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速達配達人 ポストアタッカー 新1 〜ポストアタッカー狩り〜  作者: LLX
7、殺られる前に殺るしかないだろ!
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第48話 これで俺も共犯か〜〜

岩山のてっぺんをそっとのぞき込む。

てっぺんは6フィート(1.8m)四方しか無い狭い場所で平らな部分が少ない。

相手は確かに座って銃の準備をしている。


ハンドガンを構えてみる。

男の頭を狙う。


今なら、今ならラクに撃てる。


心臓がドキドキして、口から飛び出しそうになる。

戦時中何度も狙っては殺してきた記憶が、鮮明に思い出される。

後ろめたい恐怖心が、ワッといきなり沸いてきた。


これは、ただの殺しじゃ無いのか?

俺は、今の俺は、ただの郵便局の局員なんだぞ?!

いやだ、いやだ。

人殺しなんかしたくない!


動揺して身を起こしたとき、足がザッと滑った。


ザザザザガラガラガラ


「しまっ……」


男が驚いて顔を上げ、腰の銃を手に取り立ち上がる動作に入った。


駄目だ殺られる!!



“ 生きたいと強く唱えろ!! ”



バンッとサトミの言葉が、ダンクの背を押した。

とっさに足をかけ、バッと駆け上がる。


チュンッ、キュンっ!


慌てた男の狙いがはずれ、足下を弾が弾く。



“ 引き金を相手より先に引け ”



そんな事は言われなくても!


パンパンッ パンパンッ! パンッ!


入り乱れて互いに引き金を引く。

胸にいくつも衝撃が走り、目を閉じる。が、なんともない!

顔を上げると、相手の男も胸をさすって自分の無事を確かめる。

2人とも、アーマージャケットに銃弾を受けるのは初めてだった。


「おりゃああああ!!」


ダンクが隙だらけの男に気合いで飛びかかった。


「わあああああああ!!」 パンパパンッ!パンッ!パンッ!


相手はパニックで目鞍滅法撃ってくる。

逃げ場の無い中、ダンクは胸に銃弾を受けながら、目を見開き男の顔を銃で殴った。


ガッ! 「ぐがっ!」


男がよろめき、反動で銃を落とす。

相手は確かに、安全圏にいることで油断していたんだろう。

突然のことに、反撃に頭が回らない様子だ。

ハンドガンを失い、今度は両手を上げて懇願してきた。


「頼む!撃たないでくれ!」


「通信を切って、ヘッドホン外せ!」


男がヘッドホンを外し、ダンクの方へ放る。

ダンクの視線が、ついヘッドホンに向いた。


男はとっさに地面に接地したアサルトライフル握って、構える前にぶん回す。


「この野郎!落ちろ!!」


「うおっと!」


ドカッ!ドスッ!


「いって!いてえ!」


銃に付いた2脚のポッドがダンクに当たる。

バンと思い切り下から跳ね上げ、男の足を撃った。


パンッ!パンッ!


「ぐっ、あ、あっ!うわああああ!!」


あっ!落ちる!


男の悲鳴に反応して、とっさにダンクが男のアサルトライフルの銃口近くを握った。

ガクンと銃に体重がかかり、ダンクが踏ん張って銃にぶら下がる男を支える。


俺!俺何やってんの?!!


見るまでも無く、銃口が自分に向いている。


うわあああああ!!


凍り付いた瞬間、男が足を岩場にかけ、銃の引き金に指を伸ばす。


ちょっ!!


とっさにダンクがハンドガンを男の額に向けた。


パンパンパン!


「ま!……て……」


タタタンッ!


反動で銃口が跳ね上がり、ダンクの頬をかすって銃弾が空へと放たれる。

銃が突然軽くなり、男の身体が、山から落ちて行った。


「あ、あ、あ、あ、あ、やっち……まった…………」


ダンクが男の銃を持ったまま、ふらりと尻餅付いた。


「あああああ、これで俺も共犯だよ。なあ、サトミよお。」


全身が脱力する。

ふと、手に残った男の銃を見た。


「何だこれSSRって奴かよ。俺のより新型だっけ?

ちぇっ、いいスコープ付けてやがるな。」


タン!


キンッ!


銃に当たって火花が弾け、ダンクが身を伏せる。


「な、なに?!」


タタタン!タタタン!


キュキュンッ!パシッ!パシッ!


「うわ!」


遠くから銃声が響き、後ろから弾が来た。

慌てて身を伏せ森側に少し降りて身を隠す。

そうっと顔を出すと、岩棚から男が一人ライフルを構えているのが見えた。


「クソッタレ、何でもサトミの読み通りかよ!あいつ、なんか変なビョーキじゃねえの?!」


ダンクが自分の銃を構えると、男が見えなくなる。

急いでサトミに言われた森側に降りる場所を探し、慎重に降りてポジション決めると上の岩にSSR、MK20を置いて自分のMK17を構える。

どんなにいい銃より自分の銃が使いやすい。

クセもわかっている。

今日は風も強くない、弾が流されることも無いだろう。

サトミはまだ来ない。


「すっげえ見晴らしいいな。

あいつ、こっち来ないだろうな?」


大きく息を付いてしばらくボウッと空を見つめる。

下を見ると、死んだ男が森の木にぶら下がっていて、目を閉じた。


いやな景色だ。


「殺しに来て、自分が殺されることなんて夢にも思ってなかったんだろうさ。

なあ、サトミよ。

確かにみんな狂ってやがるぜ。」


自分の銃を膝において、上に置いたMK20を取り、光学スコープを覗いてみる。


凄いキレイに見える。

今の最新型って凄いんだなあ。

俺の銃に付いてるのは、かなり旧式だ。

こんなの、今じゃ使ってないんだろう。


終戦間際の少年兵へ回ってくるものなんか旧式のボロばかりで、事故も珍しくは無かった。

自分は、腕がいいと見込まれて、比較的新しいこの銃を貰えた。

だから、みんなからうらやましがられて、ほんの少し優越感があった。

馬鹿みたいだ。そんなもんで優越感なんて、何の意味もねえ。

どんないい銃を持ってても、奴隷である事にはまったく変わりがなかった。

言われた奴を撃って、殺して、撃って、殺して、撃って、殺した。

敵が気付いて指示役の兵隊が狙われているとわかっていたのに、黙って撃たれるのを待った。

そして、逃げたんだ。


ああ、俺は、脱走兵だ。


心にズシンと、その言葉が残っていた。

でも、サトミは生きていて良かったって、言ってくれたんだ。

ガイドも、リッターも、みんなそう言ってくれた。だから、俺はあの居場所を守りたい。


フッと息を吐き、顔を上げる。


荒野は広大に広がって、どこ見ていいのか見当が付かない。

スコープでデリー側の道をたどる。


小さく、小さく、道の横の一本の木。

そこに馬を繋ぎ、女が背を向けていた。


なぜか、身体中の肌がザワついた。


女がいる、ただそれだけだ。


「まさか……まさか……」


女は銃声が聞こえなかったのか、気にもしないのか、落ち着いて石に座りデリーの方角を見ている。

これだけ撃ち合ったんだ。いぶかしんでも不思議じゃ無いのに……


女の存在は確認できたが、遠すぎて地雷が見えない。

女が立ち上がってこちら側を向いた。

顔のガーゼと包帯が、あの時の女だと言っている。

だが、こちらからは木の影で地雷は確認できない。


「どうするよ、サトミ。

こっからじゃ地雷は確認できねえよ。

それに他の奴らいったいどこにいるんだ?森の中か?

この辺に隠れる場所は、道を外れた場所のデコボコと辺りにポツポツと立つ木の影くらいしかないぜ?


なんかしっくりこねえなあ……

いい銃なんだろうけど……いきなりこんな銃持っても、なんか信用できねえ。

くそ、やっぱ自分の銃の方が信頼できる。」


自分の銃を握り、周囲に目を向けながら女に目を留める。

女は、またこちらに背を向けて石の上に座った。


どうする?どうする?


女の姿を見ながら、撃つべきか、でも地雷と関係なかったらただの殺人でしか無い……不安がごちゃ混ぜになる。

サトミの決断力の早さと対照的な自分に、少しガッカリする。

サトミなら、確認したと同時に撃つだろう。


「でもよう、あいつはちょっといかれてる。

こういう時、不安になるのが、迷うのが普通なんだぜ?サトミよ。」

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