第56話 分からずの答え
「バレましたか......」
高官が待機する用の豪華な部屋で、コウとアリスが顔を見せあっていた。ただ婚約者としての関係ではなく、あくまでも主従としての関係でだ。
申し訳なさそうな表情でアリスが謝罪する。美女はどんな時でも顔を崩さない、と言うが実際にそうなのだろう。アリスは整った顔をまったく変えない。
「まさか隠し部屋にいることを知られるとは。 気配と魔力は出来る限り消したのですが......。 申し訳ございません」
「いえ 仕方ないです。 彼がただの文官では無い事が分かっただけで収穫ですよ」
「では私は失礼します」
「何かあったらまた呼びます」
そうしてアリスが長い黄金の金髪を靡かせながらドアを開けて出て行くと、コウは一人用のソファに再度寄りかかって目を瞑る。
――この講和会議は何かがおかしい。
自分たちが始めた講和会議だが皇国の対応は怪しすぎる。皇国が名目はどうあれ「ロドス島の対価としての金銭」という事実上の賠償金を簡単に払うと明言するのがきな臭い。払う額が高額になるのは分かりきっている。それにもしこれがロドス島の領有を既成事実化するための策だったとしても、ロドス島に、国が買えるような金をかけるとは思えない。いくらロドス島が重要拠点でも高すぎる。まさか皇国が賠償金の額が生易しいものだ、と思っている訳では無いだろう。
――そもそも考えてみればこの戦争自体おかしいと言えばおかしい。
今となってみれば皇国の狙いはオーストリア帝国のアジア領土、つまりアナトリア半島全土からイスタンブールあたりだったわけだ。にしては作戦自体シンプルというより簡素で手抜き感がある。実際に約半分を取られた身としてはそんな事を言えないが。
さらにすぐに講和して休戦というのも納得がいかない。別に皇国が切羽詰まった事態にいるとは聞いていない。少なくとも今現在皇国と欧州で領地が接しているのはオーストリア帝国とクリミアだけだ。つまりここで二年間休戦してしまえば、侵攻戦争そうそうに二年間の休止期間が設けられるのだ。
――ではなぜ?
なぜ皇国は一見不利とも思える講和をしようとしているのか。
絶対に答えが出ない難問を解くような感じにコウは呼吸を整えてなんとなく上を見る。そこには白や赤を基調とした天井があって、権威を誇示するための豪勢なシャンデリアがある。無駄で不可思議な光景は一切なく、すべてが合理的に配置され調和し合い部屋の価値を高めている。
「皇国も同じか」
皇国の作戦にも同じように無駄はないはずだ。内容は分からなくとも、それだけ分かっただけでやれることは変わってくる。
コウはゆっくりと立ち上がって、ドアの前まで行き、端麗にそれを開けた。
――分からずの答えは探し当てられる事すらもなく氷解した。
更新遅れちゃってすみません。




