表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編小説

缶コーヒーを開けたなら、

作者: フルビルタス太郎

 この日、私は仕事でミスをした。それも、普段は絶対にしないようなミスだった。実は、ここ連日の徹夜続きで頭がぼんやりとしていたのだが、上司にそのことを言ったら、甘ったれんな、の一言で一蹴されてしまった。

「……ふぅ、疲れた」

 昼休み、誰もいない倉庫の片隅で昼食を取りながらそう呟く。目の前にはパンが二つと、缶コーヒーが置かれていた。

 ふと、

「なあ、アンタ。大丈夫か?」

 と、誰かが声を掛けてきた。見知らぬ若い声で、ふっと、顔を上げると、見知らぬ若い男の姿があった。

「誰……?」

 そう呟く。

 ほんのりと日焼けした肌。少年のようなあどけなさを残した顔立ちで、髪はコーヒーのように濃い茶色をしていて、お洒落な喫茶店のマスターが着ているような服を着ていた。

 彼は、私の顔を覗き込みながら、

「……なんかさ、随分と疲れてるみたいだけど?」

 と、言った。

「……うん、ちょっと、仕事でね、ミスしたんだ……、」

 力なくそう呟くと、彼は、

「ふーん……。ならさ、俺が癒してやろっか?」

 と、言って、にこり、と笑うと、私の体をぎゅっと、抱きしめてきた。見た目に反して、厚みのある筋肉質な体つきだった。

「……どう?……こうやって、ぎゅって、すると安心するだろ?」

「……え?」

「そんな顔、すんなよ」

 彼が、耳元でそう囁く。甘い声が神経をゾワリと撫で、心臓の鼓動が徐々に早くなっていくのがわかった。

「……俺のこと、好きにしていいんだぜ?」

「……い、いや、私は……、」

「遠慮すんなって、」

 そう言って爽やかな笑みを浮かべる彼。

 気が付けば、私は彼の分厚い胸板に顔を擦り付けながら咽び泣いていた。

「よしよし……」

 そう言って頭を撫でる彼。「……なあ、我慢せずにさ、泣きたい時には遠慮なく泣けよ、な?……でないと、心が壊れちまうぜ?」

「……うん、」

 私がそう言うと、彼は顎を軽く持ち上げ、そっと、唇を重ねてきた。私は目を瞑り彼に身を委ねた……ところで、ハッと、気がついた私の手には、蓋を開けた状態の缶コーヒーが握られていた。

「……ああ、あれは夢だったんだ、」

 そう呟きながらコーヒーをガブ飲みすると、昼休憩の終わりを知らせるチャイムが鳴った。

「……ふう……、さて、と、」

 私は軽く一息つくと、ミスした分を取り返すべく仕事に戻った。心は晴れ晴れとしていて、清々しい気分だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ