表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/320

8話 付き合って初めての電話なんだけど……

「圭介!? 今どこ!? 無事なの!?」


 想像を上回る桜子の心配ぶりに、圭介の方こそ、彼女の身に何かあったのではないかと心配になる。


「心配かけてすまん。けど、たった1日連絡取れなかったくらいで、大げさじゃねえ? 休みに入ってからなんて、1週間以上音沙汰なかったのに」


「もう、何言ってるのよ! 『呪い』のこと、忘れちゃったの? あたしに告白した人、次の日にはみんな連絡取れなくなって、そのまま2度と会えなかったんだよ!」


「あ、そうだった……」


「昨日、メール送ったら届かなかったみたいで、電話かけたら番号が使えなくなってて……あたしがどれだけ不安だったと思ってるのよ」


「ほんと、ごめん」と、圭介の頭は下がった。


「スマホが止められてることに気づいたの、昨日の夕方だったんだ」


「夕方からバイトだって言ってたから、お店の方にも行ってみたんだよ。やめちゃったんだって?」


「やめたっていうか、やめさせられたっていうか……」


「だから、その後、圭介の家に行ったの。そしたら、隣に住んでいるおじさんが、昼間段ボールを運んでいたから、引越ししたんじゃないかって教えてくれて。アパート、建て直しになったんだって?」


「そうなんだけど、まだ引越しはしてねえよ。昨日はゴタゴタしてて、家に帰れなかったんだ」


 桜子の行動力に驚きながら、圭介はありのままの事実を答えた。


「どこで何してるの?」


「どこでって……」と、藤原をチラリと見ると、無言で首を振っていた。


「親戚の家に来てるんだ。いろいろ落ち着くまで、ここにいなくちゃいけなくて」


 藤原の様子を見ていたが、特に電話を取り上げられることはなかった。

 この程度の情報を漏らすことは問題ないらしい。


「親戚って、学費を払ってくれてる人?」

「それとは別の親戚なんだけど」


「もしかして、遠くにいるの……?」と、桜子の声が不安げなものに変わる。


「バカ。都内にいるよ。番号見りゃわかるだろ」


「非通知だからわかるわけないじゃない。危うく電話も取らないところだったわよ」

「あ、そう……」


 非通知にして相手からは連絡が取れないようにしたということだ。

 それに番号から居場所を特定させないために。


 圭介が神泉家とつながりがあることを、今は漏らしたくないらしい。


「圭介、あたし、調べたの。アパートの建て直しを受注したのは四ツ井建託(けんたく)だった。圭介の言う『ゴタゴタ』って、『呪い』に関係あるんじゃないの?」


「……十中八九は」


「なら、どうして一人で抱え込もうとするの? 『呪い』が絡んでいるんだから、あたしにも協力させてよ。あたしは圭介と付き合うことになった時から、圭介に不幸が訪れないように何でもする覚悟でいるんだよ」


 桜子が本気で付き合おうとしてくれていることが、圭介にとって何よりもうれしかった。


(それならなおさら、おれも頑張らなくちゃいけないだろ?)


「今はその気持ちだけ受け取っておいていいか? とりあえず自分の力でやれるところまでやってみたいんだ」


「自分の力って……」


「おまえに守られているばっかじゃ、この先、おまえの相手として誰もおれを認めてくれないような気がして……おれ、言ったよな? おれがおまえのところへたどり着くって。

 これが最初の試練だと思って、頑張ってみたいんだ」


「それがうまくいかなかったら、圭介はどうなるの? 2度と会えなくなったりしない? その可能性がゼロじゃないなら、あたしは納得できないよ」


「心配すんな。自分じゃどうにもならないってとこまで来たら、ちゃんと相談するから。

 別におれのプライドのためにやってるわけじゃねえし、カッコつけてるわけでもねえ。1番大事なのはおまえとこれからも付き合ってくことなんだから、その前提条件だけは何があっても変わりやしねえよ」


「約束できる?」

「ああ、約束」


 桜子のため息が電話の向こうから聞こえたが、それ以上は何も言われなかった。


 納得してくれたのかどうかはわからないが、とりあえずは圭介のやりたいようにさせてくれるということなのだろう。

 本当は『呪い』のことなど気づかせずに問題を処理したかったが、隠しておくことはやはり難しいことだった。


(「心配するな」なんて、おれが言ったところで、結局、心配させるんだろうけど……)


「それで、圭介、いつになったら会えるの?」


「はっきりしたことは言えないけど、この数日が山場だと思う。落ち着いたら真っ先に連絡するから、それまで待っていてくれ」


「……うん、わかった」


 藤原が時間を気にしているのがわかる。そろそろ電話を切らなければならないらしい。


「じゃあ、またな」と、圭介は電話を切って、礼を言いながら電話を藤原に渡した。


 執事というのは個人的な電話の内容を聞いても聞かないフリをするのか。藤原は今の話には何も触れず、ただ「失礼します」と部屋を出て行った。


 とはいえ、圭介はここに軟禁されている身。

 おそらくどんな話をしていたかは、源蔵に伝えられるのだろうと思った。




 桜子への電話の後、部屋にランニングマシーンとエアロバイクが運ばれ、ついでに運動用の上下と靴まで用意された。


 頼んだ手前、使わないわけにはいかず、圭介は午前中を運動に費やした。


 シャワーで汗を流してから昼食、その後は昼寝。


 この夏休み、海に行った以外はほとんど毎日バイトをしていた日々が、ウソのように何の生産性もない『ただの休み』というものになっていた。


 そして、土曜日、日曜日、月曜の昼までそんな風に時間は流れて行った。


***


 さすがの圭介も3日目となると、この幽閉生活に嫌気がさしてきていた。


 執事の藤原も電話を持ってきて以来、姿を見せないし、食事や着替えを運んでくる雪乃は何も知らされていないのか、母親について問いかけても情報は得られない。


 母親の勾留(こうりゅう)期間は今日までのはず。


 今日までに起訴されていなかったら、勾留期間の延長になる。

 それとも圭介の知らないところですでに起訴されていて、保釈手続きを取っているところなのか。


 今現在も母親が留置場にいるのなら、平日の今日、圭介は面会を許されるはずだ。


 圭介はいてもたってもいられなくなり、藤原に電話をかけた。


「はい、藤原です」と、自動音声のような応答がある。


「あの、藤原さんなら知っていますよね。母が今どういう状況にあるのか」

「もちろんでございます」


 あまりにあっさり答えられ、圭介は面喰(めんくら)ってしまった。


「もちろんでございますって……僕には教えてもらえないんですか!?」


「手続きは順調に進んでおりますが、百合子様がお戻りになっていない現在、不確かな情報をお聞かせして、圭介様を(わずら)わせては申し訳ないと思いましたので」


「不確かな情報でも何でも、こっちは知っていたいんですけどー?」と、圭介はむっつりと口を尖らせた。


「百合子様がお戻りになれば、詳しい話をされるでしょうから、もう少々お待ちください」


「少々ってどれくらい? 今日の夕方で勾留期間は終わりのはずですけど」


「ですから、そろそろお戻りになられる頃だと思います。先程、不起訴処分になったと、弁護士から連絡がありましたので」


「……つまり、母は今日中に帰ってくるんですか?」

「その予定でございます」


(だったら、弁護士から連絡があった時点で、おれに言えよ!)


 圭介は怒鳴りつけたいのをこらえて、「なら、いいんですけど」と、電話を切った。


 とにもかくにも、母親は罪に問われることなく、無事に帰ってくるらしい。

 一安心なのは、間違いなかった。

次話でお母さんが帰ってきます。事件の詳細は?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ