第29話 答え
「皆さん お集まり頂きありがとうございます」
コウが丁寧な口調で挨拶をする。
幕営では一万人の長たる師団長が何人も集まっていた。議題はもちろんいかにして都市庁舎に籠もる皇国軍を殲滅するかである。
「今回皆さんを呼んだのは後方の補給部隊を主に非戦論や撤退論が大きくなっているからです。 正直に言ってここは兵糧攻めをしたかったですが、こうなるとグズグズはしていられません」
「補給部隊と言うと侯爵ですか?」
今の状況を説明するコウに誰かが思い出したように問いかける。
「そうです。 侯爵によると北のロシア王国や西のイタリア王国が怪しい動きをしており、皇国に講話を要請しいくらかの譲歩をして、北伐つまりロシア王国侵攻に戻るべきということです」
微妙な口調で言葉を濁し話すのは侯爵の地位の高さもあるが軍の基礎たる補給部隊を司っているからである。
もし侯爵が苛立って補給部隊を撤退させようと思えば出来るのだ。だからこそここは諸将の前でムキになってはならず最善の選択をしなければならないのだ。
ここで猜疑心を他人に明かすと誰かに告げられ侯爵の心証を悪くするかもしれない。実際侯爵が東洋の皇国に裏切る理由や利益など無いのだ。
「では私達は撤退するのですか?」
どこからか声が聞こえる。強い口調だ。
それもそうだろう、ここまで来て撤退するのは完全に利敵行為だからだ。ここにいる全員はまず皇国の脅威を排除してヨーロッパに向き合うべきだと思っている。
彼らにとって撤退など愚策なのだ。
「撤退はしません。 攻勢を早めるだけです。」
「と、突撃ですか?」
主戦派の突撃中毒の将軍たちはその脳を戦場に向かわせている。
そんな痛い彼らをコウは諌める。
「まず状況を整理しましょう。 アリス」
「はい」
主戦派を止めるためにコウはアリスを呼び黒板のようなものに何かを書かせる。
「それでは皆さん。 まずこの戦いのはじまりはなんでしょう」
「それは東洋の皇国が我が国の領土を掠め盗らんとするためでしょう」
コウの問いかけに一人が答える。
「正しいです。 ただ正確に言えば皇国欧州支部がヨーロッパ併合のために開始した戦争です。 付け加えれば欧州支部は皇国に10個ある支部の一つです」
「......」
沈黙が流れる。あくまで分かってたとしてもこの言葉は無慈悲に胸に突き刺さるのだ。
黒板に書かれているアリスが書いた地図で領土の差を見ればそんな事は歴然なことに悲しみを抱かずにいられない。
自分たちは所詮一つの王国の一つの支部としか戦っていないことを。
「そして彼らはまずヨーロッパへの足がかりとするためにアナトリア半島制覇を狙っています。 恐らくこの戦いでクレタ島とイスタンブール、アンカラなどを占領して確固たる地盤を作りたかったのでしょう。 だからこそ我々はここで敵が全兵力の半分を出動させている戦いでその野望を打ち砕かなければならないのです」
「では都市庁舎の中に潜んでいる一級戦皇士二人を使ってやればいいのではないですか」
「皆さんに言ってはいませんでしたが彼らは二人とも死亡しました。二人ともです」
悲鳴が流れる。
アンカラ方面軍の現有一級戦皇士は3人から一人に激減したのだ。
一級戦皇士という枠外にいるコウを含めても戦力は多いとは言えない。
「確かに彼らの喪失によって一級戦皇士以上の戦力は私を含めて2人になりました。 ですが兵数は圧倒的にこちらが上です。 それどころか我々は包囲をしています。 完全に優位な状況なのです」
「......」
「勝利は近いですよ」
難敵という問いに対する答えは出た。
更新遅れてしまってすみません。これからはがんばります。




