第27話 初めまして。そしてよろしく。
大分と更新が途切れてしまい申し訳ありませんでした。
では、ご覧ください。
年の瀬、それはほぼイコールでセンチメンタルな気持ちになる。それが火鉢の思う年末だった。亡くした家族を偲び思う。無論、常日頃思っているわけだが、年末と命日だけは一層心が震えるのだ。それ以外に考えることがないと言ってしまえばそれで追えるのかもしれないが。
兎角、火鉢はどうも年末が苦手なようだった。生まれた時からやっている年末恒例の歌番組も、現代の流行に疎く、演歌も大して興味のない火鉢にとってはどうでもよいもの。
「アレフ。起きて」
「むぅ……そぅ、だったな」
隣でスヤスヤと寝息を立てていたアレフを半ば無理矢理起こす。配信やゲームの練習なんかもあって彼女もすっかり夜型となってしまっていた。
口をモゴモゴとさせながら歯磨きを済ませ、簡単に身支度を整える。その漆黒の翼や尻尾を収納する魔法もすっかり定着して、当初よりも随分と馴染んだ。
「ほぅ。雪か。大晦日に初雪とは中々に縁起が良い」
「なんだ。アレフなら犬みたいにはしゃぎ回るのかと思ったのに」
「莫迦にsるうでない。これでも立派なドラゴンなのだ。畜生と一緒にするな」
「まぁまぁ。犬も可愛いとこあるんだぞ?」
「知っている。貴様よりどれだけSNSにへばりついていると思っているのだ。だが、私は敢えて言うのであれば猫派だな」
同感。とだけ返していつものセットを倉庫から取り出し、二リットルのペットボトルに水を注ぎ、寒い中家より這い出る。
アレフと昨日から今日に変わる頃にやっていた花月やミダレも参加する大型のOHCAのオンライン忘年会の話で盛り上がっているとあっという間に目的地に着いた。砂利と石を寄せ集めて作った何とも不格好な感覚もまばらな階段を昇り、いざ目の前へ。
「改めてにはなってしまうが、本当に良かったのか? 何度せがんでも貴様は首を縦に振らなんだろう」
「まぁ大晦日って特別な日だからな。スタートにはいいだろうよ。さ。アレフも水をやってくれ」
二人の眼前にあるのは墓石い。無論知らない先祖や他人のものではない。両親祖父母たち、家族の遺骨の収まった小さな墓石だ。その対面にある、戦争で亡くなった勇敢な兵士に送られた墓石に比べたら質素で、ありふれた墓石だ。
火鉢に促されるようにか細い腕でペットボトルを抱き抱えるように持ったアレフは慎重に慎重に、墓石の前に作られた小さな窪みに水を注いで、それから両脇にある花立の水も取り換える。
「こうして俺とアレフが巡り合ったのも何かの縁だ。それを家族に見せないのはどうもな。あとは踏ん切りがつかなかったんだよ」
「そういうところは、相も変わらず臆病なのだな。さてと、次は線香……だったな。祝詞は挙げられぬが、精一杯祈ろう」
ありがとよ、とはにかみながらアレフと共に墓石の前で手を合わせる。
今まではどうしても家族にアレフを紹介するのは躊躇われた。理由は火鉢の中でも判然とはしていない。ただ恐らく、新しい家族を紹介してしまっては過去の家族を忘れてしまうのではないか、と思っていたのだろう。最近になってそらが間違いであると知った。
家族とは、最高の腐れ縁なのだ。何処かで、何か別の形かもしれないが出会うのだろう。それは所謂死後の世界かもしれないし、転生後の世界かもしれない。将又、現世界でふらっと蘇るかもしれない。
小難しいことは相変わらず分からない。火鉢は死後の世界も、転生もこの目で見ていないから信じない。ただ、死んだら肉体が燃えるだけの事象に過ぎない。でも、何処にもいないとも思わない。
共に思う。アレフはもう既に、家族であると。寝床や食卓を共にし、共に泣き笑い、あきれ返る程に平凡な日々を願ってしまう程度には、彼女は既になくてはならない存在なのだ。
火鉢とアレフが出会ったのは運命の巡り合わせだったのかもしれない。将又ただの偶然かもしれない。でもまぁ、それで良いではないか。何にしたって、結果は今、こうして楽しいのだから。それに感謝しないのはあまりに人間らしくない。生物らしくない。
「さてと、後は掃除だな。と言っても、俺が毎朝来てるから目立ったものはないが……」
「そうであるならば、私は雪を払ってやろう。なに、気にするな。私を家族に見せたかったのであろう? であれば、私は親切な竜であることを証明するのみだ」
ぱっぱ、と浅く積もった雪を手袋を纏った手で払う。
新しい家族が来たとしても、過去が消えるわけではない。それは残酷で、とてもありがたいことだ。あの過去が無ければ、今の火鉢はもっと明るく元気で、愛想もいい絶好の青年だったのかもしれない。だが、それであったのならばアレフとは出会わなかっただろう。プロゲーマーになれたか? 恐らくは否だ。現実世界に満足してゲームも碌に触らなくなったのではないかしら。
全ては最善世界で回る。火鉢はきっと、今が全ての世界線において最も幸福なのだろう。自覚などしなくてもよい。ただ、過去を偲ぶことも、今を想うことも、どちらも両立できることを知れたならば、それだけで世界は最善なのだ。
「アレフは演歌はお好みじゃなかったか」
「うぅむ。よく喋り方が古風だと言われるのだが、別に古いものが好きと言うわけではないのだ。説明は難しいのだがな……」
「何となくわかるよ。さて、そろそろ行くか」
「む。何処か行くのか? 年が変わるのにあと一五分。習わしでは家で過ごすのではなかったか?」
「実はな、神社で毎年この村の皆が集まって酒盛りをしてるそうなんだ。俺も行くのは初めてなんだが、アレフと一緒なら是非とな。ささ、準備だ準備」
とやけに上機嫌な火鉢はこたつの電源を切りアレフを半ば無理矢理外に連れ出す。二人とも、部屋着にぬくいセーターを羽織っただけでおよそ人に見せる姿ではないが。
外は今日一日振り続けた雪が銀世界を描き、足踏みするだけでもその場に居たという証拠が残ってしまう。
「しかし夜は冷えるな。先刻カレーを食べていなければ凍え死んでいたやも知れぬ。火鉢よ。いつになったら私にコンロを使わせてくれるのだ?」
「万物を焦土に化す竜がよく言うよ。火加減ってのは料理において最重要なんだ。そこは大黒柱の俺に任せておけよ」
「しかしそれではよくある「先にご飯作っておいたわよ~」ができないではないか。アニメでは重要な家族のワンシーンなのだぞ」
「毎朝のレがその役目してんの。いい加減気づけよ―――。お、集まってるな」
暫く歩いて、川を跨いだその先に神社が聳える。町の御老人たちが寄せて作った門松やなんやらも見事に映え、いつもは神主さえいない寂れた神社が強は火鉢の知る大晦日で最も温かく見えた。
「よっ。やっと火鉢達も顔を出すようになったか」
「ゲンさんではないか。む。その手に持っているのは酒だな? しかも匂いから分かるぞ。上等なものだ。どこに置いている」
「そこそこ。店でも出さない俺のとっておきだ。存分に味わえ」
言われるが早いか、ザッザッ、と溶け切らない雪の上を小走りで歩く。
冬の星空は、田舎の自慢の一つだ。ほぼ無限に広がる大宇宙を前にしては、星座などは分からなくとも、ただ美しいことを知ってくれればそれで良い。
「かのゲームテキストに書いてあった。宇宙とは、自分のそのすぐ上にあるのではないかと。眼前に広がる夜空を眺めているとそれがひしひしと伝わるのだ」
「おっ、アレフちゃんあのゲームクリアしたのか? 俺ぁまだ三番目のボスで止まっててよ」
「ゲンさんは数年まで仕事一本だったからな」
ゲンさんがゲームを始めたのは数年前。定年を迎えてからだった。簡潔に言えばボケ防止のためにスマホのゲームから始まり、今やこの町最年長のゲーマーになっている。とはいえ、六〇になってから始めたものだから物覚えは悪いし、反射神経など比べるまでもない。センスは皆無に等しいが、楽しむ者を阻む無粋な輩などこの町にいようはずもない。
「あやつはパリィの先生と思えば良い。私をあやつをやるまでは盾を持っていたが、それでは駄目だと思い知らされた」
「お爺ちゃんにあの速度で攻撃を見抜けってのぁ、無理な話だぜ」
なんて会話を耳の端で捉えながらふと時計を見ると、丁度年が変わった頃だった。
「あけましておめでとう。ゲンさん。アレフ。今年もよろしくな」
「おう。愚痴ってんならいつでも聞くぜ」
「うむ。私もより一層、貴様に貢献できるよう尽力とを尽くそう。据えるは今月の大会だな」
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。今回は箸休め回として、年の瀬を書いてみました。最近ではめっきり見なくなりましたが、年末年始に降る雪って特別感があっていいですよね。
今回のお話は特段これと言って語るものが少ないですね……というのも、次回から舞台が大きくなります。それにあたって、比較的抑えめにしたんですよね。
まぁ、何も無いのもアレなので、この話の裏話を一つ。
前編の墓参りの辺りは私が祖母の家に帰った際毎回していることなので何ともないのですが、後ろの神社でみんなでワイワイ年を越すというのはちょっとした私の実体験も絡んでいるんです。
というのも、私の祖母の家というのは本当に田舎の限界集落でして、最寄りの駅まで車で三〇分とかかかるド田舎なんですよ。そこでコロナ前に一度だけ年を越した後に母親と祖母とで散歩していたらですね。公園で甘酒の絡んだ小さなお祭り?がありまして。もう五年以上前なので記憶も朧気ですが、知らない人と会話するのがマァ楽しいこと。
今回はゲンさんという知人との酒でしたが、こういった酒を飲みながらワイワイ年を越す、というのが私の夢の一つなのですよ。マァ祖母が生きている内は帰省しますでしょうし、叶うのは随分と先のような気がしますがね。今はしっぽりとテレビ越しに除夜の鐘を聞きながら年を越すのもいいなと思っている次第です。
サテ、次回ですが、いよいよ世界大会編!!ここは気合入れてがっつりと書き込んでおりますので、是非お楽しみにお待ちください!
ちなみにですが、二三時も半を過ぎて今日中に投稿できるか心配になってきましたが、同時進行でカクヨムの方で最新話を執筆中ですので、そちらも要チェックですよ。
ではまた何処かでお会い致しましょう。




