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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第2章-3 『友達』返上、まずは告白してみます。~トライアル編~

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9話 どっちかしか選べないなら

「あたしなら、圭介くんを特別な一人にできるよ」


 圭介の狂わされた頭の中に、茜の甘い言葉だけが響いてくる。


「桜子には圭介くんがあたしの初恋の人だって話したの。桜子が協力するって言ってくれたのは、あたしと圭介くんが付き合ったら幸せになれるって、桜子は思ったからなんだよ」

 

 ささやきとともに寄せられる唇、頬にかかる吐息を感じながら、圭介はどうしてか茜の言葉に疑問を抱いた。

 その小さな疑問が、本能に支配された脳の中にわずかな理性を取り戻してくれる。


「茜にとっても、おれは大勢の中の一人だろ? おれが初恋の相手だったとしても、今のおまえは一度おれとヤったら興味をなくすんじゃないか?」


 一度呼び起こされた理性は、頭の中の霧を一瞬にして追い払った。

 同時に茜の動きも止まり、その表情が強張るのがわかる。


「……なんで、そんなこと言うの?」


「同室の男たちが言ってた。茜がモテない童貞男専門だって。確かにおまえみたいな美人がそんな身体で迫ってきたら、普通の男なら簡単に落ちるよな。

 けど、バカだな。なんで、おれなんだよ? カノジョがいる奴や好きな女がいる男は誘わないんだろ?

 それはおまえの思い通りにならないって、おまえが1番よくわかってるからじゃないのか?」


「……だって、圭介くんは特別だって言ったでしょ」


 茜の声がかすれていることに気づいた時、圭介の頬にパタパタとしずくが滴り落ちてきた。


(泣いてる……?)


 泣かせるほどのひどいことを言ったつもりはなかった。

 とてもではないが、ウソ泣きにも見えない。

 どうも圭介の意図しないところで、茜の心の琴線に触れることを言ってしまったらしい。


「特別って、初恋の相手だからか?」

「……それだけじゃない。もう1度、あの頃のきれいな自分に戻れるんじゃないかって……」


 茜がもう1度やり直したいと言っていたことを思い出す。

 もう1度やり直したいのは圭介との関係ではなく、自分の人生のことだったのか。

 今、泣くほどに後悔する何かがあったとしか思えない。


「何かあったのか……?」


 圭介は茜を押し戻しながら身体を起こし、涙を落としている彼女の顔を改めて見た。


 ――と、同時に、パキリと小枝のようなものが折れる音が聞こえてきた。


 それは夜のしじまに異様なほど大きく響いて、圭介ははっと振り返った。

 少し離れた木陰に人影がある。

 ホテルからもれる薄暗い明かりの中でも、桜子だということはすぐにわかった。


(いつからいた……?)


「ご、ごめん。(のぞ)くつもりはなかったんだけど、たまたま通りがかって……」


 桜子は困ったようにかすかに笑うと、身をひるがえして去って行ってしまった。


 はたから見れば、圭介はビーチベンチで茜と抱き合う形になっていた。

 そんな圭介を見て、桜子はどう思ったのか。

 弁解の余地があるのかどうか計り知れなかったが、このまま桜子に誤解させたままにしておくわけにはいかない。


「ちょ……待て!」


 圭介は茜を突き放してベンチから飛び降りたが、茜に腕を取られて無理やり引き戻された。


「行かないで! 一人にしないで……!」


 茜の涙まじりの悲痛な叫びを聞いて、圭介は動けなくなってしまった。


 茜にはつらい過去があるに違いない。

 それを思い出させ、話のきっかけを作ったのは他でもない圭介だった。

 こういう時は、最後まで話を聞いてやらなくてはならないと思う。


(桜子なら、あとで話せばわかってくれるよな……?)


 圭介は束の間、桜子の去っていった方向と、泣きじゃくっている茜を見比べ、それからベンチにもう1度腰を下ろした。


「わかった。一緒にいてやる。だから、思ってることは全部吐き出して楽になれ」


 今すぐ桜子を追いかけないことを、茜を優先したことを後悔するかもしれないと思いながらも、圭介はこうすることしか選べなかった。

次回は茜の打ち明け話になります。

あまりシリアスになりすぎないように、気を付けますが……

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― 新着の感想 ―
[良い点] えぇ~っ!?これ、桜子さんの方を追いかけなくていいのっ!?(;゜Д゜) 優しいのは圭介くんのいいとこだけど、一番大切にしなきゃいけないのは茜ちゃんじゃなく桜子さんでしょう!?(;゜Д゜)
[一言] いつも楽しく読ませて頂いてます。ここまで読んで登場する人たち皆んな好きなんですけど、なんだかんだで薫子ちゃんが一番好きなキャラなのは仕方のない事なんですよね。って気持ちでいっぱいですw 今後…
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