第19話 七つの大罪
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城壁から遠く離れた都市庁舎では城壁での異変なんて分からない。だから都市庁舎にいる者たちは城壁にいる仲間たちの勝利を信じて戦うしか無いのだ。
自分たちの勝利が決して全体の勝利に繋がる訳では無いこの戦場、それでも勝利条件はどちらの戦場でも勝利することだ。
要はそれ以外の結果だと既に発生した犠牲と対価が合わないのである。消費したものとは、人でもあり、物でもある。
今の所、恐らく圧倒的な兵力差で城壁の皇国の兵は不利な状態にあるのだろう。それはどうしようもないし、まだ戦線が崩壊していないだけで皇国軍にとって善戦と言っていい働きだ。
そしてもう一つの戦場である都市庁舎ではオーストリア帝国の空から精鋭を以って攻めるという奇策で一時的に機能不全に陥ったが持ち直し、今やその侵攻してきた精鋭のせいでオーストリア帝国が十全に動けなくなっている。
ただどちらにせよこのままの勢いで終わってしまうと皇国とオーストリア帝国はどちらも無意味で大きすぎる犠牲を払う事になるのだ。
――状況が分からなすぎる。
都市庁舎の廊下で若干サイコパス味のある一級魔術師と戦っている玄はとある事を判断しかねていた。
それは撤退するか、否かである。
「――ッ」
そんなカンマ一秒にも満たないような一時を正確に射抜いてくるのは若干どころか相当サイコパス味のある一級魔術師ライだ。
「クソガキ!」
「止めてくれる? 私はあなたからしたら変かもしれないけど自分では普通だと思っているから。でしょ? それに私はそんな弱者の虚言に耳を傾けるほど弱くはないわ。あなたは弱いからそんな事に縋らないといけなくなるけれど。やっぱり可哀想」
罵詈雑言を理論化した文で責めてくるライは不気味だった。
少女の見た目で武力や性格が成熟している彼女は奇妙というより不気味だった。
必死に生きて抗う者とは正反対で、いたぶる事を家業としてそうな女は玄に恐怖やその他別の感情を湧き上がらせた。
玄の脳内は初めにあった感想に帰結する。
――こいつは野放しにしておくには危なすぎる
汚醜にまみれた自分が見えた。
漆黒に飲まれる自分が見えた。
恐怖に苛まれる自分が見えた。
鮮血に染まる自分が見えた。
絶無に陥る自分が見えた。
破砕される自分が見えた。
悠遠に行く自分が見えた。
――待っているのは怨嗟か幽鬼か怯懦か。
結果など分からない。
その結果肉片になってもいい、形が残らなかったとしても後悔はない。
ここでは努力をすることが勝利の一歩なのだ。




