第51話 殺意で始まる講和会議
――誰かがこう言った。
――東洋世界と西洋世界が交わる事は無いと。
――それを否定する者はいなかった。
――では300年前の定説は今でも定説なのか?
春の動植物たちが夏への支度をしようとする頃、アナトリア半島随一の大都市、アンカラでは皇国とオーストリア帝国の講和会議がもたれていた。
激戦が繰り広げられたアンカラの都市庁舎。半壊した都市庁舎だが僅かの間で再建され、こうして講和会議の会場として使われるに至っている。
ただ原型は留めておらず、無駄にでかい円卓が中央にあり、それを囲むように椅子があるだけの殺風景な空間と化している。
そしてここで円卓を半分に割り、殺意を胸に秘めながらも平静を装い、つつも微妙な笑みを浮かべ合う集団が二つあった。
皇国欧州支部講和会議派遣団(皇国)とオーストリア帝国対東洋皇国戦争特別対策調査団臨時講和会議担当班(オーストリア帝国)である。
無駄に長い名称(特にオーストリア)を抱えた両集団はジョークのような名前に反してちゃんとした責務がある。
それは泥沼化する様相を見せている戦争を自陣営に最大限の利益を得れるようにして終わらせる、と言う事である。
「で、なんで私もここにいるんですか?」
文官でさえ武官並みに殺気をあらわにしている中、一人ぼーっとしている場違いな黒髪美少女がいた。旭だ。
旭が小声で隣の玄に耳打ちする。
「仕方ないだろ。 天は向こうと格が釣り合わないし、空澄はただのアホだろ。 それで天夢はこういうの向けじゃねぇから。 消去法でお前しかいなかったんだよ」
「消去法って......」
「始まるぞ」
玄から見て真正面にいるコウ ハプスブルク、オーストリア帝国のナンバー3で次期皇帝、なおかつ皇国との戦争を取り仕切った智将。この男と知恵比べをしてきた玄は、この美少年を前になんとも言えない感情を抱いていた。
「皇国の皆様。 今回は我が国の講和会議の要請に応じて下さり誠にありがとうございます。 では僭越ながら講和会議を始めさせて頂こうと思います」
黒と茶色をミックスした艶のある短い髪。嫌でも目を向けさせてしまう瞳。男としての魅力がある整った容姿。全てが完璧なこの男に玄は、嫉妬ではないまた何か別の感情を覚えた。
だからか
「オーストリア帝国の次期皇帝が出てくるのはいいが、皇帝は出てこないのか?」
死体に向ける笑みで言った。
――敵意むき出しの講和会議が始まる。




