0.プロローグ
「先生、行ってくるね」
そう言って、人のいる部屋を横切り玄関に向かう。
靴箱から靴を取り出し、履いて紐を結ぶ。
すると、
「あら、もう?」
心配そうな声音が背後から聞こえてきた。
その声の主は、先生もとい、この孤児院の院長だ。
私は生まれてすぐに親に捨てられ、この25年間ずっとこの孤児院でお世話になっている。本当なら18歳で孤児院を出なければいけないが、私は孤児院の仕事を手伝っているからまだここで暮らしている。
当然、ここだけではなく外部の仕事も行い、収入を孤児院に入れている。
「今日はスタントのお仕事?」
『ううん、今日は学校のほう』
私が外部でやっている仕事は、スタントマンと警察学校の体術講師だ。私は幼い頃から運動神経がずば抜けて良く、いろんな大会に出ては優勝を飾ってきた、へへ。
だから体を動かすこの仕事は割と気に入っている。
「昨日も遅くまで仕事してたでしょう?無理は良くないわ」
『このくらい大した事ないよ。先生の苦労に比べたらね』
先生はずっと大勢の子供に囲まれ、休む暇なく世話をしている。
私は、少しでもそれを助けたくて、この孤児院に残った。
『洗濯も掃除も終わってるから、ゆっくりしてよ』
「ありがとう」
『じゃあ、行ってきます』
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
先生の笑顔に見送られる朝が好きだ。
外に出ると、思っていたより日差しが強くて日焼け止めを塗らなかったことを後悔した。
太陽からの熱気を全身で浴びながら、いつもの道を歩く。
少し歩いた先にある交差点の脇、少し古くなったコンビニに入り、水を買う。
「90円です」
『Suicaで』
代わり映えしない店員とのやり取り。
しかし、今日はいつもと違うことがあった。
『外騒がしいな...』
いつも車の通る音くらいしか聞こえないはずの外から、人の騒ぎ声...いや、叫び声のようなものが聞こえていた。
不思議に思い、水を鞄に入れて出入口に向かう。
と、
『え、?』
目の前に現れたトラック。
なぜかその光景はスローモーションで、ゆっくりとトラックが近づいていた。
私は動くことが出来ない。
(あ、死んだ)
そう思った瞬間、急に時間の流れが元に戻る。
と同時に凄まじい衝突音と、体に感じた衝撃によって私は意識を手放した。
ーーー、
ーーーまだ、ダメ
ーーー今度こそ、幸せに
ーーー私の......
to be continue.