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15 旅立ち

「「お姉様、真理を発見しました!」」

「おやつのプリンのカラメルがガラスの容器に入っていたのです」

「私たちカラメルが大好きなので、プリンにいっぱいいっぱい掛けたのです」

「そうしたらプリンが苦くなって」

「プリンの甘さではなくなり全部カラメル味になってしまったのです」

「「好きでも適量というものが必要だと私たち知りました!」」


 今日もティティリーヌとリュリュミーゼは、おやつの豪華さに大はしゃぎである。


「マカロンのジャムやクリームの種類がたくさんあるのです」

「スフレもふわふわなのです」

「「とっても美味しいのです」」


 おやつを力説しておしゃべりになるティティリーヌとリュリュミーゼを、セイリスが可愛い可愛いと愛でまくる。

 平和である。

 しかし部屋の外は大嵐であった。


 神殿は女神様の怒りをかった、と人々が離れてゆき。

 筆頭侯爵家は、連日のレオハルトの様々なイヤガラセのために呪われた屋敷と囁かれ、使用人は逃げ出し侯爵一家は心身を衰弱させ。

 王家は大スキャンダルの激震のために揺れに揺れ、幾つかの貴族家は処分された。


 素性が不確かな女の言など普通は拾わぬ王家だが、王弟は王国という繁栄を腐蝕する毒草の花だった。腐れたる黄金。その美貌ゆえに前王に愛され泥濘のような栄華を極めていた。

 その王弟を公明正大に排除できる好機なのだ。

 ただ、

「国王ハロルド・ブラン・ダイアスの弟であるウェイン・メナン・ダイアスは、前国王であるアルバイム・イナン・ダイアスの血を継ぐ息子であるか、否か」

 と真偽玉に問えば解決するのである。


 電光石火で邪魔が入らぬうちに、王都に滞在中の貴族を召集できるだけ召集して王宮にて行われた真偽玉の判定。


 否、と真っ赤に光った真偽玉に蒼白となった貴族がどれほどいたことか。


 国王にとって邪魔だった弟が「旨い餌」になった瞬間であった。この餌を使えば目障りな前国王もろともに毒餌にして、前国王派閥を廃棄してしまえるのだから。


 おまけに不要であった第三王子も片付く。

 スキャンダルでの不名誉よりも実質的な利益を重視する国王は、大いに名も知らぬ美女に感謝をしたのであった。


 というようなこともあって、宿には美女との面会を求める貴族が拒絶しても列を成していた。


『ティティリーヌとリュリュミーゼともっと王都を楽しみたかったですのに』

「お姉様が激震地なんだから、仕方ないだろ」

 危険性が高くなったのでティティリーヌとリュリュミーゼは部屋で留守番となり、旅の準備はレオハルトが動き回っていた。

「市場でも寄るとさわるとお姉様の噂で持ち切りだよ。お姉様が立ち寄った店はどこも繁盛していて、人気になっているし」


「「わぁ!!」」

 部屋の隅とふたりで額を寄せていたティティリーヌとリュリュミーゼが歓喜の声を立てた。

「石がっ!」

「草がっ!」

 部屋から出られないので、ずっと祝福の訓練をしていたのだが、ようやく成功したのだ。

「「嬉しい! 嬉しい!」」


 道端に転がっているような黒い小石とぺんぺん草のような雑草だった。


『おめでとう、最初の第一歩ですね、ティティリーヌとリュリュミーゼ。鍛練を重ねればティティリーヌはアルラウネやマンドラゴラも、リュリュミーゼは宝石や賢者の石も夢ではないですよ。この祝福は本当に素晴らしいのですから』

「「はい、お姉様!」」


 頬を薔薇色に染めたリュリュミーゼがレオハルトの服の袖をひく。

「レオハルトにあげる」

「すげぇ嬉しいんだけど。いいのか? 記念すべき最初の石だぞ」

「うん、大事な石だからあげる」


 ほのかに甘く匂い立つ砂糖菓子のような空気に、つつつ、とセイリスとティティリーヌが距離をとる。

「お姉様、グレードアップしていませんか? 甘さマシマシです」

『だってレオハルトは自分の気持ちを自覚しましたから』

「まぁ、レオハルトさんたらリュリュミーゼの耳に、ちゅっ、て。きゃ、反対にも」

『もうリュリュミーゼの手へのキスでは満足しないでしょう。おお、耳からほっぺへ愛撫するようにキスの連続技が。エロいです』


 ひそひそ会話しながら目と耳はレオハルトとリュリュミーゼへと鋭く研ぎ澄まされているセイリスとティティリーヌ。


「レオハルトさんの目がトロリと蕩けていますけど。10歳児にアレはダメでしょう」

『フェロモン全開の初恋ですねぇ』

「お姉様、リュリュミーゼがちゅっちゅっが止まらないレオハルトさんをペチンとしましたわ」

『リュリュミーゼは猛獣使いですからね。オイタは叱って当然です』

「レオハルトさん、悦に入ってませんか?」

『重症ですからねぇ、リュリュミーゼからならば何をされても悦びに浸れるのでしょうね』


「まぁ、レオハルトさんたら」

『駄犬ですから』

 ティティリーヌとセイリスが、うふふふ、と視線を合わせていると、キスを諦めたレオハルトが、

「馬車の用意ができたから、明日、王都を出ないか?」

 とリュリュミーゼを撫で撫でしながら顔を向けてきた。

「お姉様が銀髪まで見せたから王都は騒がしくなっているし、とっと余所へ行こうぜ。俺、ダンジョンへ行ってリュリュミーゼにデカイ宝石をプレゼントしたいんだけど」


「身分証は、俺は地方の小金持ちの商人の息子でリュリュミーゼとティティリーヌは俺のメイドになっているから、お姉様は幽霊姿で頼むよ」


『運良く同じ年頃の身分証が入手できたものですねぇ』

 レオハルトが悪い顔で笑った。

「さあ? 王都の路地裏で行方不明になるヤツもロクデナシの親に売られる子どもも山ほどいるからな。念のため、俺は辺境の騎士の息子と行商人、リュリュミーゼとティティリーヌは王都の職人の娘と貴族の家に勤める使用人の娘、他にも複数の身分証を買ってきたよ。あはは、やっぱり金は金持ちの奥義だね」


 セイリスは重い溜め息をこぼしティティリーヌとリュリュミーゼは複雑な顔をした。


「言ったろ、金持ちの奥義だって。マトモな何人かは買って当座の生活費を渡して冒険者ギルドに放り込んできた。すぐに死ぬかも知れないし、生き延びて大人になることができて幸せになるかも知れない。少なくとも自分で自分のチャンスがあるのだから、奴隷となって切り刻まれる生活よりもマシだ」


 リュリュミーゼはレオハルトに飛びついた。

「レオハルト、すてき!」

「間違っても売られた親のもとに自分からノコノコ帰らなければ、努力と気力で這い上がれる可能性はあると思うよ」


 セイリスは気品ある美しい顔に微笑を浮かべて言った。

『明日出発するとしても行き先はダンジョンより、レオハルトのご実家にテイネイにゴアイサツに行くのはどうでしょうか?』

「「お姉様に賛成!」」


「はぁ? どうせ今頃、氾濫した魔物に生きたまま喰われているから無駄だよ。ここ数年、家のヤツらは俺だけに討伐させてきたから、石化の兆候があった時から魔物の討伐に手をぬいて、森の魔物の数を増やしておいたし。獣も、虫も、特に虫の卵は潰さなかったから増えに増えているだろうし」


『「「因果応報……」」』


「虫タイプはエグイんだよね。子どものメシとして生かされてしまうから長く苦しむこともあるし」


『「「嫌な死にかたナンバー1だと思う……」」』

 

 翌日、支配人だけに見送られ謎の美女は姿を消した。立つ鳥跡を濁してーー王都を大混乱させて。


 突然のことに貴族や庶民も探したが、手がかりすらなかった。


 結局、神殿から消えた祝福の子どもたちも発見されることはなかった。

 

 夕方の、金や赤や朱や黄や紫や青や藍や、花が風に巻き上げられて咲いたような百花繚乱の色をした空の下、川辺を軽快に走る馬車があった。


 川の水面は夕方の光を砕いて、薄いガラスの花弁のように、水晶の万華鏡のように、さわがしく崩れては輝く。まるで天上の一瞬のごとく。美しい。


 馬車からは、水の妖精が歌うような魂を捕らえる蠱惑的な歌が聴こえた。


 川を渡る風が歌声とともに「「お父さま」」と呼ぶ二重奏の可愛い声も、運んだ。

 

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最後まで読んでいただき感謝いたします。

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[一言] 今更ながらに嵌りました!! こんな面白いお話を書く人がいらっしゃったなんて! 拝見出来て感謝です ありがとうございました(*^-^*) 是非、幽霊のパパと双子ちゃんとその片割れに首ったけの…
[良い点] このお話の様に連載物の締め括りも、 読み手により「こうかな…」「次の展開は…」と、 続きを夢見させてくださる 終わり方(ある意味のスタート地点)で、 これからまた読み返すごとに 新たな発見…
[一言] うを!読みたい!もっと読みたい!
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