第10話 成功は簡単に
深夜11時、太陽が完全に沈み黄金色の月が世界の半分を照らしている。
カイセリの先にあるオーストリア帝国領であるはずのアクサライという都市では静かな侵攻が始まっていた。都市はすでに忍び寄った皇国軍に占領され、本来なら伝わるはずの陥落したという情報も住民が寝てる間に起こった出来事なので伝わらない。
――こうしてオーストリア帝国の国防最重要都市アクサライは陥落した。
そしてこの都市にオーストリア帝国軍と偽って滞在している天、玄ら第1、2軍は旭や宙クレタ島攻略軍の勝報を待つのである。
誰もアクサライの陥落に気付かぬまま、アテネの下部に位置しオーストリア帝国の生命線たるクレタ島の攻防戦が始まろうとしている。
アクサライが占領されてから1時間、日付が変わろうとした時、クレタ島の首府イラクリオ上空では轟音を鳴らす数々のヘリコプター、通称戦闘航空機から千を超えるであろう人間が飛び立った。
貧弱なパラシュート、本来必要である酸素吸引器などが無いにも関わらず兵士は軽やかに着地し一緒に落ちてきた銃や各々の武器を手に市街地に向かう。
なぜ彼らがこんな事が出来るのかと言うと、彼らが戦皇士だからだ。
幼年期から軍事学校に入り、本来常人なら持たない、持っても使えない魔力を当たり前のように自然と使いこなす存在、彼らは遺伝子によって脈々と受け継がれて来た天才である。
そんな彼らの中でも生粋の精鋭が千人以上も降り立ったのだ。
無論イラクリオの命日はこの日までだった。
地中海の最重要拠点たるクレタ島がこうも簡単に落ちることが旭や宙などの当事者に取っては不思議で仕方が無かった。
「早すぎませんか?」
「ちょっとね」
午前6時、すでに侵攻した軍はクレタ島の東半分を完全に抑え、西半分も小競り合いだけで時間の問題だろう。あ号作戦と名付けられたこの作戦はもうすでに終わりに差し掛かっているのだ。
情報によると天や玄の軍は移動を開始し、トルコの大動脈たるアンカラをその目に捉えているらしい。
本来なら自らの生死をかけてでも取るつもりだった為、あまりの簡単さに拍子抜けする旭。
普段は驚かない宙でも驚きを通り越して不審をおぼえている。
ただそんな彼らを置いて時間は進みクレタ島の完全占領と、アジアなのかヨーロッパなのかよく分からないイスタンブールやトルコ西部を除いたアナトリア半島の大部分を占領したとの報が届いたのは作戦が始まって13時間が経とうとした時だった。
何故か十二分に投稿する不思議。(確信犯)




