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めっきり寒くなりましたね。

では、ご覧ください。

 火鉢が倒れてから、一日が経過しようとしていた。吐瀉物(としゃぶつ)で汚れた顔は医者の手によって丁寧に洗われ、今は苦悶に唸ったり、かと思えば安らかに眠っている。意識が戻るまでの間病院の世話になることになったアレフは眠らず火鉢の手を取り続けていた。

 ニュースを見ながら転寝(うたたね)すると夢の世界でも似たようなニュースを見るように、夢の世界は現実に多少左右される。火鉢が夢の中にいる間、確かに誰かの温もりを感じていた。

 夢の中、火鉢はあの交差点に立っていた。両親を亡くし、(また)今日火鉢が倒れた場所でもある。

 いつもの街中とは思えない静かな、閑散とした空気。見渡す限りは誰もいない。適当に歩いていると陽炎の先に確かに当時のテナントがあった。信号の先には家電量販店と、当時流行していた激辛を謡うお菓子屋が並んでいる。

 静か。あまりに落ち着いた風景に、ふと懐かしくなった。あの時選択を間違えなければ、火鉢もそちら側へ逝けたかもしれない。

 だがその希死念慮に近しい思いと共に、今を想う気持ちも込み上がった。対等とも言える花月というゲーム仲間に、個性を曝け出しても尚個性溢れるチームメイト。先生と呼んでくれる存在さえいる。

 そして何よりも、アレフという存在。願わくば生涯を共にしたい、否、捧げたい存在。二十五年と生きてきて初めての【相棒】。伴侶と言う勇気は火鉢にはなかった。

 十五年前に両親を亡くしてから、世界を捕っても、祖父母を亡くしても感じなかった郷愁にも似た不思議な未解明の感情。懐かしいゲームにふと触れてみたくなるあの気持ちとも違う、ただ只管に(こいねが)うこの気持ち。

 ふ、と我に帰ると背後に人の気配を感じ、そのままに振り返る。

「久しぶり…だな」」

 そこにいたのは、かつての全て、かつての両親とそれから幼い頃の火鉢だった。

 一人生き残った火鉢を(うら)んでいるかと思われた両親の顔はあまりに優しく、菩薩のような笑みを湛えて立っていた。

「……なぁ、俺さ。最近プロゲーマーになったんだぜ? 父ちゃんが『ただの遊び』って言ってたものが職になってさ……すげぇ時代になったもんだよ。それでゲーマー仲間が増えて、皆個性的でいやがるんだ。俺なんて霞んじゃう程に。ハハ、ヤバいだろ。それでさ、でさ、皆に紹介したいんだけど、アレフっていう居候がいてさ。そいつがすげぇんだ。何にでも興味津々で、何にでも食いついて、豆苗みたいに日に日に成長していくんだ。そりゃぁもう、他人の筈の俺が自慢におもっちゃうほどに」

 そこまで言って、自分の瞳から涙が溢れ出ていることに気づいた。しかし、気づいたところで何も止められない。

 この空間には”あの時”の全てが詰まっているのだから。

 素直に両親の顔を見る事も出来ず、ただ只管に止め処なく溢れ出る涙を手で押さえていると、不意に「ひー」と当時の家族内で呼び合っていたあだ名を母親の声で呼んでくれた。

「ひーは、”今”楽しい?」

「楽しいよ。楽しいんだよ。楽しいんだけど、ただ……ただ、時々思うんだ。あの時一緒に逝けたらなって。たらればは駄目なんだよ。駄目なんだけど思っちまうんだ。父ちゃんも母ちゃんもそっちの方が幸せ―――」

「好きに歩めばいい。お前の人生だ」

「お父さんの言う通り。私達の分、存分に楽しまないと」

 その言葉が、何よりも嬉しかった。

 火鉢は今の今まで両親は己を怨んでいるのだと思っていた。共に死ななかった火鉢を。楽しく謳歌している火鉢を。

 違った。愛は時が過ぎても尚、最も欲しかった回答を用意してくれていた。

 それを改めて痛感し、感涙していると意識も薄らいできた。何とか両親との時間を取ろうとして藻掻くが、夢を見続けることが不可能なのと同じで、この空間には居続けられない。

 薄れゆく中、最後に幼い火鉢が駆け寄ってきて満面の笑みでこう、確かにこう言った。

「ないすふぁいと!」

 と。



 アレフが手を握り続けて何十時間になろう。原因不明の、しかし確かに精神を司る部位の損傷によって(もたら)された失神は救急先では取り扱っている分野ではないので、起きるのを待つしかなかった。

 地獄だ。

 確かに脈はある。手からは体温も感じられた。だが、握り続けて初めて分かるものだが、確かにそれは今、浅くなっていっていた。

 今までどんな時でも気丈に振る舞っていただけあって、改めてあそこが火鉢のレッドリストに載っていることを痛感させられる。

 一人は淋しい。そんな当たり前のことが、火鉢は確かにここにいるというのにずぅっと感じ続けていた。花月とミダレは随分前に各々仕事と帰りの便を理由にここを離れた。医者や看護師が時折見に来るだけで、この病室に意識のある者は、今はアレフしかいない。

 その時であった。火鉢の眉がピクリと動いた。最初は気のせいかと思い見逃したが、アレフの目の前で火鉢は目蓋を開いた。

「火鉢!!起きたか火鉢よ!!」

「……あぁ。嗚呼、やっぱ夢か。いや、いいんだよ。俺はこれで。俺の人生だ」

 アレフは夢の中で何が起きていたか、チットも知らない。まさか呪いの元凶から怨んでいないと言われていようとは到底思っていないだろう。

 だが、初めて見る嬉しそうなはにかんだ火鉢を見て、感情が高ぶりを抑えられず、ぎゅぅぅっと抱き締めた。魔法が解けていることも知らずに。

「おいおい、どうした?」

「嬉しいのだ。戻ってきてくれて……なのかは分からぬ。兎角、貴様の緊張がようやっと解けたような、そんな気がしてな」

 アレフの花菖蒲の瞳に涙が浮かぶ。それは自然法則に則り頬を伝い、火鉢の肩へとポタンと落ちた。それが意味する火鉢の呪いからの解放は、あまりに二人にとって大きすぎた。

 火鉢はいつもの如く自覚がない。夢の内容も朧気(おぼろげ)だ。ただ、確かに今まで両親を亡くしてから十五年間、感じたことのない解放感とも言い難い、嬉しいとも形容できない、とにかく張り詰めていた糸や、何かを成さねばならないという命令が解けたような気持ちがようやっと消えたような、そんな気がしていた。

「心配かけたな。悪い」

()い。良いのだ。今はこうして言の葉を交わしている。それだけで嬉しいのだ」

 俺も嬉しい、と小さく呟く。

 夢の中で言われた、子供の時分に確かに言われた『ないすふぁいと』という言葉。ゲームセンターで学んだ初めての言葉だ。英語の意味も、どころか英語かどうかすらも分からなかった当時の自分は勝ったり負けたりなんかした時にお疲れ様という意味で家や友達と遊ぶ時しょっちゅう使っていた。

 つまりあれは、今まで頑張った自分への労いの言葉、と捉えてもいいのだろう。

「俺は、成長したかな」

 ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

 火鉢の過去、想像するだけでビビりますよね。目の前で肉親が肉塊になっている訳ですから。しかも幼い頃に。

 そういえば覚えていらっしゃる方がいるか分かりませんが、火鉢って25歳なんですよ。で、10歳の頃に両親を亡くしてます。それから引越して今の住居に住んで……って感じなんですが、10歳って多感な時期なので、こういう考えをしても可笑しくはないんじゃないかと思います。私の10歳の時分なんて非道いもんですよ。

 脱線する前に戻しますが、アレフにとって初めて出会った人間が火鉢であるように、火鉢にとっても(親を亡くしてから)初めて友人になった人がアレフなんです。そりゃぁもう固い固い絆ですよね。私もいつかそういった存在を見つけたいものです。


 ところで話は変わるんですが、当時のゲーセンにもないふぁい!みたいな言葉はあったんですかね? 私は当時家庭用ゲームばっかしていてゲーセンに行ったのも中学校に入ってからが初めてなのでそこらへんの文化に疎くてですね。これを書いてる時に色々と調べていたんですが、大抵良い噂は聞かないですね……ヤンキーの溜まり場とか、灰皿投げられるとか。


 さて、手も悴んでまともに文字も打てないので、今日はこの辺りで締め括ろうと思います。最強寒波?が来てるので皆さんも暖を取ってくださいね。私の家は暖房がついてないので原始的に暖を取ろうと思います。


 では、またお会いしましょう。

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