第25話 不老不死者は生なる者の夢を見るか
天がテルテストとの戦いに決着をつけた時反対側の外廊下では玄とライの戦闘が終わろうとしていた。
玄の技によって消耗した結果人体阻害魔法を使い回復に入ろうとするライ。
その動きに無駄はなく時折間を見て牽制のために物体を異空間から放出させる。複合魔法であるこれを回復中にするのはさすがだろう。
玄は側転して回避し後退する。
放出される小石状の物体の大きさは小さいと言え威力は強力だ。当然の判断だろう。
ただライは卓越した戦術眼でよく玄を観察するべきだった。
――玄がその手に銃を持っている事を
無知が如実に影響するこの世界では無知を知っているなんていう言い訳は負け犬の遠吠えにすぎない。だからこそ哲学が廃れたのだ。
そんな直接的な武力の世界でライは死を見ることになる。
「――ッ」
刹那の呼吸で玄は銃を構える。
頭を狙い自分の魔力を込める。ただの銃に力を与えるのだ。無味無臭だった銃は航空機を落とした時と同じように七色に光り始める。
シールドも展開され準備万端だろう。
銃からは不思議と魔力という名の威圧感が放たれそれに気付いたライが目を細める。
そんなライを嘲笑うかの様に玄はトリガーを引く。
「死ね!」
音速を超える速度で放たれた弾は飛んでいく。
ライは咄嗟に避けようとするは無情にも命中する。
身体を仰け反って躱し即死は免れるも絶望的な状況だ。
心臓近くに当たった弾はライの幼い体を寄生虫のように蝕む。
それでも、とライは奥に向かって進み壁に身体をよりかける。
「はぁ」
吐息が漏れる。
ライは敗戦を悟ってか玄のことを見ていない。
優しく血をなぞり笑みを浮かべる。
その表情から既にこの世界への関心は失われている。
その少女は人間を超えているように見えた。
玄が向かってくる。
その手にはライをこの状態に追い詰めたライフル銃では無く拳銃が握られている。
玄の衣服は汚れ血が滲み出ている。
「あーあ テルテストも死んじゃった」
哀しみを空中に投げかける。
それは天と戦い死んでしまった仲間に対するものだろう。どのくらいの関係があったかは知らないがこうして同じ場所で同じ時間に死ぬのが運命づけられたものとでも思ったのだろうか。
「それは天と戦った奴のことか?」
「そうよ 良かったじゃない 殺せて たぶん一級戦皇士が二人も死んだって聞いたら私達の司令官様も驚くと思うわ」
ライから出る司令官様という言葉には少し馬鹿にしたような感情が含まれていた。
ただ大してオーストリア帝国のことを知らない玄でも相手の優秀な将の名前は把握しているので、司令官様が誰を指すのかぐらい容易に推測できた。
「それはお前らの国の大宰相の孫のことか?」
「そ......う」
こうして喋る内にもライは衰弱して声を失っていく。
見下ろす形で立っている玄はここで慈愛の心を出すような英雄でも勇者でも無く、そんな事を許されるほどの高みに登っていない事は分かっている。
ただ我慢するのだ。
「ねぇ あなたはどんな夢を見るの?」
その問いかけに意味があるのかは分からない。
恐らく彼女なりに意味があるのだろう。
最後に発する言葉なのだから。
玄は黙って片手で拳銃を向ける。その問いには答えないことが正解だと思ったからだ。
「――」
乾いた音が響く。
不老不死者は銃を撃った。




