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若君は今 ②

 お久しぶりです。口十です。

 ではご覧ください。

 バトリズム全国決勝。ミダレはこの日、異次元の躍進を見せていた。ベスト(エイト)から今、この決勝に至るまで一度としてミスを出していない。ミスはおろか、殆どの楽曲で理論値一歩手前(AllPerfect)を引き出している。正確に言えば、一度理論値(AP)を出している。

「俺でも分かるぞ。バケモンすぎんだろミダさん」

(いや)、火鉢の思っている以上の事件なのだ。本来、音ゲーというものの理論値はエンドコンテンツのさらに上。ミダレの自選曲である”王の雫”は理論値達成者は五人といない。そこに緊張もあろうが……否、ミダレはこの状況下さえも楽しんでいるというのか?」

 漆黒の翼を折り畳みムゥゥと唸る。

 大会に必ず付き纏ってくる緊張。それはあらゆる要素によって引き起こされる。如実に現れるのが対戦相手との実力差。これは上でも下でも、無論対等であろうと襲い来る。そして観客のどよめきや実況の音声。床がいつもと違う材質というだけで本領を発揮できない選手もいる。

 その中での本領発揮。緊張すらミダレにとってはバフなのだ。それを証明するようにカメラに映る青髪の彼はいつだって笑っていて、対戦相手と始まる前には拳を合わせ、終われば必ず握手をし、果てはルンルンとタップダンスを踊る始末。配信にゲーム中の彼の表情は映らないものの、運指には先に述べた指越し指くぐりを含め遊びすら垣間見えた。

「火鉢よ。こやつの精神、少しは活きそうか?」

「あぁ。大分と元気貰ってるよ」

 呆れる程に、開いた口が塞がらない程に、ミダレは大会を楽しんでいる。人類史上最高到達点とも言える火鉢の動体視力で捉えた画面はいつにも増して煌びやかに見える。

 実はアレフが今回のバトリズムの全国大会を火鉢に見せたかったのは単純に楽しさを共有したいことと、もう一つ理由があった。

 一ヵ月後に差し迫った神喰ライ絶火の初の公式が運営する超大規模大会。参加規模は低く見積もって延べ五〇〇名。火鉢とアレフは既にエントリーをしてある。

 少しでもいいからミダレから精神か、何かを引き継げないかとアレフは狙っているのだ。

 そんな火鉢達の狙いなど露知らず。バトリズムの大会は欧州部門を終え、いよいよ残すところ”ミダレ”と”ゴギガ”の決勝のみとなった。偶然か必然か、それは去年の全国大会と全く同じ顔ぶれ。しかし違う点は幾つかある。まずはバトリズム自体の大型アップデートによるバージョン変化。これにより難易度が改められ、より精密に区分されることとなった。

 そして何よりも違う点。それはミダレに負けの色が全く見えない事である。一度のミスさえ出さず上り詰めたこの決勝において、それは何よりものアドバンテージ。ゴギガにとってはどれだけプレッシャーというナイフを突きつけようと満面の笑みで鼻歌歌いながら歩いてくるのだから、銃を取り出すしかない。

『ゴギガさん。今回も勝ち、貰います』と書かれたスマホを突きつけ、勝利を約束するように観客に向けてガッツポーズ。いよいよもって彼に台頭できる存在が限られてきた。

「実況も言っておるが、ここを制せば前人未踏の三連覇となる。うむ、まぁ、正直言ってしまえば、その未来しか見えぬのだが」

「同じく。ミダさんバケモンみてぇな指使いしやがる。ってか何よりも楽しみすぎだろ。不安とか一切(よぎ)ってないんだろうな」

 配置につき、実況の合図でスリーカウントをした後に、最初はゴギガの自選曲。決勝は三曲のスコア対決となる。一、二曲目は各々の自選曲。そして三曲目は毎回大会の為に新規書き下ろしの最高難易度曲が御約束だ。

 彼が対ミダレに引っ提げた曲は『世界制セヨ』。前回大会で発表された現段階最高位に位置する曲である。激しいハードテクノにはおよそ休息と呼べる区域が存在せず、常に高BPMに(さら)される。その中で二十四分のトリルというおよそ人間に押させる気のない譜面が乱立している。文字通り、これを制覇した者は世界を制する楽曲となっている。

 世界制セヨのAP達成者はゴギガとミダレ含め世界で二十名余。大会でこれを出すということはゴギガにとって最大のミダレ対策と言う訳だ。

 ミダレの特徴として、先に述べたピアノのような運指の他に、極端に【餡蜜】というスキルを使わないことが挙げられる。否、順番が逆だ。餡蜜と言うスキルを使わないように鍛えられた結果のピアノを髣髴とさせる運指なのだろう。

 このスキルは感嘆に言えば高速の階段やトリルを同時押ししても理論値とは行かずとも通過できる許容範囲のタイミングで押すというものだが、彼はそれを極端に嫌う。理由は至ってシンプル。『譜面を心底から楽しみたい』だけ。だからこそ彼の運指は美しく洗練されているのだ。無駄な擦りがなく、全てのノーツに対して真摯に向き合っている。

『両者AP!!?? 何が起こっているんだ一体!!』

 実況の混乱と会場のどよめきが画面を飛び越えた。

 そして二曲目に選んだミダレの自選曲『羅城門』はホラーテイストの混じった最高難易度曲。この全国大会に出場している者の中で唯一、ミダレだけが理論値を達成している、今最高に仕上がった状態で迎える最高にして最好(さいこう)の楽曲。

 この楽曲。ミダレは理論値を達成し(エンディングをむかえ)た後でもやり込んでいた。より美しく取る為に、より楽曲に沿った形で音を取る為に毎日のように聞き込んだ楽曲だ。

理論値(APC)!? この土壇場で理論値登場です!これにはミダレ渾身のガッツポーズ!』

 そうして迎えた最終楽曲。息を呑み二人が『?』と表記された楽曲選択画面を選ぶと、画面は演出へと切り替わる。

 何とも神々しい、そしてこれから迎えるであろう地獄を想起させる悍ましい楽曲は【レジェンダリーマスター協奏曲「虚白」】と銘打たれた。ピアノのソロから始まり、今までの最高難易度にないクラシックの楽曲となっている。

 両者初見譜面に合わせてノーツの落下速度などを変化させ挑む。ミダレにとっては三連覇という神に挑むのだからこれ以上ない興奮であろう。



 この楽曲、最後に残った印象は二つ。【圧倒的なリズム難】。そしておそらく人間が押すことを想定していないであろう【絶望的な小粒の指押し】。譜面を通して長押し(ロングノーツ)が殆ど存在せず、ピアノの鍵盤を基に作成された小粒のノーツは片手で三鍵を要求され、もう片手で別のリズムを押させるというものであった。

ミスなし(AP)!? 初見だよなぁ!?』

 しかし、これぞミダレの得意分野。二十年以上遊んで培った一瞬の譜面判断力とあらゆる音ゲーで鍛えられたピアニスト顔負けの運指。そして何よりも全ての重圧をアドバンテージと感じてしまうアドレナリンの発露によって、この異常事態が巻き起こっている。

 ロングノーツがなく、一つのミスが命取りとなる単押しと呼ばれる小粒のノーツが大量に降ってくるということ。そしてクラシックであるが為に現代的な楽曲とは異なるリズムを要求される。只管に似たような譜面をやらされるだけあってゲシュタルト崩壊すら起こし得る。それら凡て、ミダレは看破した。

「俺にゃ凄さがいまいち分からないんだが……格ゲーで言うとどれぐらいヤバいことなんだ? いや、譜面がバケモンすぎるのは分かるんだけどよ」

「うぅむ。そうだな。異例さだけならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()程の異次元ぷりであろうな。私には到底、想像でしかないが」

「バケモン過ぎんだろオイ」

「火鉢よ。ただ見ているだけだったようだが、同じチームメイトとして貴様はこやつと並ばねばならないのだぞ?」

「そうだよな。俺もうかうかしてらんねぇな。っし!エンディング終わったらソッコーチームメイトに声かけてスパーリングしてもらうとするか!」

 ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。相変わらず不定期ですね。いつになったらちゃんと投稿するのやら……。

 さて、ここまで①、②話と「若君は今」ということでミダレを中心に話は進みましたが、如何でしたか?今回の話はゲームの面白さ、というより”ミダレのイカレ具合”を表現したかったので、個人的には大満足でした。一回彼の運指をリアルで同じゲームで試したんですが、脳が機能不全を起こして何も動かなくなるんですよ。ピアノに慣れてる方ならまた違うんでしょうが、私にとっては未知の領域でしたね。

 さて、今回登場したバトリズムの楽曲『レジェンダリーマスター協奏曲「虚白」』にも元ネタが御座います。バトリズムの元ネタから、更に文字の配分とか使い方が似てる曲を探し当てて頂ければイメージしやすいかと。


 そして、今回覚えておいてほしいのは一ヵ月後に大会があるということです。最新話を更新しているカクヨムの方ではようやっとその「大会」を書くことができたので、今からが楽しみで仕方ありません。なろうでこうして語れる日が来るのも亦楽しみですね。


 ではまたお会い致しましょう。

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