第42話 BANG BANG BANG!
時間は少し戻る。
ガイドとリッターが『直進ミルド、左折デリー』の標識の前で前後に距離を取る。
リッターが手を振り飛び込む刹那、合図のように横から一発飛んできて標識にカーンと当たった。
いる!やっぱりここにいた!
「 ゴー!ゴー!ゴー! 」
「 ヤー! ヤー!! 」
ガイドは道路幅いっぱいに下がって森から距離を取り、岩山に銃を構える。
道の右側には隠れる場所が無い。
ガイドに後方支援を任せ、リッターは森の中を狙った。
リッターの銃はM590M ショックウェーブ、ピストルのような形をしたショットガンだ。
彼が持っているのはマガジン(ボックス型の弾入れ)が無いタイプで、軽量だが5−8発(弾の大きさで変わる)しかシェル(ショットガンの弾)が入らない。
何故、マガジン付きの銃を買わなかったんだろう。
「うるせー!ほっとけ!金が無かったんだよ!」
酒飲まずに買えばいいのに。
「 うるせええええ!!!」
タタタン タタタン
タタタタタタン タタタタタン
パシッ、パシッ
後ろからの弾が荷物に当たり、防弾のジャケットをかする。
馬は防弾繊維の馬着を付けているが、守っているのは一部だ。
馬に当たるとアウト、死にたくなければ懸命に走れと腹を打つ。
「チェッ、しっかり当ててきやがる。」
森には3人、通り過ぎたのに向かって左の奴が追いかけてこない。
すでに後ろに回った森の左側入口にいる男はアサルトライフル、どんどん近づく出口側右の男はショットガンだ。
左右の男が森の中から銃を撃ち、真ん中の男も潜んでいる。
つまり、真ん中は危険物だと判断した。
と、言うわけで、 撃つ!
バンッ!
リッターの撃った弾が、真ん中の男をかすめる。
「ヒイッ!」
しゃがみ込む男の背後でバンッと音がして、木の肌が裂けた。
「ファック!あの野郎!この距離で弾が散らねえ!殺す気満々じゃねえか!」
男は盾に隠れて手榴弾を持ち、レバーを握ってピンを抜き、スリングショットにかける。
思い切り引いて、リッターの前方に向けて発射した。
リッターが、飛んでくる手榴弾に、M590のフォアエンドをガチャンと引いて狙いを定める。
「ワン!」
タタタン タタタン
援護の撃つ弾が、防弾ジャケットに当たり、足をかすめて馬の腹の防弾馬着にも当たる。
「ツー!」
ひるまず狙うリッターが、撃った。
バンッ! パーンッ!
スラッグ弾がヒットして、手榴弾は木っ端微塵に宙で散る。
男は驚いて次のピンを抜いた。
「く、くそっ、こんな小さいのに当てるかよ!」
男はすぐに2投目を投げて来る。
心で数える。狙うのは1,2秒だ。
心が研ぎ澄まされて、集中する。目を見開く、まばたきする間もない。
目鞍滅法撃っても当たらない。
小さなダークグリーンのリンゴを、狙う、狙う、撃つ! 撃つ!!
バンッ!
バーーン!
バンッ バンッ!
パーーン!!
「舐めんじゃねえよ!アタッカーはサトミ以外にもいるんだぜ!!
俺はシラフだとな!遠距離に強いんだ!」
手慣れた様子で弾を込める。
2発込めた所でまた手榴弾が来る。
バンッ!バンッ!
バーンッ
バッ!突然背中に衝撃を感じた。
「くっ!」
弾をまた込めていると背後から狙われて、散弾がリッターの背中の防弾ジャケットに当たり、後ろに積んだ荷物に当たる。荷物も防弾繊維の袋に入っているだけに、ある程度は弾よけになる。
「チッ!まったく、真ん中がうぜえなっ!」
バンッ!バンッ! バンッ
前からの援護射撃の連続するショットガンの音に、応戦して身体を低く伏せながら再度フォアエンドを引いて構える。間髪入れず、また手榴弾持った男が草木の間からチラリと見えた。
こいつがいるとアサルトライフルとショットガンに集中出来ない。
「てめえは邪魔だ。」
飛び交う銃弾の中、瞬時にフォアエンド引き、馬を一気に森へ寄せて身をかがめた男を撃つ。
それは、破壊力の大きいスラッグ弾だ。
バンッ!!
一発の弾丸が防弾の盾を容易に突き破り、男に命中する。
「ぐがっ!」
撃たれた男が後ろに吹き飛ばされ、ポロリと手にあった手榴弾がその場に落ちた。
バーーーンッ!!
森の中央で白煙が上がり、ガイドもスナイパーを討ち取ってリッターと併走する。
真ん中の男が倒され、左右の隠れていた男たちが舌打ちして馬で出てきた。
「ガイド!サポート!」
「了解!」
リッターが弾を詰める間、ガイドが森の入口側にいた後ろの男を撃つ。
前方の男も出てきた。
距離を取り移動して、ショットガンで狙ってくる。
「オーライ!」
「リッター!前の任せた!」
「おう!」
バンッ!
タタタンッ!タタタンッ!
この2人は手練れだ。上手く避ける。
「チッ」
バンッ! バンッ!
リッターが馬に伏せたポジションで連発する。
前から来る男は距離を置いて後ろに回り、右手で撃つリッターの死角に回ろうとする。
もうすぐ森を抜け、道幅が狭まる。
「ヤバい!終点だ!」
「構うな!仕留める!」
「ヤー!」
バンッ!
返事をすると同時にヘルメットに散弾がガンガン当たる。
左の頬とゴーグルにかすめて当たり、防弾レンズにヒビが入った。
右も左もガイドを無視して、リッターを狙って撃ってくる。
馬は無事のようだ、よく走ってくれる。
「クソッタレ!俺はクレーじゃねえっ!」
敵の男は背後で入れ替わりながら弾を避け、2人の左右から狙いだした。
タタタンッ!
「うぉっ!」
背中に弾を浴びてガイドが思わず声を上げる。
「ガイドッ!!」
「無事だ!!ディスタンス!」
「ヤー!」
声を合わせ、2人がまた離れた。
地雷が残っていたらアウトだが、ガイドは道を外れるのを覚悟する。
しかしガイドの斜め後ろを走る男がひるんで思わず声を上げた。
「くそっ!このままじゃ道を外れちまう!!」
ガイドが瞬時に腰からハンドガンを取ると、その男に引き金を引いた。
パンパンパンパンッ!
「ガッ!」
男が後ろに倒れて馬にぶら下がり、馬がバランスを崩して転倒する。
一瞬でも気を抜いたら負けだ。その先には死が待っているのだ。
「リッター!」
「悪い!」
リッターとの距離を詰めて、彼の援護する。
残った男は手練れで、馬を器用に死角へ操り撃ってくる。
クソッ!こいつ撃ちにくい所ばっか!
背後に回られ、リッターは荷物を盾に片手で撃つ。
ガイドが加わり、2対1の撃ち合いになった。
「くそったれ!」
「うおおおお!!」
「このクソ!死ねやあああ!」
バンッ!
タタタン!タタタ
タタタタタタン!
バンッ!バンッ!
銃の音があたりに響き渡り、やがて蹄の音だけになる。
そしてアタッカーの2人は、森を離脱して駆け抜けていった。
エンプティが怒りにまかせ、パソコンをバンと音を立てて閉める。
「ギャハハハハハ!!!失敗じゃんっ!」
「 うるさい 」
舌打ちながら車を走らせ、岩山まで来ると外へ出て山を上りだした。
行動を全部読まれたのは予想外だった。
てっぺんまで来ると、役にも立たなかった男が銃に突っ伏している。
足で蹴って死体を崖から森に落とす。
銃を取り、近くのカメラをちらと見る。
カメラは見事に撃ち抜かれ、ガイドの目の良さ、早馬で駆けながらの射撃の正確さに舌を打った。
アタッカーを、舐めていた。
遠く、走り去る2人をその銃で狙う。
ガイドの頭に狙いを付け、引き金に指をかけてやめた。
清々しい風が、バッと吹いてエンプが顔を背ける。
ふと、視線の先に黒く変色した3つの腕章が棒にくくりつけられているのを見て、女の執念にクッと笑った。