第1話 戦争の終わり
――東京
今、この都市は200万を超えるであろう兵士に包囲され、危機に陥っていた。
普段は商業都市として列島最大のこの都市は高さ25メートルにも及ぶ壁に囲まれ、攻めてきた敵を地面に叩き落とす列島最大の城壁都市として懸命に役目を果たす。
この城壁のせいで命を落とした兵士は数知れないだろう。
ただそれを囲む兵士たちの顔は心なしか明るかった。
「もうすぐか」
都市を囲んでいる兵士達や火砲の後ろの小高い丘から、戦場の様子を眺める少年が呟く。
すると横に居た同い年ぐらいの少年が前に進む。
「これで統一戦争も終わりだよ」
――統一戦争
今や知る者すらいない時代、当時あった統一国家の弱体化を機に起こった戦争は数百年間、勝者を出さなかった。
何百もの国家が覇を競い、滅び、何十年かの間で10カ国にまで淘汰された。
短い戦乱と思われ安定が目の前に迫っていたのだ。
しかし人々の努力を嘲笑うかの様に、戦乱はいたずらに長引き、誰もがその終わりを見る事は叶わなかった。残酷にも天は世界を見放したのだ。
それが変わろうとしている。銃火器の発明によって僅か数年で、10カ国のうち8カ国が滅んだのだ。
そして今、最後の国を彼らは滅ぼさんとしている。
「総攻撃はいつからだっけ?」
「あと少しだ」
二人の少年は態度こそ違えど思っていることは同じだ。数百年続いた戦争を終わらせられる、という高揚感にも似た感情を抱き、曲がりなりにも武人としてそれを誇りに思っていた。
そんな中、誰かの合図とともに砲撃が開始される。悠々と聳え立っていた城壁は最新兵器の前に無惨にも崩れ去り首都を守る防壁としての機能を喪失した。この時点で彼らの勝利は約束されたのだ。
そしてその直後兵士たちは一斉に城壁に向かって突撃する。
砲撃によって無惨な姿になった城壁は兵士たちの侵入を防げず、彼らは敵の死体の山を越え進んで行く。
二人の少年はゆっくりと自分たちを阻んでいた壁に向かう。
「やっと終わった」
少年は疲れたようにボソッと呟く。
年の頃はだいたい17歳ぐらいで、三白眼と言う訳でもないのに異様に目付きが悪い。
そしてその年からは考えられないような貫禄のある姿は、その少年の異様さを際立たせている。
名を天凪 玄という。
「大丈夫?」
横の爽やかで真面目そうな印象を抱かせる少年が、心配そうに玄を見つめる。
「ああ」
玄はこの少年に自分以上の興味を抱いている。もちろん自分たちの関係を鑑みれば「興味」という単語は外から見れば変だが。
誰もが惚れてしまうような色気のある容姿に、実直な性格、それでいて頭も良く武人としても一流というオーバースペックな能力。
玄はいつも彼が進む道を間違ったのではないかと思う。別にこんな危ない道でなくとも十分、高級官僚として活躍できただろう。
何回かそんな話を少年に向かってした事があるが、いつも「そうかな?」と、答えるのだ。
その度に玄は、世間が言うように俺もおかしいかも知れないが、兄は自分よりおかしいと、思わされてしまう。
「玄は僕が兄で良かったと思う?」
少年が突拍子も無く聞く。あまりに急だ。
「まあ 悪くはなかったと思う」
「良かった」
いきなりの質問に玄は怪訝そうな表情で兄を見るもすぐに彼は自分の思っていることを言う。
――なにせ天凪 天は秘密を抱えた自分を受け入れてくれているのだから。