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14話 理性、ぶっとびそう

 圭介としてはいつまでも桜子を抱きしめていたいところだったが、さらに激しくなる雨の中、こんなファミレスの前に居続けるわけにはいかない。

 名残惜しくも腕の力を抜いて、桜子の身体を離した。


「……うち、すぐそこだから、乾かしていくか? そのままじゃ、電車に乗れないだろ?」


 圭介の問いかけに、桜子がピクリと身体を震わせる。


「ええと、うん……」

「心配すんな。何にもしやしねえよ。ほら、行くぞ」


 圭介は桜子の返事を待たずに手を取って、雨の中を駆けだした。


 前にも桜子と手をつないで走ったことを思い出す。

 船の上でライバル二人の前から桜子をかっさらって、夢中で逃げた。


 あの時も告白しようとして、結局できなかった。


(おれ、いったい何度チャンスを逃してきたんだ……?)


 桜子がいつから自分のことを好きだったのかはわからないが、もっと早く好きだと告げていたら、ムダに落ち込むこともなかった。

 そう思うと、今さらながら悔やまれる。


(いや、でも、こんなことが現実に起こるなんて、普通は想像できないだろ!?)


 これが夢の中の出来事だという方が、納得してしまいそうな自分がいた。

 つないだ手の感触はあるのに、振り返ったら桜子が消えてしまうような気がして、怖くて振り返れない。

 そのまま圭介のアパートまで一気に駆け抜けて、外階段を上り、家の前でようやく振り返ることができた。


 息を切らせた桜子が目の前にいることに、心底安心する。


(夢、じゃないんだよな……)


「おれんち、ここ」


 鍵を開けて中に入ると、桜子を玄関に残し、風呂場からタオルを取ってきて渡した。


「ありがとう」と、桜子はタオルを頭からかぶって、髪を拭く。


「身体冷えてるなら、風呂入るか? すぐに入れるけど」


「ううん、大丈夫。シャワーだけ貸してもらえれば。足がドロドロになっちゃったから、洗わせてもらっていい?」


 桜子はそう言いながら、サンダルの片足を軽く上げて見せた。


「風呂場、こっち。ドライヤーとか適当に使って。服は乾燥機に入れれば、すぐに乾くだろ」

「うん」


 桜子が風呂場に消えるのを待って、圭介もタオルで頭を拭きながら自分の部屋に入って、濡れた服を着替えた。


 窓の外の雨音に混じって、遠くから乾燥機の回る音とシャワーの水音が聞こえてくる。

 母親が仕事に出かけているこの時間、家の中には桜子と二人きり。

 そんなことを急に意識して、胸がドキドキとしてくる。


(ヤバい……)


 桜子をここに連れてきた時は、何の下心もなかったはずだが、頭が変に暴走し始めている。

 それを抑えてなんとか理性を保ちながらタンスの扉を開き、桜子が着られそうな服を探した。


 ――はずなのに、手に取ったTシャツを見て、ノーブラでそれを身に着ける桜子を想像して逆効果。

 だったら、シャツの方がいいのか。

 しかし、思い浮かべるのは、ボタンを途中までかけずにのぞかせる胸の谷間。


(マジでヤバい! 頭がとんでもないことばっか、考えやがる!)


「圭介? ここにいたんだ」


 突然の桜子の声に、圭介は手にしていたいくつかの服を思わずぶちまけていた。


「お、おう」


「ここが圭介の部屋? 男の子の部屋って初めてかも」


 振り返ると、バスタオルを身体に巻き付けた桜子が興味深そうに辺りを見回しながら、部屋に入ってくるところだった。


 旅行中、桜子の水着姿は見慣れていたはず。

 バスタオルの方がよほど隠す面積が多いというのに、結び目一つで保たれるその形状があまりに危うく、タオルの裾から見えそうで見えないギリギリのラインが刺激的すぎた。


「服を乾かしてる間、着られる服を探してたんだけど……」


 直視に耐えられず、圭介は回れ右をしてタンスに向き直った。


「気にしなくていいよ。じきに乾くだろうし」


(おれが気になるんだってば!)


「せめて、なんか羽織るものでもあったほうがいいだろ。カゼひくぞ」


 頭が空回りして、わけがわからなくなってくる中、圭介はようやくハンガーにかかったパーカーにたどり着いた。


 と同時に、ドンとぶつかるように後ろから桜子に抱きしめられた。


「それなら、圭介があっためてよ」


 同時にパサリという衣擦(きぬず)れの音に足元を見ると、桜子が巻いていたはずのバスタオルが落ちている。


(てことは、桜子は今……。ああ、もう、無理、限界。理性もここまでっ)

次話もこの場面が続きます。

家の中に二人きり。今度こそ何か起こるのか?

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