第3話 ヨーロッパ
統一戦争が東京への総攻撃によって終わってから何週間か経った東京。
既にこの都市は総攻撃前に匹敵する繁栄を取り戻していた。
なぜなら首都機能が福岡から東京に移ったからである。
旧都福岡は数百年の戦乱期間中、皇国の首都で在り続け、統一の原動力にもなったがやはり立地の良い東京に首都が移ったのだ。
そして今、東京の真ん中に位置する皇居では、統一戦争の総仕上げとも言うべき論功行賞が行われようとしていた。
「じゃあ」
そう言うと天は皇居の門を通り消えていく。
「でも玄さんは選ばれませんでしたね」
すると隣りにいる少女がため息をつく。
歳は玄たちと同じ16、7歳ぐらいだろう。
まだ若く相当の美少女にも関わらず年に似合わない一つ結びをしているのが印象に残る少女だ。
その少女に玄は答える。
「当たり前だ。 今回選ばれたのはたったの九人。既に天が選ばれているのに同じ軍から二人も出せないだろ」
今回の論功行賞は統一戦争で最も活躍した九人しか選ばれない。
そんなただでさえ少ない枠を同じ軍で取るのは無理な話だろう。
実際、随分前から選ばれる九人は予測されていた。
だから別に選ばれなかったことが番狂わせと言う訳ではないのだ。
そんな中それでも、と言いたそうな少女を玄が制止する。
「静かにしろ。 旭 他の奴らのお出ましだ」
質素な馬車や豪華な馬車など様々な馬車が続々と門の前にやって来て止まる。
馬車から降りてくる人物たちはいずれも統一戦争で活躍し今回の論功行賞に呼ばれた傑物たちだ。
そしてその脇を埋める従者たちも、その名を轟かせた猛者である。
馬車で来た傑物たちが門へと消えていくと残った従者らによる談笑が始まる。
そして玄や旭の所にもどこかしらの従者がやって来ては立ち話をして去っていくのである。
社交の形が抜けない立ち話が終わり、疲れ果てた顔から言葉がこぼれる。
とはいっても近くのカフェで優雅にお茶を楽しみながら待つ、と言う事が出来ないのがつらいところだろう。
「いちいち殊勝なもんだ」
「まあまあ 社交ですから」
旭に諭される玄。
こうしてるうちに小一時間が経つと論功行賞から九人が続々と戻ってくる。
そして他の九人が出終わり、玄と旭が天のために居残っていると、天が今まで見たことのないような満面の笑みを浮かべこちらにやってくる。
「西洋世界行きが決まったよ!」
天が嬉しそうに言う。
それは玄にとって思いもしない一言だった。




