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第十四話「セルノ姫の依頼」

 いきなり冒険者ギルドに現れた美女。

 切れ目の瞳に、美しい金色の髪。一目で妖精族(エルフ)と分かる横に長い耳。初雪のように真っ白な肌は豪奢な金色のドレスで覆われていた。


「セルノ姫だ…!」

「まさかこんな場所で見られるなんて…!」


 セルノ姫と呼ばれた彼女は、真っ黒な鎧に身を包んだ女性の妖精族(エルフ)を護衛にずんずんと奥へと歩いていく。


「邪魔だ」

「おっとっと……」


 受付嬢と話していた徹を押しのける黒い鎧の妖精族(エルフ)


「受付嬢?私が委託した任務を受けた方はいるかしら?」


 そしてそのまま、徹が話していた受付嬢にセルノ姫と呼ばれた妖精族(エルフ)が話しかける。

 傍から見れば受付嬢を横取りされた形だ。数人の冒険者が同情の視線で徹を見つめているのが分かった。


「……殺しますか?」

「待て。無闇に騒ぎを起こすんじゃない」


 殺気を溢れながら腰のナイフに手を伸ばすクラウディアを制しながら、徹はセルノ姫と受付嬢の会話に聞き耳を立てる。

 姫と呼ばれるくらいなのだからきっと高貴な身分なんだろう。そんな者が委託する依頼の報奨金はきっと高いに違いない。


「え、ええと、まだ、でございます…」

「そう。もう委託して一週間が経ったのに、何故かしら?」

「上の者が協議した結果、殿下の依頼は白金(プラチナ)以上の冒険者でなければ難しいと…。それで現在、王都ティアラに白金(プラチナ)以上の冒険者は少なく…」

「それじゃあ階級を下に下げたらダメなのかしら?(ゴールド)の冒険者は?」

「それは危険で、冒険者組合としては認められません」

「そう…」


 セルノは高圧的な、だが威圧的ではない口調で受付嬢と会話をする。

 聞くに、セルノ姫が冒険者組合に委託した依頼は難易度が高くそれに適した冒険者がすくないため誰も受注しない、ということだろう。


「…おい、セルノ姫の依頼ってなんなんだ?」

「あ?…あぁ、おめえは(シルバー)だから知らねえのか。なんでもガラー鉱山に巣食う小鬼(ゴブリン)の討伐なんだってよ」

小鬼(ゴブリン)の討伐ぅ?そんなもん、(シルバー)の俺だってできるぞ」

「それがな、その小鬼(ゴブリン)は青い肌を持つデカブツらしい」

「青い肌…?」

「ああ。そいつは普通の魔物と比べてとんでもなく強いらしくてな。セルノ姫の私兵じゃ歯が立たないってんで冒険者組合に依頼したのさ」

「はぁ~姫直属の兵士がなァ。それじゃ、報奨金はたんまりか」

「あぁ。フィーリス金貨300枚だ。一年はなにもせずに食っていけるな」

(青い肌……?)


 冒険者同士の噂話に、徹は心当たりがあった。

 今の戦力はヴァルターである徹と、斥候ユニットであるクラウディア。

 徹の予想が正しければ、きっとこの戦力でも青い肌を持つ小鬼(ゴブリン)は討伐可能だ。

 そして報奨金であるフィーリス金貨300枚。徹はその価値が如何様か知らないが、冒険者が言うには一年間食っていけるものらしい。だとすれば、サラリーマンの年収程はあるのかもしれない。


「少し、いいだろうか」


 徹が意を決して声を掛けると、セルノ姫と黒い鎧の妖精族(エルフ)が一斉にこちらに振り返る。


「魔族に…闇妖精族(ダークエルフ)?」

「…………」


 セルノ姫は純粋な驚きの表情でこちらを見つめ、黒い鎧の妖精族(エルフ)は明らかに侮蔑的な表情でクラウディアを睨みつけていた。


「その依頼、俺たちに受けさせてくれないか?」


 瞬間、冒険者組合にざわつきが広がる。

 あの男は一体何者なんだ。あの男女の階級は?あいつらはさっき冒険者登録したばかりじゃないのか。

 そんな喧騒に包まれる。


「……あなた、冒険者としての階級は?」

「先ほど登録したばかりだから、(アイアン)だな」

「ハッ」


 徹の言葉に、黒い鎧の妖精族(エルフ)は噴き出す。直後に「失敬」と言って見せるが性格の悪そうな笑みを隠そうともしない。

 対してセルノの表情は不変だった。


「その心意気は買うけれど、受付嬢の方が言うには私の依頼は貴方たちのような冒険者の卵には不適切なものよ。だから、悪いけれどこの依頼を貴方たちに任せる訳にはいかない」

「……」


 正論だ。この上なく。

 徹が冒険者として行動するならば、冒険者組合の定める規則に従わなければならない。


 しかし、徹にもそう簡単に引き下がるわけにはいかない事情がある。

 今の徹には纏まった金が必要だ。それもなるべく早く。


「…要は、私がその依頼を受けるに相応しい力を持っているという事を証明すればいいのだな」

「……なんですって?」

「受付嬢。私は先ほど、この国に来たのが最近だと言ったな」

「え?…あ、はい」


 まさか自分に質問が振られると思っていなかった受付嬢が戸惑いながらもそう答える。


「そして私は、シリース神聖国の出身だ」

「…へえ。それで?」

「日々罵倒されながら鍬を振る。そんな生活に耐えきれずここまでやって来た」

「…とてもそうは思えない見た目だし、本来だったら無断で国を抜けた民は送り返さなければいけないけど…。ま、シリースの魔族に対する弾圧には思う所があるからそこは見逃してあげるわ。それで?」

「分からないか?私はイェガランス大森林のど真ん中を突っ走りここまで来たのだ」

「……なんですって?」


 徹のその言葉に、冒険者ギルドに喧騒が広がる。

 もちろん、はったりだ。徹の出身は日本だしシリース神聖国に行ったことすらない。

 しかし、その言葉全てが嘘ではない。徹が直接したわけではないが、クラウディアはイェガランス大森林を踏破しているし、徹は彼女よりも戦闘力が高い自負があった。


 それならば、自分たちの力を証明するためにはこう言った方が早いと判断したのだ。


「そんな馬鹿な!イェガランス大森林はまだ誰もが全貌を明らかにしていない未開の地!そこを魔族と闇妖精族(ダークエルフ)風情が――」

「ミリズ。黙って」

「…っ。失礼しました。セルノ様」


 敵意を隠そうともしない黒い鎧―ミリズと呼ばれた女性を制し、セルノは徹たちを値踏みするように見つめる。

 徹とクラウディア、両者の頭からつまさきまで眺めたっぷりと時間を使って考え込んだ後、セルノはようやく口を開いた。


「分かったわ。貴方たちに任せてみましょう」

「セ、セルノ様!?」


 その言葉に、ミリズや受付嬢、冒険者たちは驚きの表情を見せる。そして、徹でさえも。


(うそん。まさか上手くいくとは思わなかったぜ)

「セルノ様!この者らは(アイアン)の冒険者。それに闇妖精族(ダークエルフ)にセルノ様の高尚な依頼を受けさせるとは…!」

「黙りなさいミリズ。貴方の懸念は最もだけど、まずその闇妖精族(ダークエルフ)への偏見を止めなさい。いつも言っているでしょう?」

「ですが…!」

「…落ち着いてよく考えなさいよ。はったりをかますにしても、イェガランス大森林の踏破なんて荒唐無稽なこと普通言わないでしょう?」

「……た、確かに、それはそうですが…」

「それが嘘かどうかは分からないけど、彼たちにはそれほどに自信があるのよ。だったら任せるだけ任せてもいいでしょう?」

「……それがセルノ様のご意向であれば、異論などありません」

「そう」


 ざわつく冒険者ギルド。それを意に介せず、セルノは徹たちの下へ歩み寄る。


「それじゃあ、貴方たちの名前を聞こうかしら?」

「ヴァルターだ」

「……クラウディア」

「そ。ヴァルターにクラウディアね。目的地までの馬車は私が手配します。出発は30分後。やれると言ったのは貴方たちなんだから、ちゃんと来なさいよね?」


 そう言って、セルノは人差し指で徹の胸をトンと押す。

 その仕草にクラウディアが一瞬構えるものの、害意はないと判断していつもの無表情へと戻った。


「ああ。無論だとも。このヴァルター、必ず貴方の依頼を達成して見せよう」


 敵が思ったやつと違ったら速攻逃げるけどな!

 徹は内心でそう思いつつ、笑顔で返事をしたのだった。

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