第4話 ため息
――皇国欧州支部副司令官
玄は兄の天のもとで皇国に九つある支部の副司令官となり、その内の1つヨーロッパ支部に戦艦で向かっていた。
「東は米大陸、西は欧州か」
統一戦争の後、皇国は膨張した。
銃火器、内燃機関などの先進技術を駆使、無人の荒野や西洋世界の植民地を占領し、世界の半分以上を支配下に置いた。
そして今、皇国の膨張に立ち向かうのは西洋世界と呼ばれる地球の半分を支配していた世界である。
かつてはインド亜大陸や東南アジア、南北アメリカ大陸全土、アフリカ大陸、シベリアを我が地としたヨーロッパも皇国の先進技術に為す術も無く敗れ去った。そして彼らが対抗できる力をつけた頃にはヨーロッパ大陸と少ない海外領土しか残らず立場は逆転したのだ。
そしてその必死に抵抗する西洋世界を滅ぼすという役割を負っているのが欧州支部だ。
要は欧州支部は反抗しようとする西洋世界と戦う所なのである。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと風が目に入っただけだ。」
ぼーっとしている玄を心配して旭が声をかける。
その瞬間、玄たちの乗っている船が激しく揺れる。
ああっ、と倒れそうになる旭を別段なにかする訳でも無く玄は艦橋の艦長室へと向かっていく。友情を微塵も感じさせない玄を体勢を立て直した旭が急いで追いかける。
天井が無駄に高く一人のための部屋としては広すぎる艦長室は、自動ラムネ製造機などの設備も完備されているため幹部の会議などにも多用されている。
そんな艦長室でヨーロッパにつく前の最後の会議が行われている。
「西洋世界には9つの国があり日本の統一戦争時の様相を呈している」
西洋世界について玄が説明している。
そして3人しかいない聴衆のうち一人が立ち上がってその瞳で玄を見つめる。
黒く長い髪に左右で色の違う瞳を持つ16、7歳ぐらいの少女のような少年は
玄、旭と同格の幹部である。
「なんだ 宙?」
「僕達の最終目標って西洋世界の全土占領ですよね? なら国が9つあって単純に国力が9分の1しかないんだから9カ国を順々に占領したら簡単に達成できるんじゃないですか?」
女性のような声質で問いかける。声だけを聞くとまるで女性のようだ。若干旭に声は似てるが別に彼らは生き別れの姉弟だったり遠い親戚だったりはしない。ただの別人である。
そんな時に玄が立っているのが疲れたのか椅子に座り、前にある机にだらしなく足を乗せる。そんな玄を苦々しく思う旭と宙だが天は表情を崩さない。そんな状況には慣れている旭と宙は何も言わず玄を注視している。
「はあ」
玄がため息を付く。
まだ統一戦争の電撃を忘れられない彼らに玄はまたか、という顔をする。
統一戦争は銃火器を皇国しか持っていなかったので長く続いた戦争を簡単に終わらせる事ができたが、それは銃火器を持った現代人が中世のチンパンジーを殲滅しただけなのだ。
――玄のため息は長い。