幕間劇に興じよう
大変お久しぶりです……。お待たせして申し訳ありません。
では、ご覧ください。
「まさか、ミダさんちが近いとはな。いやぁ、人脈ってのはあればあるほどいいな」
一日目が終えた火鉢とアレフ、そして花月は、会場から二、三駅程度の圏内にあったミダレの家に一泊する運びとなった。本来、花月のみだったが前日になってホテルの予約を取っていないことに気付いた二人のSNSを見て花月がこれではいけないと咄嗟に話を付けてくれたそうだ。
ミダレの両親は毎年この時期に開かれる大会を知っているので、それに毎年参加する花月との間を邪魔しないように家を空けるようにしている。今は熊本でラーメンでも啜っているのだろう。
「ミダと、そして何よりうちに感謝するように。ってか、やっぱひー先輩とぬるちゃんも参加したんスね」
「私は記念参加だが、こやつは一日目を通過した。充分勝ちの目はあるだろう」
『配信台にもモグリさん映ってましたよね。見てましたよ』
彼の家だろうとどこだろうと、誰であろうと彼の失語症が取れることはない。いつものようにスマホの文字越しに会話をする。
「ちょっとミダ、うちも一日目通過したんスよ。なんか言うことないの?」
『勿論、流石だよ。果樹炎さんってプロの世界ランカーでしょ? それを倒しちゃうなんて』
「え、お前かじゅさんに勝ったの?嘘だろおい、俺かじゅさん対策積んできたんだけど」
「うちの対策がそれを上回ったって事っス。チャップリンなんてドマイナーキャラ誰が対策するもんか」
「困ったなぁ。第六天魔王で他に強いプレイヤー参加してたっけ……。あ、メイさんとかいなかった? ほら、ドミニカの」
「確か明日のトップ八には名前無かったっスよ。ってか、SNS見た感じ飛行機の便取り忘れたらしいっス」
「火鉢よ。一週間が無駄になったな」
項垂れる火鉢とそれを嘲るように笑うアレフ一行をよそに、着々と夕食の準備が進んでいく。趣味として料理を上げるほどには料理好きなミダレがこの日の為にと数日漬け込んだ唐揚げが順調に揚がっていった。
テーブルに並べられた唐揚げと火鉢の作った炒飯。それからコーラ含めた2Lのソフトドリンク各種。パーティの幕開けだ。
「明日のトップ八見たけど俺ら以外全員外国人だな」
「日本のホームなのにアウェー感パナイっスね。ノムさん最近日本語覚えたらしいっスよ」
「あとは……マテオさんもいるな。あの人って何使ってたっけ?」
「ラヴクラフトにダ・ヴィンチ。ポル・ポトとかっスかね。ぶっちゃけ予測するだけ無駄っスよ。それに、当たるならウチら側っス。こっちで警戒するのは……ってか、全員壇上経験者じゃないっスか? 勝てるかな……」
「花月ならなんとかなるだろ」
「女子にぶっきら棒が受けるのは平成の思考っスよひー先輩。なんなら昭和。大正っス。女が三歩後ろを下がっていると思っていたら大間違いっスよ。気づいたら抜かれてる」
「そこまで言ってねぇよ。あ、ってか、ミダさんミダさん。あの優勝賞金何に使うんスか?」
『半分ゲーム。あとは貯金です。いつプロから落ちるか分からないですから』
「貴様の強さなら永劫プロでいられると思うが……。というか、五十万以上もゲームに費やすのか?」
『そもそも、実家暮らしなんで出費が少ないんですよ。音ゲーって意外とお金減るんですよ』
『無料ゲームもありますけど、基本はプレイリスト毎に課金しますし、アーケード籠るならそこそこするんです』
「あ、ってかミダ。今度リズムフィーバーの新作出るらしいっスよ。コラボしない?」
『いいの!?』
「勿論……ひー先輩たちもやるっスよねぇ? 家庭用リズムゲームの金字塔。使うボタンは二つだけ。音ゲー入門を謡ったゲームなんだから」
「ほう。確か私が最初に火鉢に嗾けたゲームか。何が何でも買わせるとしよう」
「じゃぁ俺は何が何でも観覧する側に回るとしよう」
「なに言ってんすかひー先輩。恥は晒すだけ得っスよ。ギャップ萌え狙いましょ。あ、ミダの優勝で思い出したけど、ひー先輩もし優勝したら何に使うか決めてます?」
「どうせゲームに消えるだろうなとは思ってるよ。花月の使ってるレバーレスも気になるし、今年欲しいゲームだけで十は軽く超えるからな。あとは……漫画か。センゴクブレイドってのが最近きててな。忠勝が主人公なんだよ」
「まぁ神喰ライ全体で見れば戦国武将ってまぁまぁいるっスからね。興味出るのは分かるっス。それで言うと最近ラヴクラフトの原作読んだんスけど睡眠不足になりましたね」
『ホラー耐性ないのに見るから……』
火鉢と花月を主にして会話は進んでいき、次第に食事は料理からお菓子へと変わっていく。
「ミダレよ。貴様の運指はどうやったら身につくのだ?」
『あれは自分でもわかってないです笑。親指勢でも魅せプできるんだぞって思い続けたら気づいたらあんな感じになってました』
「魅せプか……貴様は常に見る人を想定するのだな」
『音ゲーって格ゲーとかと比べて個性を出すのが大変なんです。知ってもらう為に始めたんですよ』
アレフとミダレはお互い持ち寄ったタブレットとスマホで音ゲーに勤しむ。
この家には花月に勧められて買った神喰ライ絶火がある。しかもハードは公式で使われる家庭用ゲーム機の最新機種。最後の根詰めにはもってこいだ。
二人は明日の大会に向けて恐らく来るであろうキャラクターを一通り操作しながら、
「ひー先輩。読みの具合はどうっスか?」
「お前に比べたらまだまだだな。攻めの時に使う読みは実戦投入できるが、防御時となるとまだ反射神経に頼り切りな部分がある」
なんて会話を交わしていた。
「そもそもジャンヌとかエジソンって守りに回る展開が少ないから経験値が少ないんでしょうね。この大会終わったらいっそのこと無敵技ないキャラとか使ったらどうっスか?って言っても、中遠距離大嫌いなひー先輩に向いた近距離無敵技無しキャラは限らるっスけど」
「だよなぁ……。あ、ってかDLC発表来るんかな?」
「流石に来ると思うっスよ。第一弾で止める訳ないだろうし」
「したら俺は何が来てくれると嬉しいかなぁ……やっぱエジソン来てほしいなぁ」
「んじゃウチはアラン・スミシーに一票」
「アイツは来るだろ。前作ラスボスなんだし」
「んでも、最後牢獄に閉じ込められエンドじゃなかったでしたっけ?」
「なんやかんや来るだろ絶対」
夜は長い。しかし、明日に向けて十全と言える為には短くせねばならない。
明日、二人に待ち受ける【世界】という強敵は、あまりにも最強。あまりにも魅力的なのだから。
逸る気持ちを抑えて眠るのはさぞかし辛かろう。しかし、今逸っても何も変わらない。世界は変わらず動き続けている。もしかしたら、日付が変わる前に眠ったのは失敗だったかもしれない。しかし、それを知るのは今でなくとも良い。全てが終わった後に、あの世で語れば良いのだ。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。今回はタイトル通り、幕間劇です。カクヨムの方では「.5話」として余談的な感じでタイトルに付けていましたが、なろうはどうも何話目かを明記することができないようなので省きました。
ミダレの運指に関する話なのですが、前の話では「通学中に出来るように」って言っていたと思うんですが、それは半分本当で半分建前だったりします。当時は火鉢達との親密度もそこまでなかったので、「魅せプの為に覚えた」なんて博打打ちたくなかったんです。
さて。次回からですが、いよいよ大会も大詰め。計4話を使ってトップエイトを書いていきます。是非お見逃しのなきよう、お楽しみください。
では、またお会いしましょう。極力早く更新するように尽力します……。これ毎回言ってるような気もしますが。




