第59話 終わりの終わり
その後、長い舌戦が休みなく繰り広げられて何十分、何時間、何十時間。講和会議の重要議題については終わりを見た。
会場は終わった瞬間に熱気が疲労へと変わり、玄とコウはもちろん、聞いてただけの者達も疲れ切っていた。ただこの後にも細かい国境線についての議題などがあることを考えると、彼らはここで休むことさえも許されない。
が何はともあれ講和条約の大まかな内容は決まった。
壱、皇国とオーストリア帝国は一年に及ぶ講和を結ぶ。
弐、皇国はシノブ、アクサライ、コンヤ、アンタルヤなどの中部トルコ及びイスパルタ、デニズリ、ナジッリ、アイドゥン、ロドス島などの南西トルコ、その他の土地を得る。
参、ロドス島に関しては皇国が100円ー1シリング換算で103億3040万シリングを支払う。
肆、皇国のロドス島への支払い以降、1シリングー90円の固定相場制とする。 また一般市場での相場と大幅な乖離が認められた時には、再度交渉する。
伍、皇国及びオーストリア帝国はこの戦いについての賠償金を双方に求めない。
陸、皇国はオーストリア帝国から事実上の独立状態にあるクリミア国に、独立保障及びそれらに準ずるものを与えない。
漆、皇国はオーストリア帝国と友好関係を築き、且つ協力して双方の危機に対処する。
捌、皇国、オーストリア帝国は自国海域を除く、黒海、地中海、その他の海域での、正当な理由なき民間船の拿捕、通商妨害などの事を行わない。
玖、皇国とオーストリア帝国は戦時中及びそれに準ずるときでない限り、国境を今まで通り開くものとする。
これら一つ一つに一から十時間ずつかけたと思うと時間の無駄のように思えるが、そんな事は無い。あくまで多大な労力と時間をかけて条約が結ばれたという事実が重要なのだ。
そんな中、大体が終わったという安堵感で包まれる会場で座っている玄に話しかける人物がいた。ずっと隣りにいながらほとんど空気だった旭だ。
旭は疲れたのか少し足取りが重い。
「お前ほとんど空気だっただろ!」と言いたい所だがそんなに元気な人間は存在しない。
現にいつもはなんやかんや元気な玄も、だらしなく椅子に寄りかかっている。
「でもめっちゃ時間がかかりましたね。 玄さんと相手側の人がよくずっと何十時間も喋り続けたな、と思います」
「まるで俺がやべぇ奴みたいに言うなよ。 それにまだ講和会議はまだ終わってない」
玄が旭を見上げる。比較的元気な旭に思うところがありそうな顔だ。
それでもいつもの玄よりは随分、達成感と安堵で機嫌がいい。
玄が西洋に来た本当の理由を考えれば達成感を感じる所ではなさそうだが。まあ嬉しいものは嬉しい。
そして旭がふと思い出したかのように、一つ結びの黒髪を揺らして言う。
「そういえば私達のためにわざわざ外でずっと待ってる天さん達って大丈夫ですかね?」
多分大丈夫でない事ぐらいは、玄でも想像がついた。
あと少しで一章終わりです! 今までありがとうございました。




