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田舎町の大きなハロウィン

 火鉢が倒れた数ヵ月後のことである。定期的な診断も終わり、ようやっと平穏が訪れたある日のこと。

 ハロウィン当日。と言っても、この田舎町でやることは少ない。何か町を上げてイベントをやる訳でもなければ、超高齢化社会だ。子供が多いわけでもない。老人にトリックオアトリートとせがんでも出てくるのは煎餅(せんべい)や渋柿等々……。

「火鉢よ。何をボケっとしている」

 だが、こと火鉢家では浮かれている人間(?)が一人いた。アレフだ。この日の為だけにわざわざネット注文した囚人の服に手首には足枷。右足首には段ボールで作られた鉄球がつながった足枷さえ付いている。銀糸の髪はわざとボサつきを作っているが、花菖蒲の瞳は反対に爛々と輝いている。

 火鉢が不意に言ってしまったのだ。「来月はハロウィンだな」と。それ以前にもアレフのやっているソシャゲでハロウィンという存在には触れていたのだが、その実態に触れることはなかった。だからアレフも興味がないものだとばかり思っていたがどうやら違ったらしい。

 日本のハロウィンはほぼコスプレパーティと化している、と告げると今度はコスプレしてみたいと騒ぎ立てて言うことを聞かなくなる。渋々安い囚人服とついでに黙らせる意味も込めてコスプレ用の手枷をネットで注文した直後、アレフが火鉢の分を勝手に買い足したのだ。

「マジでこれで町歩くのか…?恥ずかしいどころの次元じゃないぞ」

 沸騰した薬缶(やかん)のように顔の赤くなった火鉢の頭には狼の耳が。そしてベルトに噛ませるように尻尾が付いている。服装もグレーで統一して簡素な狼男が出来上がりだ。アレフ曰く、もっと威圧感を出せとのことだが、恥ずかしさでそれどころではない。

「良いではないか。今日は無礼講の会社も多いのだろう? であれば私達も無礼講と行こうではないか」

 何か含みを持った笑みでアレフは頑固な出不精の大型犬となった火鉢を無理矢理外へ連れ出す。

 十月の十八時。既に陽は沈んでいる。空には既に幾つかの主張の激しい恒星が見えており、街灯と住宅から漏れた光が少し道を照らすばかりとなった。

「おい、まさかこれで家々を練り歩こうって魂胆じゃないだろうな?」

「流石の私もそのようなことはしない。少しは脳裏を(よぎ)ったが―――私も火鉢が本気で嫌なことはしたくないのでな。だから今日はこれでゲンさんのところに行こうではないか」

「いや、恥ずかしいレベルで言えばそんな変わんねぇんだけど……まぁ、全員に見られるよりはマシか」

 ステップを踏むアレフに連れられ、人とすれ違わないことを心より願いながらゲンさんのいるsecond life へと歩いていく。

 しかし、これら全てアレフの狙い通りとは火鉢も全く想像していなかった。

「おいおい、なんだこりゃ」

 second lifeの扉を開いた瞬間、全くと言っていい程にいつもと違う様相に気圧される。

 この町にいる数少ない若者をはじめ、老人や子供達がコスプレをして店中に鳴り渡る最新の音楽に合わせて数々の装飾で彩られた非日常の中で歌い踊っていたのだ。

「おう、今夜の主役がやっとご登場だぞ」

「ゲンさんまで何を―――」

「あ、ひー先輩やっと来たっスね」

 火鉢が状況を掴めない中、より現状を難化させる要素が現れた。県の都市部に住んでいる筈の花月が何故ここにいる? しかも血塗れナース服で。

「鳩が豆鉄砲食らった顔ってのはまさにこれだな。花月ちゃん、感謝するよ。まさかあの大人気配信者が火鉢の後輩とはな」

「アレフちゃんの頼みとあらば断われないっスからね。ひー先輩、これは全部アレフちゃんが発端なんスよ」

 花月とゲンさんの視線の先にいた、嬉しさで皆の輪に混じり踊り回っているアレフへと視線を向ける。

 どういうことだ? と全く状況が掴めない中尋ねると、アレフは心底嬉しそうに手枷のされた手を掲げた。

「私と火鉢がプロゲーマーになってから一度もこういった祝いの席を用意していなかっただろう? ハロウィン関係なくサプライズをするつもりだったのだ。それが偶然ハロウィンと被ってしまってな。それでゲンさんに話を付けたらとんとん拍子で進んでいったのでこうすることにした。花月は気付いたら話の中にいたのだ」

 なんとも恐ろしい話だ、と締め括るがそれでは火鉢は冷静を取り戻せない。

「ひー先輩、これが現実っス」

 一番説明して欲しい要素が説明されなかったことも現実だろうか?

「現実かぁ……なら、仕方ないか」

「火鉢さんってあのモグリなんでしょ!? ゲーム強いの!?」

 火鉢がようやっと色々と飲み込めた頃、恐らくこの店内で一番幼いだろうオバケの仮装をした小学生が話しかけてきた。

「えぇっと確か久本さんとこのお孫さん。そうだよ。俺がモグリだ」

「こやつの実力を侮るでないぞ(わらべ)よ。()の王を下したのだぞ」

「王? なら、俺とも勝負してよ!」

「勝負っつったってなぁ。ゲーム機なん……て……」

 ぴょんぴょん跳ねる久本家の孫を撫でていると、やっと掴めてきた状況がまた変わっていることに気付く。先程までのディスコのような音楽は流れておらず、聞き馴染みあるゲームのBGMがスピーカーから流れ出していた。それは静謐(せいひつ)で、淑やかな、しかし闘争心を擽る実に精密な音楽だ。

 店の奥やカウンター端やに壁掛けられた、昼間はニュースを流しているテレビには大仰に”神喰ライ”のタイトル画面が映っていた。その前に佇むゲンさんン大してポカンと目をかっ(ぴら)いているとにやりと笑う。

「火鉢を歓迎するってんならこんぐれぇしねぇとな。老若男女、この町にいる奴らはお前が自慢なのさ」

「久本~。お前が負けたら次俺だからな。あのモグリさんと戦えるなんてすげぇことなんだぞ!」

「千代子さんとこの……っしやるか!ここまでお膳立てされてんだ。やるしかねぇだろ」

 パンパン!と頬を叩いて気合を入れ直し、店の奥にあるテレビの前に設けられたパイプ椅子に座る。なんともまぁ、ゲーム向きではない態勢だが、子供を相手取るなら良いハンデではないか。しかし、最近の子供はゲームに触れる速度も成長速度も尋常ではないと聞く。これは用心せねばプロゲーマーとして名折れだ。

「そう来なくてはな。御老人、安心すると良い。今日は実況兼解説で花月も呼んでいる。分からぬことがあれば私か花月に問うと良い。それから、この後はカードを使ったゲームも予定している。奮って応募してくれ」

「ゲームなんて何年ぶりかしら」

「あら、紗代(さよ)さんやったことあるの? 私なくって。ふふ、初めてって何歳になっても体験できるのね」

「火鉢くん、頑張ってね~!おばさん、応援するから!」

 この町に住んでいる住人の八割は五十代を超えて、家族や友人等、親しい間柄の人間がいない辛さを知っている。火鉢の厄災を知る者は少なくとも、アレフが来るまで一人で暮らしていたことも皆が知っている。だからこそ、ここまで躍進したのが嬉しくてたまらないのだ。

 アレフというかつては小さかった波が、確かに町へと、世界へと広がっていく。

 ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

 竜に願えば最新話更新しないとなぁ~、とページ開いたら最新の一つ前も更新してなくて今あんぐりとしながら何故ここまで読者を待たせてしまったか猛省しつつ書いております。何なんでしょうね。この後回し癖。昔は無かったんですけどねぇ……。それこそ宿題もさっさと終わらせるタイプだったんですよ?


 さて本編の話に入る前に!わたくし先月沖縄に行って参りまして、そこで出会った様々な出会いに感化されております。イヤァ、本当に旅っていうのはいいものですね。というより、タコスと言い酒と言い、私の好きなものが大体沖縄に集まってるんですよ。特にタコス。ありゃぁいいものですね。


 と、本編の話でしたね。さて、今回は箸休め回として設けた話です。確かこれを書いてた時が丁度ハロウィンだったんだっけな。そんな感じで書き始めた今回ですが、如何でしたか? 常々思うのですが、ギャグテイストを文体で書ける方には本当に尊敬の念だらけです。あれは単なる文才やらでは出せない引き出しの一つだと思っています。どうも私にはそれが無かったようです……。

 今回は先もお伝えした通り箸休め回なので特にこれが重要!とかはありませんが、アレフが能動的に動いたからこそ今の火鉢がいるんだなぁ、と私は思いましたね。多分火鉢だけだったらプロゲーマーになるなんて想像もしてなかったでしょうし。私も二人の成長譚を見られて何だか嬉しいです。実を言うと私でもこうして二十話以上書き続けられるとは思っていなかったんです。最初は気分で書き始めるものですから、こうして長編となったのは驚きました。


 さて、次回ですが、明日?今日?三月九日の夜に更新いたします!もししていなかったら叱ってやってください。十日には必ず出るよう猛進いたしますので、是非とも要チェックですよ。見逃しが不安な方は十日だけ覗いてくれれば多分更新されてます……多分。


 では、また何処かでお会いしましょう。

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