第十三話「冒険者ギルド」
「冒険者……だと?」
「はい」
騎士による襲撃をなんとか退けた後、徹はシーズと向かい合っていた。
『グリントリンゲン』をこれから発展させていくうえで避けては通れない道、金稼ぎ。シーズはそれについて心当たりがあるらしかった。
「冒険者とは、全国にある冒険者組合に所属する…う~ん……傭兵…いや、何でも屋、みたいな職業ですね。主な仕事は魔物狩りです。街道に魔物が出没したからこれを撃退して欲しいといったものや、森で採取をしたいから護衛を依頼したい…とかですね」
「あぁ~……」
徹はシーズの言う冒険者に心当たりがあった。
元の世界でたまに読んでいたラノベや見ていたアニメなんかに登場する冒険者ギルトとかそういった類のものだろう。
「魔王様の実力があれば魔物狩りなんて指先一つで出来るものでしょう!?」
「…ま、まぁな……?」
シーズの重すぎる期待に思わず頷いた徹だったが、聞けば先ほどから襲ってくるシリース神聖国の騎士団はこの大陸一、二位を争う程の屈強な軍らしい。そう考えれば、彼ら相手に苦戦もしない徹たちから見て、魔物を討伐することなど容易いだろう。
「なるほど、一考の余地はあるな。それでその冒険者とやらになるためにはどうすればいいのだ?」
「どこかの冒険者組合に行って冒険者登録をするだけですね。…恐らく、魔族である魔王様ならフィーリス王国が適していると思います」
「…確か、最も差別がない平和な国、だったか?」
「はい。魔族はほとんどの国で白い目で見られますが…フィーリス王国は別です。妖精族の王が治めるかの国ならきっと魔王様でも何事もなく冒険者としてご活躍できるかと!」
「なるほどな…」
「終わったぜ~。なんだ?ヴァルター様どこかに行かれるのか?」
丸太を一か所に集め終わったヴィルヘルミーネが徹とシーズのもとへやってくる。今の会話を聞いてどこかワクワクとした雰囲気であった。
「ああ。ここから北東にあるフィーリス王国という国にな。なんでもそこに行って魔物を退治すれば金をもらえるらしい」
「へぇ~…。まぁ、それはどうでもいいけどよ。ヴァルター様がどこかに行くならオレも連れて行ってくれよな!御身を守る奴は必要だろう?」
「確かにな」
この世界で徹が死ぬ。それがどういった状況を招くかは分からないが、そうならないに越したことがないだろう。ならば、徹の盾になる者が必要だろう。
徹としても自分が好きなユニットを盾にすることは不本意であるが、やむを得ない。それに、ユニットであれば技術を研究させていけばいずれ復活させることが出来る。少なくとも自分が死んで『グリントリンゲン』が滅ぶよりかはよっぽどいいだろう。
「失礼ながら、我が主。ヴィルヘルミーネを連れて行ってしまうとこの都市を守る者がいなくなるかと」
「む?」
そう考えていた徹に、クラウディアの水を差すような発言が届く。しかし、彼女は決してそういう意図で発言したわけではない。彼女の瞳は忠誠に染まっている。
「クラウディアでは力不足だろうか」
「はい。私は誰かを守りながら戦う術を知りません。騎士を撃退することは叶っても、市民を守り抜けられるかどうかは確信がございません」
「ふむ…」
(確かに…クラウディアはあくまで斥候ユニット。戦闘が苦手ではないが、得意と言うほどでもない。個人で魔物をやり過ごすことはできても対象を守ることはできないか)
徹は少し考え、結論を出した。
「よし。それならば我とクラウディアでフィーリス王国に向かうとしよう。本来であれば我はここに留まっておくべきなのだろうが…自分の目でこの世界を知りたい。よってクラウディアよ。お前には我の冒険者仲間兼我の護衛として働いて貰う」
「はっ。君命承りました」
「ちっ、オレは留守番か…。まぁしゃあねえか」
「ああ。明日から我とクラウディアはフィーリス王国へと向かう。ヴィルヘルミーネ、お前はしっかりとこの都市を守るように。……ん?」
そこで徹は、シーズが少し暗い顔をしていることに気が付いた。
「どうかしたか、シーズ」
「…はい。フィーリス王国は平和な国なのですが…。現王が妖精族ということで闇妖精族に対して少し蟠りがあるのです…」
シーズは少し申し訳なさそうな顔で、クラウディアの横に長い褐色色の耳を見る。
「蟠り…だと?」
「はい。私も実際に行ったことは無いのでわかりませんが、かの国では闇妖精族の方は白い目で見られると聞いたことがあります」
「……………」
その発言を、クラウディアは黙って聞いていた。
「う~~~む…。どうしたものか」
対して、徹の顔は歪む。徹は『グリントリンゲン』のユニット全てを愛している。クラウディアが後ろ指をさされ白い目で見られることは出来る事なら避けたい。
しかし自分一人で行く訳にはいかない。
『グリントリンゲン』の守りを徹が行い、ヴィルヘルミーネを単独で冒険者として送り込む手もあるがそれにも不安が残る。
「我が主。どうか私をお連れ下さい」
「クラウディア…」
シーズの発言に難色を示す徹へ、クラウディアはいつもの感情が読めない声でそう告げる。
「御身を守る栄誉を賜るためならば、周囲の反応など気にする必要はありません。私は貴方様の従者である。その事実があれば、私にとって周囲の反応など些事にもなりません」
クラウディアは真摯な目で徹を見つめる。
その瞳からは、今の言葉が嘘でないことが十分に伝わってくる。
「…………」
徹は悩み、考え、決断した。
「…分かった。お前には辛い役目をしてもらうことになるが、付いてきてくれるか、クラウディア」
「はっ。この身に余る光栄でございます、我が主」
そう言って、クラウディアは薄く笑った。
~~~
フィーリス王国。
百年以上戦争を経験していないその国は、ファルラ大陸で最も平和な国と呼び声高い。
そんなフィーリス王国の王都に、一際大きい建物が存在する。
それは冒険者ギルド。冒険者組合によって管理されている冒険者たちのための建物だ。
その中には思い思いの恰好をした様々な種族の冒険者たちで賑わっていた。
皮製の鎧を着用した者が受付嬢から依頼を受注したり、ローブに身を包んだ妖精族が依頼者と打ち合わせしていたり、任務帰りのボロボロの獣人が仲間と苦労を分かち合っていたり。
およそ五十人ほどで賑わっているその冒険者ギルドに、一組の男女が現れた。
その男女は、一瞬にしてその場にいたものの視線を釘付けにする。
しかし、それは無理もない。その男女はフィーリス王国の冒険者ギルドにいる者としてはあまりに不自然だったからだ。
男の方は魔族。高い背丈、広い肩幅を持つが身に着けているのは魔術師がよく着るような、しかし黒を基調とした高級そうなローブだった。
女の方は闇妖精族。見目麗しい顔を隠すような黒い布に、これまた真っ黒な服に身を包んでいる。体形がはっきりと分かってしまうようなその恰好に、何人かの男が目を奪われるものの、その場にいた妖精族からは嫌悪の目で見つめられていた。
冒険者たちの不躾な奇異の視線にも動じず、彼らは迷いなく受付嬢のもとへ歩き出した。
堂々とした立ち振る舞いや豪奢な格好から、どこかの貴族の遣いかとほとんどの冒険者たちは推測する。基本的に自分で動こうとしない貴族たちが、遣いを走らせて冒険者ギルドに依頼することは決して珍しいものではなかったのだ。
「すまない。冒険者登録をしたいのだが」
「えっ?」
「えっ」
そう推測していたからこそ、魔族の男の発言に受付嬢だけでなく冒険者たちも驚きの声を上げる。
魔族も闇妖精族も本来冒険者では珍しい種族なのだ。
フィーリス王国にいる魔族はほとんどがシリース神聖国での圧政から逃げ出して来た冒険者の資質もない貧弱な者ばかりであるし、闇妖精族の冒険者は決して珍しくないがここフィーリス王国に限って言えばそれは偽である。
妖精族の人口が多いフィーリス王国では闇妖精族は肩身が狭い思いをする。そんな彼らが、わざわざ目立つ職業である冒険者をフィーリス王国で選ぶことは珍しいし酔狂であろう。
「……無理だろうか?」
「あ、い、いえ。申し訳ございません。すぐに取り掛からせて頂きますね」
そう言って、受付嬢は冒険者についての説明を始める。
冒険者たちは、いきなり現れた謎の男女が冒険者登録をする様子を注視するのだった。
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「――以上が冒険者についての説明でした。何かご質問はありますか?」
「いや、大丈夫だ。よくわかったとも」
受付嬢の言葉に、徹は頷く。
彼女の冒険者についての説明に真新しいものはなく、ほとんどがシーズが話してくれたことと一致していた。
しかし、新しい情報が一つあった。それは『階級』だ。
(下から鉄、銅、銀、金、白金、金剛か)
依頼を委託された冒険者ギルドは、その依頼の難易度を見極め、依頼に階級を付ける。そして依頼を受ける冒険者はその依頼の階級以上で無ければ受けることはできない。
(不相応な依頼を受け無意味に命を散らすことを未然に防ぐ仕組み、か。よくできているな)
だが、これは徹にとってあまり歓迎できない仕組みだった。
たった今冒険者としてのキャリアを始めた徹たちの階級は鉄。つまり冒険者としては最弱の階級だ。
『グリントリンゲン』には売れる生産物もなく提供できるサービスもない。持っているのは他国の騎士を一掃できる武力のみ。そう考えて冒険者となったのに、最低の階級では大した依頼を受けられず多くの報酬金は得られない。そうなると『グリントリンゲン』発展計画は振り出しに戻る。
「失礼。鉄の冒険者が受けられる依頼にはどういうものがあるのだ?」
「そうですね。それではこの『ホーバ草の採取』などどうでしょうか。報酬金はフィーリス銀貨五枚となっています」
(フィーリス銀貨?なんじゃそりゃ。銀貨だけでもよくわからんのに変なのつけるなよ…)
「……すまない。私たちはつい先日まで別の国で生活していたんだ。差し支えなければ、フィーリス銀貨五枚がどれくらいの価値を持っているのか教えてもらっても?」
「そうですね……。食べるだけなら、お二人で五食分は賄えるかと」
「ふむ……」
(う~ん…。正直この国の物価とかよくわからんけど…大体五千円くらいか?)
一食五百円と考えれば、それくらいの認識が妥当そうだ。
フィーリス銀貨一枚は大体千円くらいの価値がある。そう考え頷く徹だったが、問題が一つ増える。
(一回の依頼で五千円!?魔族五十人……大体十世帯の家を建てようと思ったら気が遠くなるほど少ないな!?)
この世界の大工の相場など知らないが、これから国の発展をしていこうと考える徹にとってその報酬は少なすぎる。
徹の収益はそれ即ち『グリントリンゲン』を発展させるための国家予算改め文明予算に等しい。それが日給五千円というアルバイトに等しい収入では『グリントリンゲン』は立ち行かない。
「お、おい…!ありゃあ…!」
「ゼルノ姫だ!」
「ああ…!今日もお美しい!」
徹が頭を抱えていると、入り口近くが俄かに騒がしくなった。
そこにいたのは――
「おぉ…!」
ヴィルヘルミーネやクラウディアという美女を長時間侍らせ、女性への耐性が出来た徹でも思わず感嘆の声を上げてしまう――麗しい見た目の妖精族だった。




