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11 ツバメちゃん

「なぁ、神殿が大変なことになっているらしいな」

「ああ、神官様の大多数が石化してしまったと聞いたぞ。だから治療師と解呪師がかき集められているって」

「どこかの貴族様も治療師と解呪師を大金を払って集めているらしいぞ」

「大きな声では言えないけど、女神様のバチがあたったと言う噂だ」

「知ってる、知ってる。それ、ありがたい祝福の子どもを罵ったからだろ?」

「女神様がお怒りになって、大神官の間のステンドグラスを粉々に割ったって」

「ひぇぇ、クワバラクワバラ」


 ティティリーヌとリュリュミーゼの捜索の現状を探ろうと王都を移動するセイリスの耳に、あちらこちらから神殿の噂話が届く。


「女神様から祝福を授けられた子どもは神殿から消えたんだろ?」

「もしかして、神官様が……何かした?」

「だから女神様が……」

「こえぇよ、こえぇよ、それ以上言うなよ」


 どうやらレオハルトのイヤガラセは、王都の住人たちに尾ヒレ背ヒレ臀ヒレ腹ヒレ胸ヒレ付きの巨大魚に成長して盛大な噂話を提供したらしく、潜める声が途切れることなく街の隅々まで泳ぎまわって広がっていた。


『これは大神官が近々病死するやも、ですね』

 セイリスはニヤリと口角を上げた。

『彼が毒殺された後ーー100年前も、ふふふ、ちょっと細工しただけで勝手に病死や事故死で自滅していきましたからね』


 ふふふ、セイリスは人間には聞こえない笑い声をたてて姿を掻き消した。


「「お姉様、お帰りなさい」」

「お姉様、お風呂があわあわなのです。昨日はお花でいっぱいだったのに」

「お姉様、蜜とバターがしみこんだパンケーキがベリーや苺をのせていたのです」

「お姉様、チョコレートが10種類も」

「お姉様、枕元にガラスの水差しのお水がレモンの香りがしたのです」

「「お姉様、お宿がすごいのです」」


 手をパタパタさせて瞳をキラキラさせて、セイリスの帰りを今か今かと待っていたティティリーヌとリュリュミーゼが興奮気味に報告をする。

 昨日も部屋の華麗さや夕食の美味さにはしゃいでいたが、疲れもあって早々に寝てしまったティティリーヌとリュリュミーゼは、今朝は朝食から舞い上がっておしゃべりになっていた。


 筆頭侯爵家の令嬢であるのに、ティティリーヌとリュリュミーゼは贅沢を経験したことがない。宿の豪華さに感動し通しであった。


 双子の可愛さに頬を緩めるセイリスであったが、ふと、片眉を上げて尋ねた。

『駄犬はどこですか?』

「レオハルトさんはリュリュミーゼの煮汁湯に入ると言って」

 とティティリーヌ。

「ティティリーヌと朝お風呂に入ったら、レオハルトも私たちの次にお風呂に入ると言って」

 とリュリュミーゼ。


『煮汁湯……。あの駄犬は』

 セイリスが重い溜め息をついた時、色々堪能して満腹になった肉食獣のように目を細めながらレオハルトが、

「お帰り、お姉様。捜査状況はどうだった? 追っ手はどこまで来ていた?」

 と言って部屋に入ってきた。


 レオハルトは、たった一晩で駄犬狂犬忠犬に進化してしまっていた。


 7歳から人を殺し獣を殺し戦場で成長したレオハルトは、殺意や悪意には敏感だが自分の気持ちには鈍感だった。

 自分の望みも希望も優先されたことも叶えられたこともないレオハルトは、滅私奉公を強いられてきた戦場で自分の感情を殺し続け、感情そのものを凍らせてしまい、リュリュミーゼへの好意を把握できずに困惑をしていた。


 好きって何だ? から始まり自問自答したレオハルトは、俺のもの、俺のもの、守る、とややナナメ方向に進んでしまい立派な駄犬狂犬忠犬コースに突入してしまったのだ。


 リュリュミーゼしか視界にないようなレオハルトだが、ティティリーヌのことはリュリュミーゼの姉として意識の隅にあるらしく、守護範囲内においていた。ティティリーヌが転びかけた時、離れた場所にいたにもかかわらず驚異の瞬発力で支えて助ける程度には認識をしていた。


 だからセイリスも護衛として合格ラインと安心して外へ探りに出たのだが。情緒面で大問題あり、のレオハルトに頭が痛くなったセイリスであった。


「お姉様、大丈夫ですか?」

 ティティリーヌが心配してセイリスを覗きこむ。

『ちょっとレオハルトのことで頭が……』

「お姉様、脇道だろうと回り道だろうと道は道です。寄り道をしたとしてもちゃんと帰り道です。お姉様は何もないと言った私たちに未来が残っている、と言ってくれました。レオハルトさんの道は、ゆっくりゆったりゆるやかで人とは違うかも知れませんがリュリュミーゼに続いていて、きっとリュリュミーゼは幸せになります」


 ティティリーヌはやわらかく笑った。

「それに、大切な人をきちんと大切にできない人が多いですけれども、レオハルトさんはリュリュミーゼをきちんと大切にしてくれてますから心配は何もないと私は思います」


 何度か瞬きを繰り返してセイリスは苦笑をした。

『ティティリーヌは10歳、レオハルトは15歳、年齢が反対のような気がします』

 セイリスの視線の先には、リュリュミーゼを抱き上げて頬ずりしているレオハルトがいた。

『アレですが、レオハルトは幸せでリュリュミーゼは嫌がらず受け入れていますので、まぁ、駄犬だからと許すことにしましょうか』


 セイリスは指を振って、お湯の入ったポットを動かした。

『さて、お茶を飲みながら今後のことを決めましょう』

 茶器が滑るように空中を動き、お湯が茶葉の入ったポットに注がれる。お茶の香り。蒸らしたお茶を茶漉しを通して次はカップへ。人間の手ではなく魔法でコントロールするセイリスの魔法の制御力は卓越していた。


『レオハルト、従者たちはどうしました?』

 レオハルトは当然のようにリュリュミーゼを膝に乗せて座り、宙に浮くカップを手袋をした手で2客受けとった。

「帰した。あいつらは俺の監視役も兼ねていたからゴネていたけれども、俺の戦闘力をあいつらも知っている。俺が本気になれば瞬殺されることを。石化の治療の成功を教えずに、故郷で俺の死亡届けを出せと放り出した」


 すでに石化の治療は終えていたが王都を旅立つまでは、まだ石化中と欺くために手袋をしたままのレオハルトであった。

 セイリスは頷くと言葉を続けた。

『捜索の目がゆるい今のうちに冒険者ギルドで身分証を作ってしまいましょう。憑依はティティリーヌで。リュリュミーゼの憑依姿はまだ誰も見たことがありませんから、隠しカードとしましょうか』


「異存はないが、あの絶世の美女で冒険者ギルドへ行くと行儀のいい貴族と違って殺しあいの騒動になるんじゃないか?」

 セイリスが渋い顔をした。

『わたしが大神官の時も狂信者が血みどろの争いをしましたね。レオハルト、他に案がありますか?』


「従者たちは俺があの絶世の美女に一目惚れをしたと勘違いをしていた。普通に考えて、俺の目的がリュリュミーゼとは思わない。だから俺を美女の若いツバメにして虫よけにしてみないか?」


『え? わたしとレオハルトでイチャイチャするのですか?』

 世界の終わりみたいな絶望的な顔をするセイリスに対してティティリーヌが手を打って、

「面白そう!」

 と大賛成をしたのだった。

 

 

お詫び

申し訳ありません。一度してみたかった毎日投稿にチャレンジ中で、いただいた感想の返信ができません。

しばらくは投稿を優先と考えていますので、お許し下さい。



読んで下さりありがとうございました。

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