表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/33

若君は今①

お久しぶりです。更新が遅れてしまい申し訳ありません。

では、どうぞ。

 一二月末、アレフにとって待望の日がやってくる。

「火鉢よ!そろそろ始まるぞ!いつまで食器を洗っておるのだ」

「お前がいつも以上に食うからだろ。今終わったよ」

 火鉢の部屋から呼びかけるアレフの声がいつも以上にワクワクとしている。

 手を拭き終えた火鉢が部屋に戻ると、今にも飛ぼうかという勢いで漆黒の翼をばたばたとさせ、明らかに興奮しているアレフが立っていた。「ん!ん!」と顎をやっている様を見るに、いつも通り火鉢の膝の上に座りたいのだろう。

 膝の上に座ったアレフは翼も尻尾も暴れに暴れており、まともに画面も見れやしないが、正直この日の素晴らしさを上手く分かっていない火鉢には丁度いいやもしれない。

「ってかミダレさん出るんだ。なんか意外」

「何を言う。ミダレは前回、前々回覇者だぞ。むしろ台風の目なのだ。―――と、始まるぞ。とくと見よ」

 とくと見よ、と言われても翼が邪魔でよく見えない。

 その見えない画面の先では、ミダレをはじめ、登場する面々の紹介ムービーが流れていた。

 ミダレの失語症は大学に入学した頃に発症した。最初は大衆の面前でのみ症状が見られたが、今や家族との会話も文字で行っているそうだ。その彼の紹介ムービーには音声は無く、代わりに大仰にガッツポーズを店、文字で『こんな素晴らしい舞台にまた立てて嬉しいで鵜s!連覇を目指して頑張ります!』と書かれていた。彼のOHCA専用ユニフォームには超有名ゲーム会社のロゴが彫られている。

『皆さま!ここからバトリズム‐フォーチュン‐の全国決勝をお送りしていきます―――』

 アレフ曰くネットで大活躍中のアイドルユニットの一人が進行を務め、これまたアレフ曰く音ゲー界の最上位プレイヤーを解説に迎えたバトリズムの全国大会決勝。

 バトリズムとは、約十年前に稼働を始めたアーケード音楽ゲームの金字塔である。今までになかった空間の動作を感知するセンサーや、フリック入力を搭載した新進気鋭なデザインによって瞬く間に大人気タイトルにのし上がったこのゲーム。火鉢に言わしてみれば『どのゲームセンター、否、大型ショッピングモールのゲームコーナーにも置かれている超有名タイトル』ぐらいの認識だが、アレフは違う。その身でもってその難易度に喉を鳴らしたのだ。

 バトリズムは先ほど述べた空間センサーによって他の音楽ゲームとは難易度のベクトルが違う。空中で手を動かすのだ。アレフの好むリズムマニアという音楽ゲームは圧倒的な物量で降ってくるとは言え、ボタンを押す行為のみなので、比較的脳がキャパオーバーを起こす可能性が低い。無論、その物量でもって認識が一時的に困難になる混乱こそ起これど、特殊なギミックがない限りはある程度身の丈にあった難易度を選べば十二分に楽しめる。

 だがバトリズムは違う。空間センサーがあるということは、単純に手の動作が一つ多くなる。確かにタッチパネルを押すタイミングを示す判定ラインは一つのみだが、タップの後に手を上に上げなければならなかったり、それを維持しつつもう片手で連打を処理しなければならないなど、要求される認識力が高いのだ。

 更にもう一点付け加えるのであれば、これは人によっては他のゲームよりも落なことなのかもしれないが、ノーツが一定の大きさではない。超小粒なものもあれば、判定ライン全てを覆うノーツもある。音ゲーのタッチパネルの自由度を世界に知らしめただけあって、その全てをカバーするのは非常に時間を要する。

 今回の大会に向けて、全国でオンライン予選が行われており、それを勝ち抜いた上位七名と、先月開かれた敗者復活戦(LCQ)を勝ち抜いた一名の計八名で雌雄を決する。

 ルールは至ってシンプル。お互い一曲ずつ持ち寄った計二曲での一対一のスコア対決。

「んで、ミダレさんは二連覇中と」

「うむ。トーナメント上では遠い位置に居はするが、前回大会で接戦だったゴギガと言う選手もいるようだ。しかし、ミダレの出場は最後か……」



 二人が、否、三万人以上が見守る中、ミダレが登場する。インタビューに対し彼はスマホに文字を入力し、インタビュアーがそれを読み上げていた。意気込みを聞かれたところ『楽しみます!!』とのこと。実況者曰く、毎年恒例らしい。

 LCQを勝ち抜いた男、ゆ~えんが選んだ曲は選べる対象楽曲の中で最高難易度十五の”ロキ”。変速、追い越し何でもありのまさに”変化球”。そしてこの曲をゆ~えんが挙げたのには確固たる自信があった。それは彼がこの曲唯一の|理論値《All Parfect Critical》保持者であることだ。

「こりゃ分が悪いな」

「しかし、ミダレも理論値一歩手前までは行っていると聞く。先のインタビューを見るに、ゆ~えんは決勝まで上がるのは初めてのようだ。緊張もあろう。決して負け戦などではないはずだ」

 会場一体となったコールの後、試合開始。

 前に、音ゲーと格ゲーは対になっていると語った。だが、こういった大会の場面では異なる。両者共に、どれだけプレッシャーに負けずいつもの自分で戦えるかが大会の結果を大きく左右することになる。

 ロキは変則的な譜面であることは先に述べたが、ミダレはゆ~えんがLCQを勝ち上がったことを知った時からこの曲が来ることは分かっていた。つまり《《読み》》を通した。だから対策も容易であった。速度変化、ノーツの追い越し、そして高難易度なだけあって物量さえも持ち合わせている。ただ、その速度変化などを対策してしまえば存外高難易度の中では精度を取りやすい曲という評価もある。

 多くの音楽ゲームプレイヤーは語る。

【ミダレを参考にするな】

 それは決して美しいからだけではない。変速的な指の動きをするのだ。基本的にこういった広範囲に判定を持つタッチパネルをはじめとした音ゲーでは右手の指でタップした直後のノーツは左手で取る。大抵は薬指や小指まで行けば手を交差してでも逆の手を使うのが定石だ。

 だがミダレは違う。ピアノで言う指くぐりや指越しを駆使するのだ。それは決して一朝一夕で身につくものではないし、並大抵の練習でなせるものではない。そもそも、その発想すら思いつくことが少ない。彼がそれを身につけたのは、スマホで四本の指を使うという異次元のプレイをしたが故である。

 そして、その独特すぎる運指でもってバトリズムで数多もの理論値を叩き出している。だから言うのだ。参考にするな、と。

 彼の音楽ゲームに対する愛情は計り知れない。火鉢が格闘ゲームに対して持つ情熱よりも遥かに高いだろう。と言うのも、彼はゲーマー人生において、交流会用に買ったものを除いて音ゲー以外を買ったことがない。インストールしたことすらない。

 普通のゲーマーは受験生が勉強の息抜きに読書やゲームをするように、別ジャンルのゲームである程度中和というものをする。無論、それが不要なほど熱中する時もあれば、別ジャンルで培った経験値がメインのゲームで活きたりもする。大人気ゲームが出たともなれば誘惑だって計り知れない。

 しかし彼にはそれがない。純度百パーセントの音ゲーマー。降ってくるノーツに合わせてオリジナルの運指でもって試行錯誤の末パーフェクトを引っ張り出す。音ゲーの息抜きに音ゲーをし、その音ゲーで培ったものを更に音ゲーで昇華させる。

 万物が音ゲーに通じ、万物が音ゲーに吸収されるのだ。

 ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

 酔っ払い口十です。何なんでしょうね。外で飲む分には十杯と飲んでも酔わないのに家で飲むと軽い酒数杯で酔っ払ってしまいますね。


 さて、今回登場したバトリズムはゲーセンに行ったことあるなら分かるんじゃないかな? ってのが元ネタです。私あのゲーム大好きなんですよね。というか、人生初ゲーセンで遊んだのがこれなので思い入れが深いんですよ。

 最近?初めて音ゲーの大会をライブで見ましたが、あんなに白熱するもんなんですね。格ゲーに負けず劣らず、私もこの小説を書き続ける限りはシーンを追い続けれたらなと思います。


 さて、ミダレですが、指越し、指くぐりといった技が凄いんですよ。音ゲーって基本ノーツが高速で降ってくるので、慣れていれば慣れているほど反対の腕を動かしたくなるところを瞬時に判断できるってところが激ヤバポイントなんですよね。

 そもそも、この彼らしい運指を思いついたのは結構前でして、とあるスマホゲーで四本同時押しノーツを親指とそれを越す人差し指で取っていたのがどうしても頭から離れず、こうして小説に落とし込んでみた次第です。

 現実で出来るかは兎も角、出来たらめっちゃカッコイイですよね。


 さて次回ですが、今月末の更新を目標にしています。是非気長にお待ちください。

 ではまたお会いいたしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ