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第二話「謎の騎士たち」


「眩し……」


 果たして、そこは森であった。

 背の高い木々が視界いっぱいに生えており、川の流れる音と小鳥が囀る音がまさに音楽のようになって徹の耳に入ってくる。


「どこだぁ…ここ……」


 目の前に広がる光景を前に、徹は絶望する。

 気が付けばどこの国かも分からぬ森の中。自分は何故かゲームのキャラになってるし、スマホも手元にない。どうすればいいのかも分からない八方塞がりの状況だ。


「でも…久し振りに自然に触れたかもな」


 日中は仕事に勤しみ、帰れば『ミレナリズム』をずっとプレイしている徹にとって、緑と触れ合うのは子供の頃以来のことだ。

 久方ぶりの雄大な自然との触れ合いは、今の荒んだ心を癒す清涼剤となっていた。


「ん~…川のさらさらと流れる音。小鳥がピヨピヨと奏でるハーモニー。風が優しく体を包むこの感触…。そして、真っ白に光る鎧……鎧?」


 緑を楽しみながら森を歩いていた徹だが、視界に映る違和感に気付く。

 全身を、頭から足まで真っ白な鎧に包む人影が四つ。

 彼らは剣を構えたまま、徹を見つめていた。


「魔族だ!」


 そう叫び、ガシャガシャと鎧の音を立てながら徹を取り囲む騎士たち。

 徹はあまりの急展開に、棒立ちのまま自分が囲まれる様を見ていた。


 ―なんで鎧?手に持ってる剣は本物?ってことはここは日本ではない?そもそも今の時代に剣?ここは異世界?それとも『ミレナリズム』の中の世界?


 ぐるぐると頭によぎる考え。

 困惑が最高潮に達した時、徹の口から出た言葉は意外なものだった。


「あれ、言葉が分かる?」

「何を言っている!」


 徹の呆けた声に、騎士の一人が怒号で返す。顔を覆う兜によって表情は分からないが、どうやら敵意を向けられているらしい。


「え、えと、取り敢えず俺の話を…」

「黙れ!魔族風情が!」

「貴様らはここで皆殺しだ!」

「え、え、え…うわぁ!?」


 徹の言葉に全く聞く耳を持たない騎士たちは、いきなり剣を振りかぶり徹に襲い掛かってきた。


(ちょ、ちょっと待て、これ現実か!?なんか大規模なドッキリに仕掛けられてるとかじゃないのか!?)


 そう甘い期待をする徹だったが、不気味に鈍く輝く日光に反射する剣の光を見て直感する。これは、現実だと。


(――死)


 襲い掛かってくる剣を目の前に、徹の脳内にその一文字が浮かび上がる。


「ぬかああああああああ!」

「ぬおっ!」


 だが、間一髪横に転がることで剣を回避。ちらりと剣の軌道を見ると、それは先ほどまで自分がいた場所に振り下ろされていた。


(あっぶねえええ!今俺がどういう状況なのかは分からんが、死ぬような真似をしても碌なことにならんのは分かる!)


 首の皮一枚で命を拾った徹だが、現状は変わらない。

 自分を囲っている四人の騎士たちはじわじわと包囲網を縮めていた。


(ど、どーすんだこれ。いきなり生命の危機じゃねえか…!と、取り敢えず言葉での解決を…!)

「あ、あの~…話を聞いてくれないでしょうか。自分、何が起こっているかさっぱりで…」

「口を開くな!魔族風情が!」


 穏便に解決しようとした徹の言葉に、騎士はそう吐き捨て、再び襲ってくる。


「おわぁ!?」

(だめだこいつら!言葉は通じるけど話が通じねぇ!た、戦うしかないのか!?)


 そう判断した徹は、これ以上平和的解決を望むことを諦め、戦う方向に考えをシフトする。

 しかし―


(ヴァルターって戦闘能力あるのか!?)


 『ミレナリズム』において、主に戦争を担当するのは軍事ユニットと呼ばれる存在だ。ユニットとは『ミレナリズム』におけるいわば駒のような存在で、都市で生産し、マップを移動し、戦争や斥候を担当する『ミレナリズム』に不可欠な要素である。

 しかし、ヴァルター・グルズ・オイゲンとは、ユニットではなく指導者。実際に戦ったり労働することはなく、基本は画面の右上でワイプ越しにこちらを見つめてくるだけのフレーバー的存在。彼自身の戦闘能力など知る由もない。


(い、いや待て!確かヴァルターは闇魔術を使う魔術師だったって設定が…!)


 『ミレナリズム』廃プレイヤ―の意地として、ほとんどのプレイヤーが知ることのない設定を思い出した徹。

 魔術師は『ミレナリズム』に登場する戦闘ユニットの一つで、近接戦闘が苦手な代わりに強力な長距離攻撃を繰り出すことができる。

 自分がそんな魔術師であることを認識した徹は目の前の騎士たちと戦うことを決意した。


(闇魔術は攻撃能力に優れてる魔術…!いける!)

「じっとして死ね!魔族が!」


 理不尽なことを叫びながら突撃してくる騎士に向かって、徹は右手の掌を向ける。

 中学生以来、久しぶりにする気恥ずかしいポーズだった。

 何故か、今の徹には魔術を使えると言う絶対的自信があった。今魔術を使えば、それがどのように表れてどのように発動するかが、意識の下で分かるような、そんな感覚だ。


(俺…本当にヴァルターになっちまったのかもな…)

「行くぞ!闇魔術『地獄の炎(ヘルファイア)』!」


 不特定多数の者に致命傷を与えそうな言葉を叫ぶと、徹の右手に真っ黒な炎の球が現れる。

 『地獄の炎(ヘルファイア)』とは『ミレナリズム』に登場する魔術の一つだ。闇魔術と呼ばれる、魔術の中でも攻撃力が高い魔術に属している。本来魔術とは研究しなければ使えないものだが、魔術の中でも最初期魔術と呼ばれる基本となる魔術は、適性のあるユニットなら研究無しで使うことが出来た。

 それを知っていた徹は闇魔術が得意とされるヴァルターの体で闇魔術であり最初期魔術である『地獄の炎(ヘルファイア)』を唱えてみたが、どうやら目論見は当たったようだ。


「くらえええ!」

「うおっ!魔術だと!」


 徹はその火の球を一番近くにいた騎士に投げつけた。

 しかし、それで一気に戦況が傾くことを徹は期待していなかった。

 『地獄の炎(ヘルファイア)』は最初期魔術だ。つまり、闇魔術の中でも一番威力が低い魔術だ。いくら攻撃力が高い闇魔術とはいえ、これでとどめを刺すことは出来ないだろう。魔術で騎士たちの意識を逸らし、森に紛れて逃げ出そう。そう考えていた。

 しかし――


「う、うわああああああああ!」

「……え?」


 徹が魔術を投げ込んだ騎士から聞こえてくるのは甲高く森に響く、悲鳴。

 炎に包まれた騎士は絶叫すると、ばたばたと地面をのたうちまわり、やがてぴたりと動きを止めた。

 その場に残ったのは静寂と、人間が焦げた臭いだけ。


「俺……殺っちまった?」


 徹は目を点にしながら、ぽつりと呟いた。


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