第53話 外交音痴
序盤から敵意と殺意が交わって始まった講和会議、円卓は平静を装っているがただでさえ沸点が低そうな彼らが爆発するのは時間の問題だった。
「では逆に聞きますが貴方がたの司令官、天凪 天はいないのですか?」
「天皇陛下から欧州を委任されている最高司令官が貴殿と釣り合うと?」
コウの質問に質問で答える玄。コウとしては外交初心者だと思っていた皇国、少なくとも玄が明らかに経験者でしかも相当上手であることに驚かされた。
それもそうだろう。見たところ、皇国は噂通り外交は下手だ。それは経験からくるもので、経験がなかった皇国が下手なのは仕方ない。ただ天凪 玄は違う。もし彼が見た目通り自分と同じ年頃の男だとすると彼は17歳ということになり約2、3年は戦争しかしてない事を考えると疑問が湧いてくるのだ。
――それはどこで玄が外交の技術をどこで得たか、という疑問だ。
恐ろしい「妄想」を考えながらも講和会議を続ける。
「釣り合うと考えますよ。 なぜなら貴方がた皇国欧州支部はほとんど独立勢力だ。そして国力は我が国や他の欧州諸国と並んでいる。 だからまあ貴方がたの本国の太政大臣を呼んでこいとは言わず一応委任されている天凪 天でいいと言ってるのです。 なぜなら彼が欧州においてのナンバー2であるから。 そして私は文官では第三位とは言え、武官では第二位です。 それに東洋方面の総司令官でもある。 こう聞くと私と貴方がたの総司令官、天凪 天と私が釣り合うように感じませんか?」
コウは極力感情を出さず正式な形で正論を言う。紳士のやり方だ。結局のところ内容はさっきの続きでどちらが上か下かの水掛論なのだ。この正統性の面で争うの疲れる。それも玄相手ならだ。
だから早く本題に進みたいところだが。
「釣り合わないな。 お前らは一級戦皇士を二人も失った。そして領土も失った。 要は負けたんだ。 そのくせお前らの皇帝が土下座することもなく講和!? なめるのも大概にしろ」
玄の止まらない言葉に正面に座る円卓の半分は立ち上がり、腰の剣に手をかけている。
ただコウは流されず感情を押し殺して玄だけを見つめていた。
「コウ様。 私達はご命令があればいつでもいけます。 そのために準備してきました」
怒りの赤色に染まったアリスが隣のコウに訴えかける。あまりに失礼で横柄な態度にオーストリア帝国軍人としての血が騒いでいた。
もう既にその手は剣を引き出している。
するとコウは面白そうに言った。
「意外でしたよ。 まさか外交音痴だと思っていた貴国が我が国の者を振り回してくれるとは」
静かにコウはそう告げた。




