1.遭遇
『....、』
誰かに呼ばれた気がして、目が覚めた。
目の前に広がっていたのは、星が舞う綺麗な夜空だった。
『こ、こは...』
周りを見渡そうと身体を起こすが、
『っ!?!?』
全身が焼けているような痛みに襲われ、再び倒れ込んでしまう。
特に痛みの酷い腹に手をやると、ドロリ...真っ赤な血がその手を染めた。
痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!
人生で感じたことの無い痛みに、何も考えられずにただのたうち回る。
10分ほどすると、感覚が麻痺してきたのか少し落ち着き空を見上げる。
人が来る気配がない。
ここに居ても死を待つだけだ、そう感じ痺れる手足に力を入れてゆっくりと体を起こす。
周りには所狭しと生えている木々。
どうやら森の中のようだ。
『てか、そもそも...なんで、こんなとこに...』
自分は確かにあそこでトラックに轢かれたはずなのに。
痛みが落ち着き思考が働き始め、訳が分からない状況に困惑する。
とにかく動かなければと立ち上がろうとした時、
ーカン
足に何かが当たった。
足元を覗くと、そこには古びた剣が落ちていた。
どうしてこんな所に...?
そんな疑問を持ちつつも、人気の無い森の中で丸腰というのも不安があるので、その剣を持っていくことにした。
その剣を杖の様に使いながら、ゆっくりと森の中を進んでいく。
数分歩いた先で、ふと人の声のようなものが聞こえてきた。
祈るような思いでその声を辿ると、少しひらけた場所へと辿り着いた。
そこには、想像以上に大勢の人が立っており、しかもその様子は不穏そのものだった。
仮面をつけ、マントを被った人達が剣を構える先には、倒れた馬車と同じく剣を構える、まるで騎士のような格好をした男が数人。
その後ろに、ドレスを纏う女性と少年が居た。
『撮影かなんか...?』
ふと思い、きっとそうだろうと断定づける。
この剣も小道具に違いない。
邪魔はしたくないが、こっちは今にも気絶しそうな痛みに耐えているんだから、救急車だけでも呼んでもらおう。
そう思い、1歩踏み出した時。
「殺せ!!!」
一人の男の一声で、仮面を被った人達が一斉に斬りかかった。
『うわ、始まっちゃったよ...他に人は...、』
周りを見渡す視界に、不意に入ったのは剣で貫かれ真っ赤な血を流し倒れる男の姿。
『え...?』
やけに生々しい光景に、痛みも忘れその場に立ちつくす。
その間にも、何人もの人がバタバタと倒れていく。
やがて漂ってきた血の匂いに、認めざるを得なかった。
これは、
『撮影なんかじゃない...』
その時、少年の後ろに剣を振りかぶる男の姿が見えた。
ダメだ...!
そう思った瞬間にはもう、体が動き出していた。
無意識に握りしめていた剣の感覚で、思い出した。
私は物心ついた頃から運動が得意だ。
でも、特に秀でていたのは、
ーガキィィィンン!!
剣を振るうこと。
「!!」
「なんだお前...!!」
昔、孤児院の近くにあった、現代では珍しい剣術道場に体験に行った時、剣を握ったのは初めてだったはずなのに、自然と体が動き気付いたら塾頭を跪かせていた。
塾頭は是非入門してくれと迫ってきたけど、私は剣を振るっていた間になぜか感じた不快感のせいで、乗り気にはなれなかった。
そして、その不快感は今も変わらず私の中にある。
「っ、死ねぇっ!!」
『...』
斬って、斬って、斬って。
最後の一人を斬り倒した瞬間、アドレナリンが切れ立っていられなくなった。
傾く視界に、堪らず意識を手放した。
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