第30話 作戦決定
寒風が隙間から入ってくるが、幕営では人為的な熱気が籠もり外の気温の10倍は暑いのではないかと思うほど蒸せている。
「では作戦はこうです。 都市庁舎に籠もっっている皇国軍。 この軍はいずれ脱出を図るでしょう。 そしてその時一番突破される可能性が高いのはここの真反対にある陣地でしょう」
「それを殲滅するのですか?」
「いえ 見過ごします」
「「「はっ?」」」
乾いた緩い音が響く。
ガチガチに張り詰めた空気が弛緩するのが容易に感じられた。
「ただ見過ごすのではありません。 前方の軍だけ見過ごすのです」
「?」
理解できない説明に諸将は顔を歪ませる。
それもそうだろう。前方の軍だけを見過ごすというのはどういう意味か理解できない。
「つまり突破してくる軍の前半分は見過ごし後ろ半分を殲滅するということです」
「えっ」
作戦の趣旨が分かった諸将はさっきと同じような顔をする。 それもそうだろう。
一言で言ってこの作戦は
――卑怯
なのである。
乱戦になるのを警戒して一部の軍だけ見過ごし、後方の殿を務める軍を集中的に殲滅する。
騎士道の鏡のような男で次期皇帝である皇弟殿下――コウが清々しい声で勝利のために名誉を捨てる決断をしたことは驚きで迎えられた。
「しかし殿下、これは殿下の名声の傷をつけます。 もし我々が犠牲を払ってしまうために都市庁舎への突撃を躊躇しているのであればご心配に無く」
一人の男が暗に作戦の中止を求める。
正直自分たちもこの不名誉な作戦に参加したくないという事だ。
「いえ 私がこの作戦を薦めるのにも理由があります。 それはこの軍の一級戦皇士は籠もっている皇国と同数またはそれ以下です。 そのような状況で乱戦になれば兵数では勝っているのに、戦皇士の力によっていたずらに兵数を失います。 これが理由です」
「......」
誰も何も言わず只々沈黙の時が流れる。
今までの参加したくないという気持ちは一転、勝利が確実な作戦になんとしてでも参加したいという意思表示だ。
流石に口に出さないのは恥をかくからと言う所だろうか。
「ご安心を。 作戦は全員参加です」
ありがとうございます、という言葉が堰を切ったようにコウに向かい、その後目を合わせたくないという気持ちからそそくさと流れるように幕営から出ていく。
「現金ですね」
幕営で黙っていたアリスがコウに言う。
軽蔑するような声色だ。
「仕方ないですよ」
寂しそうな声はやけに響く。




