第44話 入り乱れる両国家
「殺すしかねぇよな」という言葉は単純で心の複雑な鎖を消す。中毒性のあるこの言葉に誰もが盲信してついて行くのは、その言葉に裏付けられた緻密な計画と確実性だ。
その言葉に信じるものを第三者として見てきた天は知っている。
――その言葉の意味を
だからこそ天は玄を強い口調で言う。
「それは......どうやって?」
含みのある言い方に玄は無言で佇む。
「安心しろ 今はしないというより出来ない」
「良かった」
ホッと胸を撫で下ろす。玄は今まで卑劣な手段を使って相手を陥れて自分と玄自身の地位を築いてきた。だからその犠牲の上に立っている自分が言うのは変だが、それを止められなかった。
元々自分は出世など求めてなかった。たまたま玄が自分の生来の味方として生まれてきおかげで自分は成功したのだ。それを自分の功績などと誇るつもりはない。
そして成功した自分の役目は暴走を止めることなのだ。
「それと一つ聞きたい事がある なんでバタイに負けたんだ?」
「僕が弱かったからだよ」
「一級戦皇士に力負けして守護天者発動まで追い込まれたのか?」
玄の問いに天は淡々と返す。実際格下の一級戦皇士に負けたのは自分 弱かったからだ。嘘は言ってない。すかさず玄が声を立てる。
「そうだよ......。反省はしてるし次はこうはさせない」
天の目を見て玄は頼んだぞ、と肩を叩き幕営を出る。広い幕営には天だけが残された。
「コウ様、皇国はバタイ将軍を出し抜き脱出しました 今はアクサライ手前の平原にいるようです そして一級戦皇士二人と思わしき死体が発見されました」
「そうですか ライとテルテストが...... 私が間違えました 私が行くべきだった」
悲しみに場は包まれる。アリスの声は冷静そうだがどことなく声が掠れている。彼らに対する悲しみか、同じ帝国臣民の失態を恥じているのか、どちらかは分からない。
その金髪が、心臓が、揺れているのは確かだ。
「これからどう致しますか?」
「もちろん アクサライに向かいます」
アリスは冷たくも温かい声ではい、と言った。
コウ ハプスブルク、本名コウ ハプスブルク=ロートリンゲンは人の持ち得る全ての善の化身のような人物だ。彼はハプスブルク家の次期当主であり、それが意味することは彼が強大な帝国、オーストリア帝国の次期皇帝と言う事でもある。
この彼を帝国の至宝、大宰相と共に対東洋最前線に派遣したのはそれだけ帝国、現皇帝が時勢を分かっており滅亡という危機感を持って政務に励んでいる証拠だ。
オーストリア帝国は過去最大の外敵を迎える中、君臣ともに団結し15年ぶりの黄金期を迎えようとしていた。
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