第2話 不老不死
玄には誰にも言えない秘密がある。
それは自身が「不老不死」であると言う事だ。
それもただの不老不死ではない。実際に彼は人々が予想することさえ出来ないような年月を、老いない見た目のまま過ごした。
ただ彼が今の、「二回目」の肉体でこの世に生まれたのは17年前だ。
彼は一回死んだのである。
それも殺しという最も酷い死に方によって。
ただ同じ魂で、同じ記憶で、一回目の肉体が死んだ二十年後、今から約17年前ににまた生まれ直したのだ。
つまりそういう意味での「不老不死」である。
ただそれが人には決して言えない秘密である事に変わりはない。
そのせいで玄は兄の天や、他の仲間たちに隠しているという罪悪感が芽生えていた。
そんな玄の事情も知らない天は嬉しそうな顔でこちらを見る。
「この戦争がこんなに早く終わったのも玄のおかげだよ。論功行賞が楽しみだね」
「まあな ただ大臣たちだって発明家気取りの若造よりは、天みたいに命をかけたやつが良いだろう。」
「流石に今回はそうはいかないよ」
玄は気持ちを切り替え、灰色の瞳で虚空を見つめる。
天が話したいのは今回の戦争の論功行賞についてらしい。
銃火器を発明し間違いなく今回の戦争で最も活躍した玄に、大臣たちがどのような褒美を与えるかについて話し続けている。
ただ知識を応用しただけの玄は、胸が少しだけ引き締まる思いで聞き流す。
「欲しい物とか役職とかはないの?」
話が終盤に差し掛かり天はじゃあ、と最後の質問をする。
すると玄は今まで誰にも言っていなかった事をゆっくりと言う。
「一つだけあるとするなら俺は西洋世界に行きたい」
ほとんど交流がなく全くの異世界であるヨーロッパ。
人はあまりの遠さからヨーロッパを西洋世界、日本を東洋世界と呼びそれらを全くの別世界であると言ってきた。
ただ銃火器の開発と並行して玄が発明した内燃機関などの最新機器によって戦艦などが生まれ、行くのにかかる時間が減ったことでその事実は変わりつつある。
玄は自分の不老不死について知りたいのだ。
そして自分を殺した人物を見つけたいのだ。
旧来の価値観を持った人間なら笑う所だが、天は優しそうに玄を見つめる。
「考えてみるよ もしかしたら向こうへ行けるかもしれない」
天の表情にはなにか根拠というか確信があるように思えた。