第55話 暗闘
「我が国は休戦に向かって最大限の努力をしました。 これより譲歩は出来ません」
講和会議はコウの断言でざわつく。今は講和会議のため全戦線で戦闘が停止されているが、講和会議が不発に終われば即座に戦闘は再開される。その場合ここでも戦闘が行われる可能性があるのだ。
「俺たちも戦争が好きなわけじゃない。 もちろんロドス島の重要さも分かっている。 だからこそ金を払うぐらいのことはできる」
「金?」
玄の、正確な意味が読み取れない話にコウは聞き返す。
「ああ つまり俺達はロドス島を譲れないが、ロドス島のためにお前らに対価として金を払うくらいの事はできるってことだ」
「具体的な金額はこちらで算出しても?」
「まあ 法外な値段じゃないならご自由に」
玄が薄気味悪い表情で首を縦に振る。誰から見ても状況は玄が少し優勢に見える。対してコウは険しい顔をして判断を迷っている。ただそれでも容姿を崩さなのはイケメンという存在の特権だろう。
「では時間を少しいただけますか? ロドス島の価値を調べなければなりませんので」
「ああ 何時間でも何日でも待ってやるよ」
会議は一旦中断となりオーストリア帝国側は彼らの待機室に帰り、残された皇国側も待機室に行った。玄と旭を除いて。
二人しかいない部屋は実物以上に広く感じられる。それも沈鬱とした空気が流れていれば当たり前だろう。
「実際どうなんですか?」
「何がだ」
「勝算ですよ」
旭が重い空気を打破しようと問いかける。実際聞きたいこともあったからなおさら好都合だ。
「勝った。 間違いなく俺たちが勝った。 うまく行き過ぎて怖ぇぐらいだわ」
「えっ」
いきなり上機嫌になり人が変わったように話し出す玄に旭は割と面食らう。なにか悪いことがあって不機嫌だと思っていたのだ。
ただ意外にもそんな事は無かったらしく旭はこれはこれで良かった、と胸を撫で下ろす。
「驚きか?」
「いやてっきりもう少し暗いものだと」
「暗かったのは誰が聞き耳立ててるか分からなかったからだよ」
「誰かが?」
「ああ オーストリア帝国の奴らがな」
その後に玄は笑いを抑えきれなかったのか笑い出す。
「ああ おもしれぇ」
それを驚いた様子で見守る旭。状況が分かっていない彼女からしたら変な光景だが、玄の真意ははっきりと彼が意図した人物に伝わった。
「......」
金髪の少女が静かに会議室を離れた。




