第7話 形式の国
――カイセリ
皇国欧州支部 臨時首都という名を持つこの都市は臨時でも何でも無いただの首都である。
ただこの都市の肩書きを「臨時首都」にしたのは玄がこの「カイセリはあくまで臨時首都であり本当の首都は別の所、よって西洋世界全土は皇国のものである」という無茶苦茶な言い分を大義名分にして西洋世界を攻め取るという抜け目なさのためである。
ここまで行くと大義名分も要らないのではないのかと思うところではあるが、玄はこの無茶苦茶な大義名分をエンターテイメントとして楽しんでいるのだ。
実際彼は統一戦争の時、とある国を攻めたがその時の大義名分は、一人もいるはずのない国民の保護である。
流石にこれは皇国内部でも失笑を買ったが誰も正面切って言えず、その結果皇国の左派の没落を招いたのは余りにも有名な話だ。
それはともかく、この時代では考えられない高層ビル(廃墟)が並ぶこの都市では今後の欧州支部の将来を左右するような事が話し合われて、というより宣言されようとしていた。
議題はどのように西洋世界全土征服という大事業をどうやって成すかについてである。
上弦の月が燦々と窓から姿を覗かせている。
そのためか暗い室内灯でも広い室内を十分に照らせている。
ただいつもの4人だけなら広すぎたとしても今回は式典で並んだ連隊長級以上の高位の軍人が一堂に会している。
全員が中央の天、玄、旭、天夢を囲むように座っている。 まるでそこには透明の壁があるようだ。
そしてここにいる全ての人間が自分を見ている事を確認すると玄は口を開く。
「俺たちは西洋世界征服事業の一環としてまずバルカン半島を支配するオーストリア帝国を攻撃する。ちなみにオーストリア帝国の名目上の首都はウィーンだが奴らはウィーンを持ってない。まあ俺たちも同類かもな」
玄が渇いた声で冗談を言う。目は決して笑っていない。
と言っても西洋世界にある9つの国の一つであり欧州支部と唯一国境を接する、オーストリア帝国がウィーン無きオーストリアと揶揄されるのは西洋世界ではよくあることだ。
聞いている者たちはどうしても笑いを堪え切れず笑いが漏れる。
自分たちがカイセリを臨時首都としているのは知っているが、自分たちがやっている事を本気でやってる国があると言う事実は酒の肴にしたら最高なのだろう。
――オーストリア帝国
そんな事を本気でやる国に玄たち欧州支部は攻め込むのである。
形式と古典で塗り固まった国は欧州支部に立ちはだかる。