18話 ついに契約破棄
圭介視点になります。
桜子を駅まで送って家に戻る間中、圭介は頭がほんわかとしていて、顔がゆるみまくって仕方がなかった。
バイトが休みの月曜日は、初デート。
そんな約束をして、桜子が駅の改札をくぐった後もその姿を見送った。
彼女が何度か振り返って手を振るので、完全に姿が見えなくなるまで圭介もそれに応える。
こういう恋人らしいことがどれも初めての経験で、こんなにも心が浮き立つものだとは知らなかった。
(初デート、どこがいいかな。やっぱり夏だし、プールとか?)
海ではチラ見しかできなかった桜子の水着姿を、今度は『カノジョ』としてまじまじ見ることが許される。
プールでキャッキャウフフしながら、肌と肌の接触も可能。
うっかりを装って胸や尻なんかを触ってしまっても、怒られることはないかもしれない。
「もう、どこ触ってるの?」なんて、恥ずかしそうな顔をする桜子を思い浮かべて、ゆるんだ顔がさらにデレていく。
(ヤバい、妄想が止まらなくなってる……!)
そんなわけで、不審者に間違われてもおかしくないレベルの帰り道となったが、誰もいない家に入った頃には少し頭が冷えていた。
この幸せボケに浸っていたくても、貴頼のことを思い出さずにはいられない。
夏休みに入って、監視業務からは解放されていたので、貴頼と連絡を取り合うこともなかったが、桜子と付き合うようになったことは、さすがに報告しないわけにはいかない。
もっとも、この休み中も桜子は監視されていて、貴頼がすでに知っている可能性はあるが。
貴頼は『呪い』の元凶。
早くも『藍田家の使い』が圭介のもとにやってくるのか。
しかし、今までのケースと違って、圭介は桜子に返事をもらっている。
桜子と付き合えるようになったというのに、大金を積まれてあきらめる男がいるとは思えない。
よほど金に困っていれば話は別だろうが、圭介の場合、必要な金は学費のみで、それも桜子と同じ学校に通っていたいからという理由。
そこで金をちらつかせる意味はない。
貴頼がそんなバカな金の使い方をするとも思えない。
ならば、羽柴蓮の時のように後ろ暗い事実を突き付けて、桜子に幻滅させるという方法を取るのか。
今のところ圭介には身に覚えがないが、あらさがしをされたら、桜子の気に入らない何かが出てくるかもしれない。
そんなものを突き付けられたら、桜子の気持ちが離れないとも限らない。
桜子に好きだと言われ、すっかり浮かれていたが、改めて思い返してみると、彼女がどうして自分を好きになったのか、さっぱりわからなかった。
圭介より金も地位も名誉もある男などいくらでもいる。
実際、桜子の周りにはそんな男が掃いて捨てるほどいるのだ。
外見にしてみても、好みはあるのかもしれないが、街で芸能界にスカウトされるような容姿までは持っていない。
カノジョいない歴16年。
中学時代は片思いに終わり、今さらながら将来性があるとカン違いされて、寄ってくる女が一人。
保育園時代に好きだったという女が、最近になって発掘。
以上。
(おれ、ナイナイだらけじゃねえ……? おれが女だったら、こんな男、全然興味ないぞ)
桜子があまりに『呪い』に悩まされたせいで、男を見る目がおかしくなってしまったのではないかと不安になってくる。
いつか桜子がそのことに気づいて、『圭介、ごめんねー。あたし、何かカン違いしてたみたい』と、あっさりフラれそうだ。
貴頼にしてみても、桜子と付き合うようになったと聞いたところで、圭介のような男では何の脅威にもならないのかもしれない。
つまり、ムダな金を使うことなく、放置される可能性大。
(これから頑張るって言っても、ほんと、今のおれには何にもないんだもんな……)
そんなことを考えながら、貴頼に夏休みに入って初めてのメールを送った。
『桜子と付き合うようになったから、契約は破棄させてもらう』
貴頼からの返事は、定期連絡と同じく『了解』の一言だった――。
この話を持って、長い第2章が完結となりました。
読んでくださる皆様には感謝しかありません。
次話からは【第3章 『呪い』は全力で回避します。】がスタートします。
ようやく付き合いの始まったばかりの圭介にどんな『呪い』が降りかかるのか。
いよいよ貴頼の意図が見えてくる第3章、急展開をどうぞお楽しみに!
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