されない限り、ゲージを消費しない無敵技がない為右衛門に対して豊富な選択肢をあらゆる盤面で押し付けられるジャンヌの苛烈な攻めが続く。火鉢の()()は読みでも何でもない。只管な性能のゴリ押し。人型兵器とすら言わしめた反応速度は、衰えどまだ世界最高峰。否、史上最高峰。

 苦渋の決断として、ノムは起き上がり(リバーサル)で己の腕で出せる最速の一回転コマンド。

 王はそれを、見逃さない。



 火鉢は順調にウィナーズファイナルまで勝ち、グランドファイナルでルーザーズ側を進んだ者を待つ身となった。

 そのルーザーズ第一試合。花月(シテ)対イタリアの知将、アルキテット。キャラクターとしてはチャップリン対忠勝となる。

 忠勝は古くからいる遠距離キャラクター。そして今作初登場となるチャップリンは自身の前方に盾を生成し、中距離を主に立ち回るキャラクターとなる。お互いに長くダメージが出るコンボを決めるというよりかは、適正距離で戦うことを主軸としたキャラクターだ。

 だが、チャップリンにあって忠勝にないものは盾だけではない。コンボパーツの”ライムライト”や大技でコンボの締めに使う”大嫌いな独裁者”など、コンボから得られるダメージはチャップリン側がやや優勢だ。

 花月は火鉢ほどの反応速度を持ち合わせていない。だが、幼少期、今よりも無垢で早い反射神経を持つ火鉢に花月は幾度か、勝ちを経験している。それは勝ち越すには遠く及ばないが、しかし、偶然とも言い難いほどの勝ち星。

【読み】

 花月の試合はスローペースに進んでいった。お互いに切り返しに使える無敵技がないためだろうか? コンボパーツが他キャラより少ないからだろうか?

 否。アルキテットの精神の消耗を、焦燥を花月が望んだからである。


 ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

 この話、よく覚えている下書きと本書の変更点がありまして、それが火鉢のコマ投げへの対策についてです。下書きの時は一回転の「音」に反応してジャンプする予定でしたが、今年の一月に初めてオフラインの大型大会に参加して、ヘッドフォンしてるし無理だ。でも、反射神経を使ったコマ投げ対策を考えたい……と思って書いたのがこれでした。


 次回は出来れば一週間後に更新したいと思いますが……。どうでしょう。

 マァ、予定は未定ということで。またお会い致しましょう。

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