表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/27

悲劇の第二幕

お久しぶりです。口十です。

では、ご覧ください。

「しかし音ゲーというものは実に面白いものだ。リズムに合わせてタップするだけだというのに、そこに無限が広がっていて。まさに、人類の叡智とも言えよう。私も成長したと思っていたが、ミダレを見てしまうとな……」

「気にすることないっスよぬるちゃん。ミダは異常だから」

「しっかし、どうして俺のメトロノームは狂いまくるんだろうな」

 ミダレの神業を見終え、時計が丁度真上を指したのでゲームセンターの対面にある喫茶店にて昼食を摂る。

「もー先輩ってほぼ全てのゲームに対応できるのにマジで音ゲーダメっスよね。ウケる」

「常人ならざる反射神経が悪さをしているのだろうな。目に頼りすぎるあまり、幼少期に発達しなかったのだろう。自然淘汰の結果だ」

 花月はオムライスを、アレフはカレーライスを頬張りながら火鉢のセンスの無さに花を咲かせていた。

「……ミダレはいつから音ゲーやってたんだ?」

 いたたまれなくなった火鉢は対面に座ってハムスターのように黙々とカツサンドを食べるミダレに話しかけた。

 ミダレは失語症により声を出すことが出来ない。スマホで文字を打つ間、火鉢は日替わり定食の生姜焼きを食べていた。

『真面目にやりだしたのは中学三年の時です。それまではあまりゲームとは無縁の生活で』

「プロになったのはいつからだ?花月と同級生って言ってたけど」

『二年前ですね。就活に困っていたところを花月を経由して入れさせてもらった…みたいな』

「ここではウチがトップってことっス」

『ホント助けてもらってばかりで。いつか恩返しがしたくて』

「ウチとミダの仲じゃないっスか~!そんなの気にしなくていいんスよ!」

 カランと持っていたスプーンを投げる勢いでテーブルに置いてミダレに抱き着く。それを見て火鉢は「性癖歪みそう」と誰にも聞こえぬ声量で呟きながら、半ば呆れ気味に生姜焼きを口に運んだ。流し目でミダレを見ると、矢張り顔を真っ赤にしていた。褐色かつ豊満ボディであの爛漫さでは、歪むのも致し方ない。



 ミダレ、花月と別れて名古屋駅の太閤口方面を歩いていると、火鉢がその場に先ほどまで食べていた生姜焼きを吐き出し、吐瀉物の上に倒れた。

「火鉢!?」

 街の喧騒に浮かれていたアレフがいち早く気づき、火鉢の元へ駆け寄る。

 アレフは知らない。ビルのテナントが変わったとて、すれ違う人間が変わったとて変わらぬ。ここが火鉢にとっての”最悪”の場所であることを。

 土下座するようにして倒れ込んだ火鉢の目は白黒とし、口からは胃液がこみ上げてくる。

 忘れていた。忘れてはいけないことを忘れていた。火鉢の両親が唯の肉塊になったこの交差点を。まるで両親が呪っているかのように、己を改めさせるようにして突如火鉢の脳裏にあの光景が思い出される。

 今日よりも暑い、あの日。火鉢の両親は死んだ。そして死霊となって火鉢を未だ呪い続けている。

 呪いなどない。それは頭で理解していても、体が追いつかないのだ。

「大丈夫か、火鉢! す、すまない。誰か救急車を―――」

 俗世に疎いアレフは咄嗟に目線を火鉢から周りに向けるが、それを待ち受けるのは冷笑と無視で満ち溢れたありふれた、あまりに日常的な、しかし非日常を楽しむ目とカメラのシャッター音であった。

()に……」

 言葉が続かない。それほどアレフにとっては今この場が憎かった。と共に、己の無力さに打ちひしがれた。携帯も持っていないアレフは今己から救助を呼ぶことができない。かといって、声も出せない火鉢の助けになれそうなことをできる知識もない。

 魔法で隠していた翼やしぽが出る程の怒りを、火鉢が救われない世界などどうでもいいと思い始めたその時、スマホを向ける聴衆の中から見知った顔が出てきた。

「ひー先輩!? ミダ、救急車!」

 それは先ほど別れたばかりの花月とミダレであった。一目で異常事態だと気付いた花月はアレフの横を通り過ぎ火鉢の丸くなった背に手を添える。

「花月よ……どうして?」

「これ見たんだよ。まさかと思って」

 そう言ってポケットから取り出したスマホの画面には、高い目線から火鉢とアレフを見下すようにして撮られたSNSの呟きが映っていた。つまり、二人はこれを見てすぐさま駆け付けてくれたのだ。

 しかし、ミダレが一一九にかけたはいいものの、失語症によって声が出ない。アレフと花月は火鉢のことで精いっぱいで、そこまで手が届かなかった。

 それが招いた悲劇。悲劇と言うには、少し単純(シンプル)かもしれない。

 火鉢の意識が、(つい)えた。

 ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。サテ、いつも通り裏話や諸々を語っていきたいのですが、今回は文字数的にもシンプルなつくりなので特段これといった裏話はないのですよね……

 実を言うと、ミダレが登場した前回から暫くは一日でぐいっと書き上げたものですから、当時の衝動が色濃く残っているんです。今回アレフが言った「実に」みたいな使ってみたい言葉を幾つかピックアップしたりなんかして。

 これまでも何回か一日で数話書き上げるといったことはしてきたんですが、この辺りはマジで筆が乗ってましたね。もう半年近く前なので当時のことは殆ど覚えてません……なので今回は特に裏話はナシということで!


 さて、ここから真面目な話です。活動報告ではお伝えしましたが、今まで竜に願えばはカクヨムと小説家になろうにて投稿しておりました。ただ、カクヨムには後書きっていうシステムがないので、ぶっちゃけなろうだけ追えばよくね? ってなってたので、なろうは一週間前後遅らせて登校することで差別化しました。

 なので、最速で読みたい方はカクヨムをご覧になって、裏話や制作秘話なんかを知りたい方は今まで通りなろうにて見て頂ければと思います。


 では、またお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ