初音
なろう版では大変お久しぶりです。お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
では、ご覧ください。
それは年を越して間もない一月の中頃のことであった。三ヵ月前に大々的に告知された神喰ライ‐絶火‐の初の世界規模の公式オフライン大会が此処、日ノ本で行われる。
大会当日、日本に集った計五〇〇人。ここから二日間に分けて大会は開催される。無論、その中には優勝を目下に目指すプロもいれば、記念に参加するようなファンもいる。玉石混交。まさしくそれだ。
絶火発売から初の世界大会ということで、ネット記事やニュースの記者も数多見られる。それだけ注目された一本ということだ。
東京のお膝元、神奈川の沿岸沿いに建てられたネオサイトというドームの巨大さ、そして世界というライバルを前に圧倒される二人。その背中の大小の差こそ大きけれど、見据えるものは同じだ。
「はぇ~、でっけぇな」
「火鉢は五年前にも世界を制したのではなかったか?」
「あの時は格ゲー全体が下火だったからな。これほどでかい会場、人数じゃないのさ」
「ふむ。であれば、今参加できることを嬉しく思おう」
二人が会場に入る。外もそうだったが人の群れで気圧されてしまう。二人は自然と、当たり前のように手を繋いだ。
「あの、モグリさんとぬるぬるさんですよね!?」
高い開始の合図を待つ間、二人で散策していると、ふとカジュアルな場には似合わぬスーツを着た女性記者が話しかけてきた。丁寧に差し出された名刺には「田波 真帆」と書かれている。
「私、五年前から格闘ゲーム専門のライターをさせて頂いている真帆と申します」
「五年前っていうと……丁度俺が優勝した年か」
「そうなんです!実を言うとモグリさんの優勝を書いた記事が切っ掛けで手に職がついたというか……」
「そりゃ嬉しいですね。あの時は不愛想ですいませんでした」
「マッタク、あの時の貴様を見たが、あれは人型”兵器”と言われても仕方ない無感情さだったぞ。安心せよ真帆とやら。もうこやつは当時の兵器ではない」
「えぇ。それはもう、一目見た時から気付いていました。その、変わる切っ掛けなどを聞かせて頂ければと」
目を爛々と輝かせながら尋ねてくる真帆に対し、何処まで話そうか、と暫く逡巡しながら真帆とアレフとを一瞥する。
「そうですね……。簡単に言えば、重りが取れたって感じですね。ぬるが来てくれたのが切っ掛けになるんかな?」
「なるほど……ぬるぬるさんは今大会が初参加だと伺いましたが」
「うむ。その通りだ。私の実力は精々、十段階ある内の五段がいいところ。記念参加と思って応募した。あまり気負わず、こやつの応援に尽力するつもりだ」
そうでしたか。と頷きながら真帆は高級そうなボールペンで素早くメモを取っていく。後目に覗いてみたが、それはおよそ人に読ませるようなものではなく、速記に近かった。
「ではモグリさん、今大会の意気込みを」
「意気込みか……。俺も半分記念参加のつもりなんだがな。まぁ、参加するにあたって万全は尽くしてきたし、やる時は徹底的に、ってのが信条なもんで、五年前を超えられるように頑張りますよ」
そう言うと真帆は暫く驚いたように目を見開いてから、思い出したかのようにメモに記す。
ありがとうございました。と快活に、そして深々と頭を下げてから真帆は他の参加者の元へと駆けていく。
「火鉢よ。真帆とやらは貴様のファンのようだが」
「ってか、たまにキャラ対策に有効な記事も書いてるから知ってるよ。まさか俺が切っ掛けとはな」
「ガチ恋勢の匂いもしなかったし、許すとしよう」
「まぁだそれ言ってるのか……」
時は進んで大会開始の合図と共に十数の対戦台が置かれる。フリーの対戦台を含め、方々からコントローラのボタン音が鳴り響いていた。
火鉢の多くは格下との対戦となった。火鉢の属する最高位のランクである帝プレイヤーは各キャラ上位五〇〇人。そして火鉢は総合キャラランクでも上位一〇位内に入っている。当たり前と言えば当たり前だろう。
だが手加減はしない。それが火鉢が二〇年以上ゲームをやり続けて学んだことの一つだ。どんな相手であろうと、敬意を表して全力で挑む。
五年前は知らなかった。まさか世界に挑むことがここまで恐ろしく、そして何より楽しいものとは。
そして五年経った今、改めて成長を実感する。対戦相手からの「ありがとうございました」の言葉が何よりも嬉しく、感想戦にすら花が咲いた。
「ジャンヌの精度ヤバいっすね。ずっとモグリさんのターン、みたいな」
「あぁ、ありがとうございます。そっちのラヴクラフトもなかなかですよ」
「モグリさんにそう言ってもらえるとはなぁ。参加してみるもんっすね。んで、ちょっと聞きたいんすけど、この時のコンボって―――」
火鉢が順調に勝ち星を挙げているところ、アレフは二回戦目敗退となってしまった。しかし学べることは多い。ネット対戦では無論相手の顔は見えない。だがこうしたオフラインの場では年齢国籍を問わず人類が集まる。隣に座る対戦相手の息遣いさえも読み合いに発展し得る。
二回戦目の相手も、対戦相手は帝のプレイヤーしかもアレフの持ちキャラと同じ勢源だ。絶火からの参戦となった勢源でも、今までの経験値では圧倒的差がある。必敗と言えばそれで終わりだ。
「ありがとうございました。今作から始めたんですよね?」
「む? あぁ、そうだが」
「途中コマンド入力してませんでした? 俺、コマンド入れるだけでも一年かかったんですよ」
「ふむ。まだ全てのコマンドが入力できるわけではないが、兎角褒め言葉として受け取ろう。して、ヨータと言ったな。あそこのコンボはどうするのが正解だったのだ?」
「あれはですね―――」
少し時を遡り、もう一つのブロックでは波乱が巻き起こっていた。現環境最強キャラクターとして名高いDLC二人目の”第六天魔王”を操るプロ、果樹炎が一回戦目で敗退したのである。しかも対戦相手のキャラクターはドが付くほどのマイナー且つ弱キャラのチャップリン。誰もが果樹炎の勝利を確信しつつ観戦する最中、チャップリンを操作するプレイヤーは【一点読み】を連続で一〇回成功させ勝利した。その一点読みの殆どは読みが外れれば第六天魔王相手なら大ダメージを喰らう、恐ろしい選択肢だ。
そしてチャップリン側は一度として読みを通されなかった。それだけ選択肢を散らし、ゲーム内外から果樹炎を圧倒した。果樹炎は負けるビジョンが浮かばなかったところからワンラウンドすら取れず敗北した。半ばトラウマを植え付けた形になる。
彼女はレバーレスのアーケードコントローラを脇に抱えると、亜果樹炎に対して深々と頭を下げ、そそくさとその場そ後にした。
プレイヤー名はこう記されている。”シテ”と。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。ここからはいつも通り雑談タイムに入りますので、興味のある方だけでも読んで頂けると幸いです。
この話から舞台は世界大会へと移ります。最新を更新しているカクヨムの方では5.5話分話が進んでいるのですが、それら全部二日間の出来事です。つまり、私はこれから二日間を一万文字以上で書こうとしているわけですね。今思っても気が狂ってます。ラノベはテンポ間が重要だと言うのに……。
この話、というかここからさっき伝えた話数分は多分半日程度で下書き書き上げてるんですよね。それだけ世界大会というのを書きたかったんでしょうね。私にとっても大舞台です。
で、大会についてなんですが、下書き書いてる時ってまだ「オフイベ」とか「オフ大会」に出たことがなかったんですよ。だから細かい描写等出来てなかったんですが、今年の冬に格ゲーの世界大会? 日本大会? に初参加しまして。そこで得た知見なんかを取り入れている次第です。規模感や祭り感なんかを感じて頂けると嬉しいんですが……どうでしょう?
というか、なろうとカクヨムを両立してて思ったのですが……と言ってもなろうは話数毎の試聴数は見れないので大雑把ですが、やっぱ客層の違いを感じますね。
カクヨムに最新話を更新している時はゲームを深堀する回を重ねる毎に試聴数が下がっていって、日常回っぽいタイトルにするとまた試聴してくれる方が戻ってきたりするんですが、なろうはコアな方が多いようで、毎回ある一定数の試聴数は取れるんです。
そこで思ったのですが、やっぱ日常回欲しいですか? 色々語りたいですが、取り敢えずこれだけ聞かせてください。
ではまた、何処かでお会いしましょう。




