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第六話「暗闇のクラウディア」


 魔族の少女―シーズ・イアンは元々ファルラ大陸南西部に位置するシリース神聖国のとある田舎村に住む人間だった。

 それだけであれば森の中で騎士に追い回される日などやってくるはずがないが、シリース神聖国の国教であるシリース教は人族以外の人間を下等種族と定めており、特に魔族に対する態度は苛烈な物だった。

 シーズが住んでいた村は魔族がほとんどの人口を占めており、シリース神聖国の定める重い税に苦しんでいた。

 それでも村人たちは一致団結し重税に耐えていたが、今年その村はこれまで類を見ない程の凶作に見舞われた。

 これまでの苦しい日常に耐え兼ね体を壊す者の続出や冷害が重なり、このままでは税を払いきれず村民は餓死していくだろう。

 そう考えた村長―シーズの父親は、村の魔族で一斉にこの村から逃げ出すことを決断した。

 目指すはファルラ大陸中央部に存在するイェガランス大森林を越えて北東に存在するフィーリス王国。その平和な国では種族による差別もなく、皆平穏に暮らしているらしい。


 村人たちは慎重に計画を立て、綿密に準備を施し村を捨てイェガランス大森林に向かった。

 しかし、その脱走は税の取り立てにやって来た騎士たちによりすぐに知らされ、追手が差し向けられた。シリース神聖国は、脱走を試みるような軟弱者の魔族は不要だと、追手の騎士たちに魔族を見つけ次第殺すように命じた。

 その凶刃にシーズの父親と母親は斃れ、何人もの魔族とはぐれ、元々百人を越えていた魔族は今では五十人までに減っていた。

 持って来た食糧も底が見え始め、段々と魔族たちの士気も落ちていく。村長の娘として父が亡くなった今魔族たちの纏め役となっていたシーズでさえも、絶望しそうになっていた。

 

 しかし、シーズの心を支えていたかつての父の話があった。

 曰く、魔族が危機に瀕した時、古に封印されし魔王が復活し、我々魔族を助けてくれるのだという。

 シリース神聖国やシリース教を信じる国々は決して認めないが、かつてここファルラ大陸は魔族の王である魔王によって統一国家として治められていたという。

 そんな大国を統べるほどの力を持った魔王がいつか自分たちを助けてくれる。そんな伝説―魔王の存在が、崩れ落ちそうなシーズの心を支えるたった一つの支えだったのだ。


~~~


「そして、食料を求め彷徨い騎士に殺されそうになっていた私を、貴方様…魔王様が救って下さったのです…!」


 魔族の少女―シーズの話に、徹は面食らいながらも同情する。 

 シーズは彼女の国に魔族だからと言う理由だけで苦しまされ、村を捨てそして親を失い帰る場所すら失ってしまった。

 若くして苦労したのだなという言葉では済まされない程の境遇に、彼女は置かされているのだ。


 そんな彼女を心から憐れんだからか、徹の口から勝手に言葉が零れ落ちた。


「なら、我の国へ来るか?」

「え!?」


 その言葉にシーズは驚いた声を上げるが、徹自身も驚いていた。

 自分はいきなり何を言っているのだろうかと。


 しかし、よく考えてみれば両者にとって得がある選択肢だと思った。

 徹は今、自分の文明に人が欲しい。

 シーズは自分たちが平和に暮らせる国が欲しい。


 まさにwin-winというやつだ。

 隣に立つヴィルヘルミーネもうんうんと頷いているし。


「いいんですか!?」


 シーズは顔を綻ばせ、そう言った。まさに即決だ。


「もちろんだが…君が先ほど言っていたフィーリス王国とやらはいいのか?そこは魔族でも平和に暮らせるのだろう?」

「確かにそうかもしれませんが…かの国へ行くにはこれからまだ途方もない距離がありますし…それより、魔族の国に住みたいのです」

「フィーリス王国は違うのか?」

「はい。かの国は妖精族(エルフ)の王が治めている国です。平和な国とは聞いていますが…やはり、これまでの境遇を考えると他の者も魔王様が治められる国の方が良いと思います」

「ふむ」


 シーズの言葉は道理だ。これまで彼女たちは魔族と言う理由で迫害されていた。そんな彼女たちが魔族の国で暮らしたいと考えるのも無理からぬことだろう。


「しかし、我の国は先ほど興ったばかりで何もない場所だ。無論君たち以外の者もいない。そんな国―文明だがいいのか?」

「ええ、もちろんです。むしろ我々一同で貴方様の国を力の限り発展させていくことを誓いましょう」


 シーズはドラマに登場する騎士のように跪き明るい笑顔でそう言った。まるで憑き物が取れたような表情だった。


「よし。それならば貴様はこれより、『魔王文明グリントリンゲン』の一員となった。異論はないな?」

「もちろんです、我が王よ」

「そうと決まれば貴様以外の魔族も回収するとしよう。案内を頼めるか」


 シーズの話によると五十人ほどいる魔族の集団はここからそう遠くない場所で野営しているらしい。このまま彼らもグリントリンゲンの国民としてしまおうと意気込むシーズだったが、彼女は徹の言葉に顔を青くした。


「……あ」

「ど、どうしたのだ」

「あの騎士たちに見つかり、必死逃げている間に野営地の場所が分からなくなってしまいました…!」


 シーズはそこまで言うと目に涙を溜め、やがて泣き出してしまった。

 だが、そのことを徹が責める道理はない。彼女は命を散らさないために必死に逃げ惑ったのだ。そんな彼女を無能だと言える人間が果たしていようか。


「お、落ち着けシーズよ。貴様に落ち目はない」


 そう言ってシーズを慰める徹だが、彼に解決策がある訳でもなかった。しかし、シーズの下へ騎士が迫っていたという事は、ここに近い場所にある魔族の野営地も危ない。可及的速やかにその場へ向かわねば。

 ちらりとヴィルヘルミーネに視線をやるも、彼女は肩をすくみ首を横に振る。彼女はあくまで戦闘ユニット。この広大な森を走り回り誰かを探すという行為は向いていない。


「―あ」


 そこで、徹は一つの事実に気が付いた。


(第一都市の開拓―【配下召喚】の条件を満たしてるじゃないか!)


 条件を満たせば代償無しにユニットを生産できる『ミレナリズム』内でのヴァルターのスキル、【配下召喚】。

 これまで何度もヴァルターとして世界を征服してきた徹が【配下召喚】の条件を間違えるはずもない。


「ヴィルヘルミーネよ。ここで【配下召喚】を行うぞ」

「おお!この状況でってことは……斥候のアイツか!」

「そうだ」


 シーズが言うには、この森はイェガランス大森林と言うらしい。大森林というからにはそれは広い森なのだろう。鬱蒼で広大な森の調査など、これまで木ではなくビルが立ち並んでいた場所で過ごしていた徹や戦闘ユニットであるヴィルヘルミーネではとても出来る芸当ではない。

 しかし、それを可能とするユニットがある。それは斥候ユニット。斥候ユニットは他のユニットとは違い広い視界と高い移動力が売りなまさに斥候のためのユニットだ。そして、【配下召喚】にのみ生産できる特別なユニットの中には、そんな斥候ユニットも含まれていた。


 斥候ユニットは『ミレナリズム』において大事なユニットだ。彼らはゲーム開始では真っ白なマップを埋め周囲の地理や周辺諸国の存在を明かし、それから先の戦略や文明の方針を決めるのに大事な役割を持つ。

 そのため、【配下召喚】を用い最初はヴィルヘルミーネを生産する徹も、二回目の【配下召喚】では必ずと言っても良いほどこのユニットを生産していた。

 それに、彼女(・・)闇妖精族(ダークエルフ)の血も引いている。こういった森の調査は得意分野だろう。


「魔王ヴァルター・クルズ・オイゲンの名に於いて召喚する!暗闇のクラウディアよ!我が声に応え、ここに姿を現せ!」

「「おぉ…!」」


 魔王口調が極まった徹の口上に、ヴィルヘルミーネとシーズは目を輝かせる。

 魔王のロールプレイはやはりくせになると徹が悦楽に浸っていると、彼の目の前に真っ黒な魔法陣が現れる。

 やがてその魔法陣から黒い霧のようなものが現れ、それは段々と人の形へと姿を変えていった。


 まず目に入るのはくすんだ白い髪。徹のいた世界ではボブカットと呼ばれていたその髪から、横に長い耳が姿を見せる。口元を真っ黒な布で隠し、褐色の肌を体の形が丸わかりのこれまた真っ黒な装飾で隠している。背中には小さい翼、腰には少し短い尻尾が見える。

 彼女は跪いた格好のまま静かに目を開き、言葉を紡ぐ。


「暗闇のクラウディア、ここに推参いたしました。これより私はあなたの目であり耳。この身体、如何様にもお使いください」


 女性にしては低い、ハスキーな声。その声が、徹が想像していた彼女の声とあまりにも似通っていたため、徹は思わず感動してしまう。


(うわークラウディアだよクラウディア!ヴィルヘルミーネを見た時も思ったけど、やっぱり『グリントリンゲン』のキャラを実寸大で見られるのは感動してしまうなぁ!)

「……主?」


 口上を終えても何の反応も示さない徹を不思議に思ったのか、クラウディアは首を少し傾げる。その可愛らしい仕草も、徹の心にクリーンヒットする。

 

「クラウディアよ、まずは召喚に応じてくれたことに感謝しよう」

「恐悦至極に存じます。あなたの命であればこのクラウディア、よろこんで」

「あ、ああ……」


 クラウディアの高い忠誠心に、徹は少し構えてしまう。

 クラウディアって、こんなキャラだったっけ?


(あ、そういうことか?)

「クラウディア」

「はっ」

「貴様、我が誰か分かるか(・・・・・・・・)?」


 徹の言葉は、一見意味が分からないものだろう。しかし、クラウディアはすぐに合点がいったような表情を見せ、首を垂れる。


「もちろんです、我が主よ。貴方は私が仕える唯一の崇高なる主です」

「うむ、そうか…」


 やはり、クラウディアもヴィルヘルミーネと同じく、徹をヴァルターとしてだけでなく、一ノ瀬徹という人間だと認識しているようだ。それならば話が早いし、頼もしいことこの上ない。

 クラウディアは徹が『グリントリンゲン』で遊ぶ際に毎回【配下召喚】で生産していたユニットだ。それならばきっとこれからの行動も円滑に進むだろう。


「さて、早速で悪いが仕事だ、クラウディア」

「御意に、我が主よ」


 クラウディアは感情の分からないその藍色の瞳で徹を見つめた。


~Millepedia~~~

クラウディア

種類【斥候ユニット】

種族【魔族】【闇妖精族(ダークエルフ)

・ユニット能力

近接戦闘力…10 

長距離戦闘力…15

移動力…3

維持コスト…2ゴールド

・所持スキル

【闇へ染まる者】隣接しない限り、他文明はこのユニットを目視できない

【闇に惑わす者】このユニットから攻撃した場合、敵ユニットは反撃できない

【闇を与える者】このユニットが存在する限り、同じ文明の斥候ユニットの移動力と視界がともに+1


===

 クラウディアはグリントリンゲン固有のユニットで、【配下召喚】のみで生産できるユニットである。

 斥候ユニットとして持つ他のユニットよりも優れた移動力を持ち、また闇妖精族として森地形の移動コストを1にすることが出来る、最も優れた斥候ユニットの一つである。

 また、戦闘ユニット以外では珍しく長距離戦闘が可能であるユニットであるため、斥候以外にも戦闘や魔物狩りなど用途は多岐に渡る。

===



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