第31話 最後の脱出
「おい。 空澄」
「ひっ! 寝てた時にいきなり美少女が声をかけて起こしてきた! これが戦場での恋の始まりと言う奴!」
「お前 何言ってるんだ」
天と玄と空澄という男三人の部屋でうたた寝をしていた空澄は幻覚を見始め、遂には何をトチ狂ったか玄のことを美少女呼ばわりし始めた。
確かに玄の容姿は少年の域を出ておらず、美少年と言われれば通じるが流石に性別までもを転換させられるのは玄にとっても初めてだろう。
「お前、そんなに脳内お花畑なら旭がいるクレタ島に行けばどうだ?」
「いやー。 上冷泉さんって魅力的だと思いますけどちょっと合わないってうか......」
申し訳無さそうに頭を掻きながら遠くの地で戦ってる仲間を普通に対象外とする空澄に、玄は白けた表情で空澄を見て、隣の天は苦笑いを浮かべている。
「まあそれはともかく、脱出のやり方も決まったし早く行こうよ」
「えっ もう決まったんですか!?」
「聞いてなかったのか......」
作戦を決定したにも関わらず空澄が聞いてなかったことによってもう一度説明し直さなければならなくなってしまう。
二度手間の代名詞的な事件にもはや声さえ出せない二人とは対照的に、空澄は反省しているのか分からない態度ですみませんーー、と笑いながら謝っている。
「まあ仕方ないから僕が説明するよ」
「マジすっか ありがとうございます」
温和な天が少し呆れながらも善意で呆れて失神しかけている玄に変わって説明を買って出る。
ここでちゃんと感謝を伝えるのが空澄の憎めない所だろう。
「今僕達は都市庁舎で包囲されてるけれどいずれ兵糧が切れる。だから僕達はこの後、ここから脱出する。そして作戦としては煙幕や信煙弾で煙で敵の視界を遮って敵の本陣の反対側からなるべく被害を出さずに撤退するっていう算段だよ」
「へぇ なんかありふれてますね」
煙幕で敵の視界を遮断しその間に守りに徹しながら撤退するという、基本の基本を貫いた最も効率的な作戦だが奇策に慣れ過ぎた空澄は一言で台無しにする。
ここまでいくとなにかの才能があるのでは無いのかと思ってしまう。
「じゃあ てめぇはここに残って死ねばどうだ?」
「いや別にそんなつもりで言った訳では......って止めてくださいよ!」
下手な言い訳で発言を挽回しようとする空澄の首を玄は軽く抓る。
「で、もう一回さっきの言ったらどうだ?」
「分かりましたよ! 俺が悪かったですから!」
更に強く抓る玄に空澄は降参し渋々従うことになる。
――結局作戦は実行されることになるのだ。




