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7話 おれはブランド豚か?

本日(2022/09/06)は、三話投稿します。

 まぶしい光に圭介が目を開くと、雪乃が窓際でカーテンを開いていた。


「おはようございます。よくお休みになられましたか?」


 なかなか眠れないと思っていたはずなのに、いつのまにかぐっすりと眠っていたらしい。

 半ば寝すぎてボケっとしていたが、そこが自分の家の狭い4畳半でないことに気づき、一気に目が覚めた。


「……はい。おはようございます」


「朝食の用意ができております。それから、着替えの服も用意させていただきました。サイズが合わないようでしたら、おっしゃってください」


「ありがとうございます」


 圭介はもそもそとベッドを下り、昨夜と同じく窓際のテーブルに用意された朝食の前に座った。

 焼きたてのパンとコーヒーの香りがかぐわしく、食欲をそそる。


「神泉家の朝食は洋食になっております。和食の方がよろしければ変えられますが」

「いえ、大丈夫です」


(ていうか、おれ、そこまで食にこだわりないんだけど……)


 この育ち盛り、お腹いっぱい食べられれば、正直、何でもいい。

 だいたい家では、朝食といったらトーストと牛乳だけ。おかずがあるだけ、すでに贅沢(ぜいたく)だ。


 それにしても、ただの目玉焼きと焼いたベーコンが、しゃれた白い皿に盛られているだけで、高級料理に見えるのが恐ろしい。

 しかも、普通のものよりおいしいと思ってしまう。


(盛り付けのマジックってやつだな)


「雪乃さん、昨夜から母のことについて、何か連絡があったりしませんでしたか?」

「いえ、私の方には。何かわかれば、大旦那様か藤原の方から話があると思いますよ」


「そうですか……。あと、外線をかけたいんですけど。昨日、連絡を取るはずだったのを忘れていて、心配していると思うので」

「お友達ですか?」

「ええと、はい……」


『カノジョ』と言い直すには恥ずかしくて、思わずうなずいてしまった。


(おれみたいなのにカノジョなんているのか? って目で見られそうで……)


「では、食事が終わりましたら、確認してまいりますね。許可が下りましたら、電話をお持ちします」

「よろしくお願いします」


 朝食を終えて雪乃が部屋を出て行ってから、圭介は顔を洗って用意された服に着替えた。


 白のコットンシャツに生成りのパンツは、圭介でも聞いたことのある有名ブランドのタグが付いている――が、それは着ても見えないところについていた。


(せっかくの高い服も、おれが着たところで、ブランド品には見えねえんだろうな)


 なんだか服に着られているような違和感を覚えながらソファに座り、手持ち無沙汰(ぶさた)にテレビをつけた。


(……なんだ、このタイムリーな映像は?)


 朝のワイドショーの時間、真っ先に映ったのは、ブランド豚を飼育している様子だった。

 ブタたちが特別なエサを与えられ、豚小屋の中でひたすらガツガツと食べている。


(おれ、動きもしないで1日3食、このまま食っちゃ寝してたら、3日でデブるじゃねえか!)


 そう思った瞬間、圭介は立ち上がり、部屋の中をぐるぐると速足で歩き始めた。

 せっかくの広い部屋を活用しない手はない。


 ノックの音に返事をすると、藤原が入ってきた。


「圭介様、何をなさっておいでですか?」


 部屋の中を歩いている圭介を見て、藤原はかすかに眉根を寄せた。


「あの、ちょっと運動を……」


「そういうことでしたら、一言お声かけください。いくつか室内マシーンをお運びします。遠慮なさらないようにと申し上げたはずですが」


(それは遠慮じゃねえ! そんなものが運ばれてくるなんて、思いつくはずないだろ!)


 圭介は喉元まで飛び出す言葉を飲み込んで、ニコリと笑顔を向けた。


「ええと、じゃあ、お願いします。1日中部屋に閉じこもってたら、身体がなまりそうなので。そういうものがあると助かります」


「承知いたしました。ところで電話の件ですが、大旦那様に確認しましたところ、私が立ち会うことと、百合子様の件を口にしないことを条件に許可が下りました。いかがされますか?」


(それって、プライバシーの侵害じゃないのか?)


 ――と、言いたいところだったが、とにかく桜子に連絡が取れるのなら、この際どんな条件でもいい。


「それで構いません」


「では、電話をお持ちしますので、少々お待ちください」

「あと、預けた携帯も持ってきてもらえますか? 番号がその中に入っているので」

「かしこまりました」


 藤原が軽く頭を下げて出ていった後、やはり鍵の閉まる音がする。

 ほんのわずかな時間でも、この部屋の扉が開きっぱなしになることはないらしい。


(なんか、徹底してるよな……)


 圭介はため息をつきながらソファに再び座ると、藤原が戻ってくるのを待った。




 戻ってきた藤原の手にはお盆が乗せられ、その上に電話の子機と圭介のスマホが乗せられていた。


(物を持ってくる時に、手づかみってことはないのか?)


 圭介はそんなことを思いながら、「どうも」と受け取って桜子に電話をかけた。

 『一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)、見逃しません』と言わんばかりの藤原の視線がやたら気になる――が、仕方ない。


「もしもし」と応答した桜子の声は、知らない番号が通知されているせいか、どこかよそよそしかった。


「おれ、圭介だけど」と、名乗った直後、受話器から悲鳴にも似た叫び声が聞こえてきた。

次話、電話のつながった桜子との話になります。

よろしければ、続けてどうぞ!

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